2000年3月8日~12日(現地時間)、米カルフォルニア州サンノゼのSan Jose
Convention Centerにおいて、ゲーム開発者を対象にした“Game Developers
Conference 2000”が開催された。10日には、米マイクロソフト社のビル・ゲイツ(Bill
Gates)会長が基調講演を行ない、2001年秋に発売予定のゲーム専用機『X-Box』(仮称)の全容が明らかとなった。日本ではこの基調講演の十数時間前、マイクロソフト(株)は米マイクロソフトがX-Boxを開発中であることを正式に発表していた。
3月10日、ビルゲイツ会長による基調講演が行なわれた“San Jose Civic Auditorium”。San Jose Convention Centerの真正面にある。十数時間前に『X-Box』が日本で発表になったこともあって、長蛇の列が会場の列ができあがった |
Pentium IIIベースのCPU、NVIDIAと共同設計のGPUを搭載
X-Boxは、Pentium IIIのテクノロジーをベースに新開発したインテル製のCPU(動作周波数は600MHzを予定)、マイクロソフトと米NVIDIA社が共同開発する3Dグラフィックスチップを搭載する。サウンドチップには、同時64音に対応したI3DL2オーディオプロセッサーが採用されている。記憶装置には8GB HDD、4倍速DVD-ROMドライブ、8MBのメモリーカードを備え、DVDムービーの再生が可能になる。メモリーは、バスクロック200MHzでアクセスするUMA(Unified Memory Architecture)対応のDDR(Double Data Rate)DRAMを採用し、64MBを搭載する。システムは、Windows 2000カーネルをベースに新開発したもので、開発者は『DirectX 8』のAPIを使用することができる。
ビル・ゲイツ会長の基調講演は予定を50分近く遅れて始まった。十数時間前にもうすでに日本で発表になった『X-Box』について、「後ほどみなさんに、われわれの極秘製品についてお話させていただきます」と話すと、会場には爆笑が起こった |
外部インターフェースには、ゲームコントローラー用の4ポートと、拡張ポートが1つ用意されている。拡張ポートの種類はまだ決定されておらず、USBを採用する予定は現在のところないという。ネットワーク接続には、10/100MbpsのEthernetポートを備える。内蔵モデムや、外部モデムと接続するためのシリアルポートなどは搭載されていない。ディスプレーの接続には、ソニー(株)の『PlayStation
2』などのゲーム専用機で採用されているタイプの、カスタムA/Vコネクターを使用する。
毎秒1兆命令を実行する3Dグラフィックスプロセッサーを搭載
『X-Box』のプロトタイプ。最終形状はこれと異なる。基調講演では、単なる飾りではなく、実際にデモで使用された。ビデオチップにはマイクロソフトとNVIDIAの共同開発による『X-Chip』ではなく、NVIDIAの『N15』が使用された |
マイクロソフトとNVIDIAの共同開発による3Dグラフィックスチップ『X-Chip』は、毎秒1兆以上の命令を実行することが可能。動作クロックは300MHzで、1クロックあたり467個の浮動小数点命令を実行できる。これは、約140GFLOPSに相当する。
ポリゴン処理は、毎秒3億ポリゴン以上の描画速度を実現する。テクスチャーやライティングを適用した場合は、毎秒1億5000万トライアングルとなる。これは、ソニーの『PlayStation
2』(毎秒6600万ポリゴン)などの最新のゲーム専用機の3倍以上の処理能力となる。
-Boxのデモで使用された動画。ロボットと人間の3Dモデルが激しいアクションを披露した |
X-BoxのプロトタイプにはNVIDIAのビデオチップ『N15』が搭載され、数本のポリゴンゲームのデモンストレーションが行なわれた。N15のチップ性能はX-Box製品版に搭載する『X-Chip』のわずか10パーセントにしかすぎないとしながらも、ポリゴンのキャラクターによる激しいアクションシーンが会場を沸かせていた。
