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【“テクノロジーと障害者”ロサンゼルス国際会議レポートVol.3】学習障害(LD)の人のためのアシスティブ技術や、電話の発信音を利用してウェブを読み上げるツールなどを紹介

2000年04月07日 00時00分更新

文● 岡部一明

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3月20日から25日、ロサンゼルスで、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(California State University, Northridge:CSUN)主催による“テクノロジーと障害者”国際会議が開かれた。今年第15回目になるこの会議は、障害者とコンピューター技術に関する会議として世界最大のイベントである。引き続き、米国在住のジャーナリストである岡部一明氏が報告する。

障害者の積極的な参加が特徴

分科会で活発な議事進行をしている男性がいた。会場からの難問珍問を巧みにさばき、自分でも的確な解説を加える。休憩時間にインタビューしようと話し掛けたら、まっすぐこちらを見てくれない。そこで初めて目の不自由な人だと分かった。 

「私たちの会議は障害者自身が積極に参加することに力を入れており、それがこの会議の特徴です。障害者、障害者の親などに資金援助(奨学金)をお願いし、会議参加を促します」と会議組織者の前出ジョディー・ウィリアムズ氏は語る。参加者の何パーセントが障害者か聞くと、「ウーン、正確な統計はとっていませんが、たぶん30パーセントくらいでしょう」との返事。愚問だった。障害者であるか否かなど関係なく皆対等に参加し、議論する雰囲気があった。

障害者も健常者も対等に参加(展示会場)
障害者も健常者も対等に参加(展示会場)



DAISY--デジタル版“話す本”のためのソフト開発

会議のテーマでもう1つ力が入っていたのはデジタル音声情報システム(DAISY)である。DAISYは次世代音声データ記録再生技術の国際標準。その推進母体である“DAISYコンソーシアム”が3月22日に連続して5つの分科会を開いた。目の不自由な人(特に点字が苦手な中途失明者)にとって、本や雑誌をテープで聞けるのはとても大切だ。しかし、テープの場合、目的のところまで行くのに早送りや巻き戻しを繰り返すことになり、非常に手間のかかる作業になってしまう。

一方、CDのデジタル録音図書なら目次などから目的箇所に簡単にアクセスできる。そうしたデジタル録音再生技術の仕様がDAISYであり、'97年の国際図書館連盟(IFLA*)の大会で国際標準規格に決定された。

*IFLA:図書館の国際団体。同団体の中には、視覚障害者サービスを担当するセクションと、そのほかのハンディキャップを持つ利用者を対象とするセクションがある

DAISY仕様のソフトの解説をする河村宏氏DAISY仕様のソフトの解説をする河村宏氏



“シグツナ・プロジェクトと開発途上国のためのDAISY国際協力”の分科会を担当したのは(財)日本障害者リハビリテーション協会の河村宏氏。河村氏は以前IFLAの盲人図書館部会長をつとめ、DAISYの国際標準化に主導的な役割を果たした。日本の企業や政府の協力も大きく、DAISYはかなりの程度日本からの主導で生まれた国際標準とされ、興味深い事例だ。

分科会では、開発中の録音図書作成ソフト『シグツナ・レコーダー』のデモも行なわれた。大きなスクリーンに(英語の)文章が出ると明晰な発音で“朗読の声”が流れる。デジタル録音図書といってもコンピューター合成音ではない。人間の声がデジタル録音されているのだ。視覚障害者でなくとも、こういうほれぼれした音声で本を鑑賞したいと思う。レコーダーソフトを使えば、文章と声をワープロのようにフレーズ単位で切り張り、挿入などをして編集できる。そのほか、音声情報としてウェブを閲覧できる『シグツナ・ブラウザー』、電話の発信音で操作してウェブを音声情報として聞ける『シグツナ電話ブラウザー』が紹介された。これも障害者でなくとも喜ばれそうなツールだ。

会場から、これらツールは音声認識(音声による入力)ソフトと連動していないのかとの質問があり、河村氏が「現在は連係してないが、その方向を考えている」と応える一幕があった。音声認識も今回の会場で注目を浴びた技術の1つで、そのテーマで様々な分科会が開かれた。それ以外の分科会でもこうして話題に上ることが多かった。

