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新たなグーテンベルク革命に備えて、新しい教育のあり方を考える――アットマーク・インターハイスクールの開校記念講演会より

2000年03月07日 00時00分更新

文● 狭間太一郎

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2月27日、慶應義塾大学三田校舎の北新館ホールにて、“これからの教育におけるインターネットの活用”と題する講演会が開催された。これは4月に開校するアットマーク・インターハイスクールの開校記念講演会で、アットマーク・ラーニングと“HUMIプロジェクト”(Humanities Media Interface Project)の共催によるもの。

新しい教育のあり方を提案。慶應義塾大学が進める“HUMIプロジェクト”

まず慶應義塾大学の教授、高宮利行氏が“第二グーテンベルク革命における大学教育のあり方”と題する講演を行なった。

慶應義塾大学の教授、高宮利行氏慶應義塾大学の教授、高宮利行氏



最初にグーテンベルク以前の大学の講義風景を紹介、前列にまじめな学生が座り、後列には私語をするような学生がいる状況は今日と変わりないと語った。このような1対多の形態で十分な知識を提供できるかという問題を提起、インターネットでは1対1で、双方向性を生かした個人授業が可能であるとした。

そして17世紀から18世紀に実施されていた“グランドツアー”を紹介、「講義は大学の中でなくてもいい」という例を挙げた。現在でもこれに倣(なら)って、入学が決まったあとの1年間を自由に使ってよい制度があることを報告した。

次に“HUMIプロジェクト”(*)についての説明があった。グーテンベルクの聖書をデジタル画像で解説し、デジタル化までの経緯について説明した。デジタル画像にすることで拡大も自由になり、写本間の検討も容易に比較できるというメリットを示した。また、ホームページ上で画像を公開していることも紹介した。

(*)“HUMIプロジェクト”:デジタル技術を積極的に導入し、新しい研究方法や研究分野を開拓するために'96年の春に発足。“Humanities Media Interface Project”とは、“人文科学研究における新しい情報伝達手段の導入”を意味するもの。稀覯書(歴史的価値のある古い書物)のデジタル化、画像処理技術の研究や、非破壊検査技術を用いた古書物の分析、情報マネジメント手法の研究、デジタルデータの知的財産権問題の研究など、多角的に研究している。このHUMIプロジェクトでは、さまざまな種類のデジタル画像を以下に公開。
(http://www.humi.keio.ac.jp/treasures/first.html)


情報通信革命に必要な人物像とは?

続く講演は、マイクロソフトの代表取締役、成毛真氏。氏は“情報社会に求められる人材”と題して、情報通信革命とマイクロソフトの求める人材について語った。

マイクロソフト代表取締役成毛真氏マイクロソフト代表取締役成毛真氏



まず情報通信について、コンピューターと通信のスピードアップについて解説。「10年後は確実に10億台のコンピューターがネットワークにつながる」、「B2Bの取り引きは2004年に200兆円にのぼる」と予測した。このような状況を踏まえながらも、10年後に必要とされる人材については、同社でも明確に推測できない、とした。

ただし、“知にまつわるモノ”をいかに有効活用するかという点では、“教育よりも学習が重要”であり、“課題を発見し、実行する人物”が企業の存続のために必要であると語った。教育の現状については、娘を持つ親の立場から教育の実際を語った。ネット上であらゆる情報を入手できる時代に“川”というような名前(固有名詞)を覚えることは必要なのか、など例を挙げて説明し、「別の教育システムが必要ではないかという方向性には賛同している」と述べた。

米国ではホームスクールの認知度が高い

3番目の講演は、兵庫教育大学の教授、成田滋氏による、“アメリカのホームスクールの現場から”。まず日本の学校は“ムラ社会”という共同体であり、自己利益を追求し、親を無視するものであると分析。次にオンラインと教育の関係として、ニュージーランドとオーストラリアの大学でオンラインコースを多くの学生が履修していることを紹介。オンラインでは非同期で学習でき、チューターの充実や学習教材の豊富さ、シラバスの公開や評価といった特徴があるとした。

兵庫教育大学成田滋教授兵庫教育大学成田滋教授



続いて米国のホームスクールについて、受講者が高いスコアを挙げていることなどを報告した。学校や特別活動への参加の是非などをアンケート項目で調査した結果、賛成多数であることが分かり、ホームスクールが認知されている現状を示した。そして、いろいろな学校を作る、バウチャー制度を導入する、親や子どもが学校を選択できる、親が教師を選択できる、さらに管理職の資質を高める、といった、日本の学校を変えていくための案を提示した。

“サポートティーチャー”は教える人ではない。“学ぶものが決める”主体的な学習を

アットマーク・インターハイスクールの理事長、日野公三氏は、“アットマーク・インターハイスクールについて”というテーマで、同社の事業について説明した。アットマーク・インターハイスクールのウェブを紹介し、“学ぶものが決める”主体的な学習が必要であるとした。

アットマーク・インターハイスクールの理事長、日野公三氏アットマーク・インターハイスクールの理事長、日野公三氏



697 学習をサポートする“サポートティーチャー”は教えてはいけない、カウンセリングとペースメーキングをする存在であると説明。自らポートフォリオを作成して学習、一定の時間になるとレポートを提出して単位を取得するという流れを紹介した。

またビデオでは米国で、牧場での仕事や自転車、芝刈りなど何でも単位になることや、14歳で大学レベルの生物を学べるという状況が伝えられた。これ以外にも、ウェブのメディアセンターで講義集などを提供、質疑応答も可能であることが紹介された。

最後の質疑応答コナーでは、日本でのインターネット利用では通信料が障害となるのではないか?という疑問に対し、現状でも動画以外は問題ない、これから競争で一層“安く速く”なっていくと成毛氏より回答があった。

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