8GBのHDDを搭載
X-Boxが他のゲーム専用機と異なる特徴の1つが、8GBのHDDを搭載した点だ。64MBの小さなメインメモリー領域よりも、ずっと広大な作業領域をHDDに用意したことにより、大容量データアクセスの高速化を実現する。また、キャラクターなどのゲームデータの保存、試用版やアドオンファイルのダウンロードなど、さまざまな用途が考えられる。X-BoxはHDDの他に、DVD-ROMドライブと8MBのメモリーカードが利用できる。もちろんDVDムービーの再生が可能だ。
ビル・ゲイツ会長のゲーム開発者たちへの呼びかけ
X-BoxのOSは、Windows 2000のカーネルをベースに新設計されたものだ。『Windows
2000』と互換性があるわけではないが、*『DirectX 8』のAPIを使用できるためWindowsプラットフォームの開発者にとってはゲーム開発が容易となる。DirectX:マイクロソフトがWindows向けに開発、提供している、グラフィックスやサウンド、入力装置、通信など、ゲーム関連を中心としたAPIセット。現在の最新版はDirectX 7.1で、DirectX 8.0は今年の夏にリリース予定のもの。
「X-Boxプラットフォームでのゲーム開発者には、開発ツールや情報の提供などの積極的な支援を行なってゆく。そして2001年秋にはぜひ、X-Boxとともにゲーム製品を出荷していただきたいと考えている」と、ビル・ゲイツ会長は会場に集まったゲーム開発者たちに呼びかけた。現在、日本企業では、(株)コーエー、(株)ナムコ、(株)ハドソンなど6社がX-Boxのパートナーとして名を連ねている。
『X-Box』のパートナーとして紹介された企業。CPUを提供する米インテル社や、GPUを共同開発するNVIDIAのほかに、(株)コーエー、(株)ナムコ、(株)ハドソンなどの日本企業が名を連ねている |
マイクロソフトは今年4月に、X-Boxのゲーム開発ツールキット『DirectX 8
SDK』の最初のベータ版を出荷する。X-Boxプラットフォームでのゲーム開発に関する情報はウェブサイト(http://www.xbox.com/)で積極的に公開し、電子メール(Xbox@microsoft.com)での問い合わせも受け付けるという。
1年半後に主導権を握るゲーム専用機は?
ゲーム開発者たちの拍手とともにビル・ゲイツ氏による基調講演は終了したが、新しいテクノロジーがすさまじいスピードで続々と登場するコンピューターゲーム市場において“1年半後”に登場するX-Boxの出荷は、どのように受け止められるのだろうか。そして、直接の競争相手となるだろうソニーの『PlayStation
2』、セガの『Dreamcast』、任天堂の『Dolphin』は、X-Boxの登場までにどのような動きを見せるのだろうか。“Game Developers Conerence 2000”基調講演で押されたスタートボタンは、どんなテレビゲームよりも白熱した戦いを開始してしまったようだ。
■マイクロソフトによる『X-Box』とソニー『PlayStation 2』との性能比較表
X-Box | PlayStation 2 | |
CPU | 600 MHz (インテルプロセッサー) |
300MHz“Emotion Engine” |
グラフィックスプロセッサ | 300MHz (マイクロソフト、NVIDIA共同開発によるX-Chip) |
150MHz (Sony Graphic Synthesizer) |
メモリー | 64MB(DDR DRAM) | 38MB(RAMBUS DRAM) |
メモリーバンド幅 | 6.4GB/秒 | 38MB(RAMBUS DRAM) |
ポリゴン処理速度 | 300 M/秒 | 66M/秒 |
記憶装置 | 4倍速DVD-ROMドライブ、8GB HDD、8MBメモリーカード | 4倍速DVD-ROMドライブ、8MBメモリーカード |
ブロードバンド通信 | 可能 | 将来、対応する予定 |
DVD動画の再生機能 | ビルトイン | ユーティリティソフト(付属)が必用 |