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【秋葉原TV 2 Vol.1】アートと電脳を融合するビデオインスタレーション“秋葉原TV 2”グレードアップして帰ってきた

2000年03月22日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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1年前、世界最大の電気街、秋葉原を舞台に繰り広げられ、内外に反響を引き起こした、アートと電脳を融合する実験的美術展“akihabara TV(秋葉原TV)”が帰ってきた。今年の“秋葉原TV 2”は、昨年より規模も内容もグレードアップした。16日より開幕、各電気店の店頭にあるディスプレーを使った作品の上映や、アーティストによるパフォーマンスなど、さまざまな表現手段で、29日まで秋葉原をアートの街に変貌させる。

“秋葉原TV 2”(第2回国際シティビデオインスタレーション秋葉原TV)は、秋葉原電気街の各電気店をステージに、有名無名を問わず興味深い活動を続ける国内外の現代美術作家の映像作品を上映する、ビデオアートの現代美術展だ。

さまざまな最新鋭のテクノロジーがあふれる秋葉原の街。その各所に好奇心にあふれ、エンターテインメント性を内包した作品群が散りばめられる。そして、街を訪れた人は刺激を受け、自分の感覚で何かを発見するという、街と人の魅力を導き出すインタラクティブなプログラムだ。

参加作家は12ヵ国、34作家に増殖

第2回目となる秋葉原TVだが、今回は作家の人数、参加国とも増えており、より幅広い層のアーティストが集っている。アーティストは、この展覧会のために短編作品(いずれも1分以内)を制作しており、これらの作品を1本のビデオテープに編集した“秋葉原TVプログラム”が上映されている。少し足を止めて見ていれば、次から次へとさまざまなビジュアルイメージがモ二ターに展開されることになるわけだ。

主な出展作品には、秋葉原TVを主催するコマンドNのリーダー、中村政人氏による自分への拍手をする他者の姿から自己を見い出すという『7%』をはじめ、“ポストペットの生みの親”として知られるメディアアーティスト、八谷和彦氏の作品(ポストペット)などがある。これは、同氏の作品をお客さんに届けてくれる人たちに「ありがとう」を言ってまわる『ありがとう』という作品。デジタルネンドの開発やマルチメディア、現代美術の批評で知られる中ザワヒデキ氏は、さんずい、水偏、魚偏の漢字やひらがなを多用して海面のきらめきを表現した『二三字三九行の動的文字座標型絵画第三番』などを出品している。

また、海外作家も昨年の参加作家を中心に多数参加している。東京在住のピーター・ベラーズ氏(UK)の『クロース・トゥ・ミー』は、氾濫するCMアイドルのイメージがテーマ、アレスデール・ダンカン氏(UK)は、高知ヤクザをモチーフにした新キャラクターのヤクザアーティストが街行く人にまくし立てる『轟四郎 芸術家』を出品している。

秋葉原TVの傾向として、ビデオ映像を使ったアナログ作品が主流を占めている。しかし、今年は√R(JAPAN)の鏡の鎧を着た犬(豚?)、“ジャック”が秋葉原の街を疾走する『reflect』や、分子のフラクタルな動きを表現したグレゴリー・マース氏(GERMAN)の『RBF~バックミンスター・フラー氏に捧ぐ』など昨年の参加作家に加え、CGの怪物がコミカルに暴れ回るイアン・ヘイグ氏(AUSTRALIA)の『ヒューマン・マシーン・メルトダウン』や、デジタルハリウッド研究所の卒業生、渡部将之氏の人間竹トンボ、『HOT GUY』など、全編CGの作品も増える傾向にある。

街づくりハウス“アキバ”に設置されたビデオギャラリー。さまざまなタイプのディスプレーに作品が映し出されている。作品はイアン・ヘイグ氏(AUSTRALIA)の『ヒューマン・マシーン・メルトダウン』
街づくりハウス“アキバ”に設置されたビデオギャラリー。さまざまなタイプのディスプレーに作品が映し出されている。作品はイアン・ヘイグ氏(AUSTRALIA)の『ヒューマン・マシーン・メルトダウン』



このように傾向、年代、国籍、キャリア、どれ1つ取っても異なる作家たちに共通するポイントは、“秋葉原”というキーワードだ。コマンドNによれば、作家の参加資格は、「秋葉原が好きであること」という。そうした作家自身が秋葉原を通じて得たメッセージを、秋葉原の街を行く人々に対してダイレクトに語り掛けるのが、秋葉原TVのねらいというわけだ。なお、作品については、“秋葉原TVオフィシャルサイト”に詳しい。

上映用のメディアに“DVD”を採用

基本的な展示スタイルは昨年と変わりがないものの、今回はさらに新要素が加わった充実した展開となっている。まず、上映のスタイルに変化が出てきた。これは店頭で上映する際のメディアの変化が大きな要因となっている。

