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行政サービスを変える空間データを、どのように扱えばよいか?――第2回次世代データベースとGIS・インターネットシンポジウム(後編)より

2000年03月23日 00時00分更新

文● 正月孝広 

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14日、コミュニティープラザ大阪において、関西データベース協議会の主催で開かれた“第2回次世代データベースとGIS・インターネットシンポジウム”。本稿では、シンポジウムの最後に行なわれたパネルディスカッションの模様を報告する。

テーマは“電子政府と空間データ”。コーディネーターに神戸大学の都市安全センター都市情報システム分野講師、角谷和俊氏を迎えてのセッションである。

コミュニティープラザ大阪。落ち着きのある会場
コミュニティープラザ大阪。落ち着きのある会場



角谷氏のコーディネートにより4名のパネリストが紹介された。国土空間データ基盤推進協議会の事務局代行、今井修氏。建設省の国土地理院企画部地理情報システム推進室長、村上広史氏。通商産業省の機械情報産業局情報処理システム開発課課長補佐、渡邊昇治氏。そして最後に、神戸大学大学院の自然科学研究科教授、田中克己氏である。

今回のテーマ“電子政府”とは、昨年の12月に閣議決定されたミレニアムプロジェクトの格子の1つで、2005年までにインターネットを利用したペーパーレス行政などの基盤を整えるというものである。つまり電子政府とは非常に近接した未来の話である。その中で空間データをどのように展開していくかがディスカッションの焦点となった。

左から通商産業省の機械情報産業局情報処理システム開発課課長補佐、渡邊昇治氏。建設省の国土地理院企画部地理情報システム推進室長、村上広史氏。国土空間データ基盤推進協議会事務局代行、今井修氏
左から通商産業省の機械情報産業局情報処理システム開発課課長補佐、渡邊昇治氏。建設省の国土地理院企画部地理情報システム推進室長、村上広史氏。国土空間データ基盤推進協議会事務局代行、今井修氏



空間データの線引きをどうするか? 作り込まず修正を加えられる柔軟性

まず、空間データに関して4名のパネリストが意見を述べた。

今井氏は空間データを取り扱う組織、つまり国や自治体、民間、住民、教育研究機関などには、マップとして共通に扱かえる土台が必要であると強調した。その土台上で、生活や政策といった情報を、基礎や専門というレベルごとにフィルタリングし、場所データを中心に展開していく必要がある。

また北米の政策の例を踏まえ、完璧なものを仕上げるために何年も時間を掛けるのではなく、現在できる範囲までのものを制作することが大切だとした。北米にように今すぐに活用できる即応性や、適宜修正を加えていく柔軟性が日本にも必要であるとした。

田中氏は、これまでに手掛けた大阪南港コスモスクエアの空間データを紹介しながら具体的な問題点を指摘した。その中で特に大切なのは“範囲”いわゆる“空間データの線引き”である。どのような利用目的なのか、どのような情報が必要なのか、今後どのように修正されるのかなど、データの範囲を見極めることが大切である。従ってあまり細かく作り込まない、別の表現では閉じない方向でシステムを設計しなければならないという。

また、データ統合の手段はウェブが一番よいと断言した。柔軟性の高いウェブで利用できるようにすることが1つの回答であるという。そのためにもバランスの取れた仕組みを構築する必要があると語った。

サービスも向上し、減税も可能に。一方でデジタルデバイドの問題も

村上氏は、GIS導入にあたり人材教育など足下を見ることが大切であるという。あまりにも早く推し進めると、デジタルデバイド(情報弱者)が増え、摩擦が生じるのでは?と危惧する。

それらの問題を回避するためにも、導入コストを抑えて負担を軽くすることや、運用ノウハウを確立すること、経験を共有する手段を探ることなど、人的要因の問題点を考える必要がある。行政における実用化には時間が掛かるので、地道に成功事例を積み上げていくことが大切と指摘した。

渡邊氏は電子政府の効率化、サービスの向上に着目した。電子化が進むと入転居の度にそれぞれの役所に足を運んでいる現在の状況から、ネット上で本人確認などを行ない、データだけを書き換えれば済むようになる。複数の役所に足を運ぶ必要のないワンストップサービスを実現できるようになるという。

しかし、このように直接的に受けるサービスよりも、間接的に受けるサービスの方が大切という。作業効率向上による経費削減により減税が可能となるからである。もちろん電子署名や本人認証、電子保存などの技術的裏付けは確立されていなければならない。また成功したビジネスモデルを早く出すことも重要と付け加えた。

カーナビの成功でも分かるように、空間データは、今後重要なキーテクノロジーとなる。行政、民間、研究機関などでいち早く枠づくりに対応し、確立していかなければならない。
バランスよくかつ素早くというポイントで、空間データを取り扱おうとしていることが、パネリストの共通の視点であった。

左から神戸大学の都市安全センター都市情報システム分野講師、角谷和俊氏。神戸大学大学院の自然科学研究科教授、田中克己氏
左から神戸大学の都市安全センター都市情報システム分野講師、角谷和俊氏。神戸大学大学院の自然科学研究科教授、田中克己氏

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