メトロプレックス音声コンピューティング社が開いた音声認識を使った算数教育ソフトの分科会。特定分野にしぼった音声認識アプリケーションはかなりの実用性がでてきたようだ
メトロプレックス音声コンピューティング社が開いた音声認識を使った算数教育ソフトの分科会。特定分野にしぼった音声認識アプリケーションはかなりの実用性がでてきたようだ



最後に河村氏は、日本障害者リハビリテーション協会がタイなどで行なっているDAISY普及活動を紹介し、開発途上国を支援していく必要を訴えた。「DAISYは開発途上国の障害者の支援にもなります。当初、開発途上国でのプロジェクトをはじめた時、貧しい国ではインターネットやマルチメディアなどのハイテクは無理、と言われましたが、現場での実際の反応は違いました。操作能力も簡単に身につけてくれました。DAISYは貧しい国でも導入できる低コストの技術です」と語った。

学習障害関連の分科会も多数開催

「お酒でも飲んだの? 夜遅くまで起きていたのでしょう、などど先生に言われてい
ました」、「文章を読むのに問題があって、個々の文字に注意しすぎて文章全体が分からなくなってしまうのです」--。

学習障害者の技術利用を解説するリー氏(左)とフィリップ氏(右)
学習障害者の技術利用を解説するリー氏(左)とフィリップ氏(右)



日本ではまだなじみの薄い学習障害(LD)関連の分科会も多数開かれていた。開会総会のすぐ後に開かれた“LDの人のためのアシスティブ技術”分科会では、ジョージア州から来たクリストファー・リー氏とキャロライン・フィリップ氏が、学習障害者として自らの体験を報告。この障害について認識を深めることの重要性を説いた。

「自分の障害を皆に知ってもらうセルフ・アドボカシー(self advocacy:自己弁護)が大切です。どんなに技術をそろえても、ほかの人があなたの問題を理解してくれなかったらコミュニケーションは成立しません。多くの人が、私たちの障害を教育の問題、あるいは知能の問題と誤解しています」とリー氏。

ともに学習障害者である2氏は、現在、障害者アシスティブ技術促進の団体“生活のためのツール”で働いている。彼らはとても快活で早口。言葉を受けて返しての見事な連係プレーで、学習障害の実際、支援技術のあり方を説明していく。米国では学習障害に対する認識は高く、大学などでも学習障害用の特別の支援カリキュラムをつくることが法律で義務づけられている。リー氏、フィリップ氏たちもこうした支援体制のもとで大学まで進み、専門的仕事に就くことができた。

「今、様々な障害をもった人たちと一緒に仕事できるのはとても素晴らしいです。彼らとのコミュニケーションは、何か言える、書ける、スペルを間違えないというレベル以上のところで成立するからです」とフィリップ氏。

分科会の後半は、技術の紹介や参加者の間での情報交換が行なわれた。「そのソフトもいいが、私はこのソフトで成果をあげている」など情報交換が進む。学習障害の支援技術は必ずしも特別のものがあるとは限らず、通常の学習ソフトを障害の特徴に合わせながら使うことが多い。例えば、字を書くのが困難な人にはワープロやスペルチェックでも支援技術になる。文に色をつけるマーカー、しおり、参照資料固定ボード、そのほか単純な文房具を効果的に使うことも大切だ報告者たちは強調する。会議全体で言えることだが、ハイテクばかりに注目しないで、単純でも適切なツールを利用する姿勢を重視する基本的了解があった。

学習障害で使われるソフトは巨大なマーケットになりつつある
学習障害で使われるソフトは巨大なマーケットになりつつある



学習障害がいつごろからこの会議で取り上げられるようになったか、リー氏に聞くと、即座に「最初の会議からです」という答が返ってきた。会議主催者のCSUNは特に学習障害に熱心で、'86年(第1回会議の翌年)に学内に学習障害支援プログラムを設置している。現在、同校障害者センターに属する約1000人の障害者学生の半数が学習障害者だ。最も急成長している分野という。

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