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モバイルネットワークとネット家電がデジタルデバイドを解消する日――“世界情報通信サミット2000”より

2000年03月14日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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3日、東京・大手町の日経ホールにおいて、“世界情報通信サミット2000―デジタルデバイド時代のネット戦略”(Global Information Summit 2000)が開催された。主催は日経新聞社。

現在、インターネットの急激な普及によって、新しいネットワーク社会が形成されつつある。その中で情報活用能力に差が生じ、所得格差を広げる“デジタルデバイド”の問題が浮上してきている。“世界情報通信サミット2000”は、この問題点に対し、政府や民間がどのように解決していくべきかを考えるものである。本稿では、午前中に行なわれた2つのキーノートスピーチについて報告する。 

主催者側からの挨拶
主催者側からの挨拶



“モバイルインフォメーションソサイティー”を目指して

まず、はじめに登壇したノキアの会長兼CEO、ヨルマ・オリラ氏は、同社の歴史や日本における活動について触れ、携帯電話市場の売上げが好調に推移していることを報告した。'99年の業績は、売上高が48パーセント増の197億7200万ユーロ(EUR)、営業利益が57パーセント増の39億800万ユーロとなった。市場規模は、今年2月には累計で2億台に達し、2002年には10億台以上になると予測されている。本社のあるフィンランドでは普及率が70パーセント以上になったという。

ノキアの会長兼CEO、ヨルマ・オリラ氏
ノキアの会長兼CEO、ヨルマ・オリラ氏



オリラ氏は、このように携帯電話市場を後押しする要因には、2つの大きな原動力があると指摘した。

原動力の1つは“インターネット”。仕事、プライベートの両方において、ネットへのアクセスが頻繁になっているからである。携帯電話は、ウェブに接続するための端末として、2003年にはパソコンを超えると予測されている。もう1つの原動力には“モバイル”である。もはや仕事をする環境はオフィスのデスク上だけではなくなっている。オフィスにいなくても仕事ができるような環境が企業の生産性を向上し、パラダイムシフトのキーになるものだとした。

さらにオリラ氏は、具体的なモバイルのアプリケーションとして、モバイルバンキングなどいくつかの事例を紹介した。モバイルバンキングの利用者はヨーロッパに多く、バンキング以外にも、株価を調べたり、株取引するユーザーも多くなってきた。携帯電話でもショッピングができるようなサービスも始まる。こうしたさまざまなサービスは、これからの社会を“モバイルインフォメーションソサイティー”へと変えていく。オリラ氏は、すべての人のための情報社会“eEUROPE”を作り、デジタルデバイドをなくすことがノキアの役割であると述べた。

このスピーチを聞いて記者が感じたのは、次のようなことである。確かに誰でも使える携帯電話が進化すれば、デジタルデバイドを解消する可能性はあると思われる。その1番の手本となりえるのは、iモードが急速に普及している“eJAPAN”であるのかもしれない。モバイルeビジネスの新しいサービスが業種間の垣根をなくし、企業のみならず個人にも利益を享受してくれる時代が来るだろう。

しかし、その一方で、ノンPCというプラットフォームをいかに育てていくか、という問題も残されている。携帯電話が“情報のポケット”として只に近い価格で配布されている日本の状況から分かるとおり、プラットフォーム足りうる製品は安価に配布されるべき性質のものである。デジタルデバイドの解消という問題と企業利益の追求という相反する問題をいかに両立させながら、プラットフォームを発展させていくかが今後の課題となるだろう。

ビットという情報を水のように。“デジタルネットワークの水道哲学”

次のキーノートスピーチに登場したのは、松下電器産業(株)の代表取締役、森下洋一氏である。森下氏は、インターネットを“タイムワープを実現するツールである”とし、同社が推進するネット家電戦略について述べた。

松下電器産業の代表取締役、森下洋一氏
松下電器産業の代表取締役、森下洋一氏



まず森下氏は、ネット家電の道のりについて説明した。これからのネット家電は、ホームサーバーによる情報の蓄積や、ショッピングの分野などで利用される。同社は、家電ネットワークとして“HII構想”(Home Information Infrastructure)を打ち出し、ネット家電をプラットフォームにしようと考えている。さらに、これらの家電ネットワークはモバイルネットワークと結び付くだろうという。ワイヤレスでさまざまな機器が接続されるようになり、サービスも多用化するだろう、とした。

また、森下氏は、同時にいたるところに存在するという意味の“ユビキタス”ネットワーク社会を目指し、すべての機器にアドレスを組み込む必要があるとした。同社では、次世代のネットワークプロトコル“IPv6”(*)を利用し、社内ネットワークを構築している。これから大規模な実験をしていくそうだ。

*
IPv6:IP Version 6の略。TCP/IPはInternetとともに広く普及してきたプロトコルであるが、ホストアドレスを表わすためのフィールドが32bitしかないため、あと数年すればそのアドレス空間が枯渇してしまう。そこでアドレス空間の拡大を図り、さらに従来のTCP/IPで問題となっていた部分を修正したり、欠けていた機能を追加して、新しいプロトコル体系が決められようとしている。

デジタルデバイドの解消のポイントとなるものは、“機器の日常化”だという。黒子のような役割であり、いつのまにか進化しているような状態にあることが必要だと説く。また、セーフティーネットを充実させ、個人情報の流出を回避しなければならないとも述べた。

このスピーチを聞いて記者が感じたことは次のようなことである。かつて、同社の創始者である松下幸之助は、その経営哲学として、水のような安価な製品を世の中に流通させたいという“水道哲学”を持っていた。その思想を受け継ぎ、ビットという情報の水が流れる“新たなデジタルネットワークの水道”を作りたいとした森下氏。インターネットを通じてバーチャルな世界を作ることではなく、あくまで実社会と結び付くものでなければならないという発言は、実務を重んじる松下の精神が色濃く反映されていた。しかし、その前に、誰もがデジタルネットワークの水道を気がねなく使えるための、太くて安い常時接続型のパイプラインを国家レベルで構築していかねばならないだろう。

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