IT関連企業64社が参加する会員制組織“モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)”は16日、“ビジネスモデル特許*とコンテンツ配信”セミナーを開催した。ここでは「毎日10件以上、iモードがらみの特許の相談がくる」という松倉秀実弁理士の講演“ビジネスモデル特許の実態とその対応”を紹介する。
*ビジネスの手順とソフトウェアとが不可分、一体になっているもの。仕事の手順として、今までも容易に想像できた抽象的アイデアをシステムに組み込み、新しい技術的システムとして申請した特許。プライスライン特許(USP
5794207)、amazon.comの1クリック特許(USP 5960411)など。○○を満たすシステムと言いながら、実際には手順をそのまま特許にしただけのものもあり、議論となっている
モバイル機器の評論でパソコン誌に登場することもある松倉氏だが、今回講演を引き受けた1つの背景には、「モバイル機器の周辺にはビジネスモデル特許の要素がたくさんあるから」という。
松倉氏が手にしているのは、シャープ(株)が今月発売したばかりのテリオス『HC-VJ1C』 |
松倉氏がここで紹介した、主な特許要件は(1)産業上利用できる発明であること(特許法第29条柱書き)、(2)新規性があること(第29条第1項)、(3)進歩性があること(第29条第2項)--。
「例えば、コンパクトHTMLで使用されている“Phone to”タグとか、メールのフィルタリング機能とか、今から申請しようと思っても“新規性”という特許要件からはずれてしまうのですが、特許取得の可能性は十分あったでしょう。“iモードだから、こういう効果があった/こうできた”これが特許です」
「私のところにきている相談は、特許要件の“進歩性”を満たしていないことが多い。1+1=2以上の効果がなければだめなのです」
「これからビジネスモデル特許の取得を考えるのであれば、“この次にどんなものがインフラ/デファクトになるか、それで何ができるか”ということを考えなければなりません。そう考えると今後は、『PlayStation
2』と“インターネット常時接続”、このあたりで何かチャンスがあるはずです」
“ビジネスモデル特許を持っていることは認めてください。でも、ライセンス料は安く抑えてあります”
続いて松倉氏は、内外のビジネスモデル特許の実例を説明した。アメリカはこれまで特許重視政策を行なっているが、ビジネスモデル特許に対する市場の評価は、いまだ流動的であるという。「先に日本経済新聞で報道されたように、ビジネスモデル特許の先駆的企業である米アマゾン・ドット・コム社の経営者が特許権の制限を言い出すなど、米国内ではその見直しを求める動きもあります。特許はこれまで、技術者がその半生をかけて作った技術が得ていました。それなのに、数日のうちに頭の中で考えたようなビジネスモデル特許で巨万の富を得ようとすることは、ヒューマニティーが欠けている気がします」
「今後は“このビジネスモデル特許を持っていることを認めてください。でも、ライセンス料は安く抑えてあります”という方向が妥当なのかもしれません。自由競争の中で、お互いに特許の価値を判断して、その中身を吟味・検証して行く必要があります」
フォーラム会場より |
ある日突然、警告状が届いたらどうするか
続いて松倉氏は、GIFの取り扱いをめぐる問題*など、インターネットビジネスを行なう企業は、自分達がいかに危うい状態でビジネスをしているということを認識するべきと続けてた。*米ユニシス社が圧縮形式のGIFで使われているLZW圧縮伸張アルゴリズムの特許を取得している
「もちろん特許を取っていくことは、日本企業にとって大命題です。ここで一番気を付けなければいけないのは、やはりアメリカの動きでしょう。司法でリベラルなアメリカは、かなり広い範囲でビジネスモデル特許を認めています」
「例えば、こんな危険もあります。COMドメインでサービスを行なっている日本企業がたくさんありますが、このCOMドメインを管理しているNetwork Information Centerの拠点は、アメリカです。これを理由に、例え日本人向けのサービスであっても、COMドメインのサイトで展開している以上、そのサービスやシステムがアメリカで取得されたビジネスモデル特許に触れているということで、アメリカの法廷に持ちこまれる可能性もあります」
「ある日突然、警告状が届いたらどうするか。まずは、検証や周辺調査を行なうことです。過去に発表された製品の新聞記事など、新規性や進歩性といった特許要件の欠如を証明するような文献が見つかれば、潰すことはできなくても、値切り交渉には持ち込めるかもしれません。警告状を送ってきた企業が、直接競合する製品を出しているライバル社でなければ、お金、ビジネスの話がほとんどです。大切なのは、特許を財産的価値から評価する目を持つということです」