昨年は文字通りビデオテープを使っての上映だったが、今年はそのほとんどに“DVD”をメディアとして使っており、テクノロジー部分で大きな進歩となっている。DVDを使うことにより、画質、音質の向上はもちろん、上映の際の手間を減らせる。店頭での扱い方や店側の対応に配慮する形になっているのである。さらに秋葉原電気振興会の協力と、主催しているコマンドNのスタッフによる熱心な渉外活動も相まって、上映するモニターの数は、昨年の倍に近い740台にまで膨れあがっている。

ビデオギャラリーではポータブルDVDプレイヤーを使い、個々に視聴することができる。作品はパルコキノシタ氏(JAPAN)の『キンアカサークル』。なお、同DVDソフトは同ギャラリーにおいて販売
ビデオギャラリーではポータブルDVDプレイヤーを使い、個々に視聴することができる。作品はパルコキノシタ氏(JAPAN)の『キンアカサークル』。なお、同DVDソフトは同ギャラリーにおいて販売



また、店舗会場での上映スタイルにも変化が起きている。各電気店の中で最も目をひくのは、ラオックス・デジタル館1階のテレビコーナーだろう。壁面いっぱいにディスプレイされた8×4の32台のフラットテレビを使ったマルチモニターでは常時、上映が行なわれている。サトームセン駅前6号店2階のテレビ売場では、19日の午後2時から4時の間、1フロアーにあるすべてのテレビモニター計102台を使って上映。これは26日(日)にも行なわれる予定だ。  

圧巻はラオックス・デジタル館1階の32台のフラットテレビによるマルチモニター。作品はフィリップ・シャトラン氏(FRANCE)の『息を止める』
圧巻はラオックス・デジタル館1階の32台のフラットテレビによるマルチモニター。作品はフィリップ・シャトラン氏(FRANCE)の『息を止める』



さらに場所によっては、CD-Rやデジタルビデオカセットなどさまざまなメディア形態を取り入れており、上映形態に広がりを持たせている。ユニークだったのは、中央線ガード下にある山本無線ラジオセンターで、店頭のDVカムコーダーの小さなディスプレーを使って上映していた。  

DVカムコーダーの小さなディスプレーを使っての上映も。作品はジャシンタ・シュロイダー氏(AUSTRALIA)の『スマートガール・アクション』
DVカムコーダーの小さなディスプレーを使っての上映も。作品はジャシンタ・シュロイダー氏(AUSTRALIA)の『スマートガール・アクション』



オノデン本館。さまざまなPOPに囲まれた“商品”に秋葉原TVプログラムが上映されている
オノデン本館。さまざまなPOPに囲まれた“商品”に秋葉原TVプログラムが上映されている



なお、ラオックス本店では、昨年同様、外壁のスーパーライザーを使って朝9時から夜9時までの間に5分間ずつ1日に24回上映している。上映店舗については、各店舗、またはインフォメーションセンターに設置されたDVDソフトのジャケットを模したリーフレット、もしくはオフィシャルサイトを参照していただきたい。

千代田区の街づくりの一助にも

今回の秋葉原TV2は、日本芸術文化振興会(文化庁)や国際交流基金の助成、参加作家国の大使館の後援、各メーカーの協賛、デジタルハリウッドなどの協力はもちろんだが、なんといっても秋葉原電気街振興会と(財)千代田区街づくり推進公社といった“地元”の後援が成功へのキーポイントとなっているだろう。
 
昨年の秋葉原TVはインフォメーションセンターとギャラリーを兼ねたスペースだった。御徒町にほど近い場所だったが、秋葉原に近くても決して便利な場所ではなかった。ところが今回は、(財)千代田区街づくり推進公社が運営する“街づくりハウス‘アキバ’”が活動拠点として提供され、準備活動から展示やイベントなどを行なう会場としても活用されてきた。

ビデオギャラリーでは、DVDプレイヤーから送出された映像が、ビデオプロジェクターやプラズマディスプレー、フラットモニターからパーソナルテレビに至るまで、さまざまなタイプの10台のディスプレーで上映されている。また、ポータブルDVDプレイヤーも設置されており、個々に視聴することもできる。なお、この同DVDソフトは同ギャラリーにおいて販売(限定100部、5000円)している。
 
このほか、来日作家らを招いて行なわれるテーブルトーク“powwow”や、各作家のパフォーマンスも行なわれる予定だ。

主催のコマンドNのリーダーで、アーティストの中村政人氏。現在、東京都現代美術館で開催中の“MOTアニュアル/低温火傷”にも出品している
主催のコマンドNのリーダーで、アーティストの中村政人氏。現在、東京都現代美術館で開催中の“MOTアニュアル/低温火傷”にも出品している

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