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2005年に向けて整備されるメディア環境の動向。“産”、“官”、“学”連携の“バーチャルエージェンシー”とは?――“Education Tomorrow'2000 情報教育セミナー”より(後編)

2000年03月07日 00時00分更新

文● 服部貴美子 hattori@ixicorp.com

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1日に、大阪市西区の厚生年金会館で開催された“Education Tomorrow'2000 情報教育セミナー”。政府から発表された“ミレニアムプロジェクト”の動きを受けて、パソコンをどのように授業の中で活用し、児童や生徒が自主的に道具として使いこなせるようになるかをテーマとした催しであった。本稿は、そのセミナーの後半にあたる富山大学の教育学部助教授、黒田卓氏による講演内容について報告する。

講師の黒田氏は大阪大学工学部通信工学科卒業。長岡技術科学大学助手、富山大学講師を経て現職。‘文部省教科“情報”に係る現職教員等講習に関する調査研究協力者会議普通科目ワーキンググループ’の一員である講師の黒田氏は大阪大学工学部通信工学科卒業。長岡技術科学大学助手、富山大学講師を経て現職。‘文部省教科“情報”に係る現職教員等講習に関する調査研究協力者会議普通科目ワーキンググループ’の一員である



日本の通信ツールの普及状況。遅れているが一気に広がる可能性も

最初に、通信白書のデータを資料に、家庭でのインターネットや電子メールの普及について解説がなされた。'95年ごろから急激に売上げを伸ばして50パーセント近い普及率に達している“携帯電話”に対して、インターネットの普及率はまだ約10パーセント。世界各国と比較すると、カナダやオーストリアなどでは普及率が40パーセント以上に達している。国土面積が広く、遠隔教育の必要性の高い地域であるという要因を考慮したとしても、日本の普及率と比べれば高い。

しかし、日本ではポケットボードなどのPDAや携帯電話を使って、電子メールを送受信している人は多く、特に若年層への広がりは飛躍的である。“難しい”、“コスト(通信費や接続料)が掛かる”といったマイナスのイメージさえなくなれば、通信メディアの普及率の節目である“10パーセント”を超えたインターネットが、一気に広がりをみせる可能性は高い。

特に、子供たちでは、ゲームマシンなどを通じて、知らず知らずにインターネットを体験しているケースも多いだろう。黒田氏は、ウェアラブルコンピューターなど、インターフェースも変化していることについて触れ、「子供たちに対してなすべき教育は、キーボードの使い方や電源の入れ方などではない」と指導法の考え方について述べた。

続いて、関西大学の岡田氏、水越氏が大学生を対象に実施したアンケート調査の結果について報告した。“パソコンやインターネットを使いこなせていない”と感じている学生たちと、“職務生活に活かすため”と、半ば義務的に取り組んでいる教師たちとの間に“大きな意識の乖離(かいり)がありそう”と分析した。

「若い人たちは、新しいメディアをすぐに使いこなしてしまう」と、学生から送信されてきたメールを紹介する黒田氏。インターネットに比べ、操作が簡単な携帯端末は“パーソナル”な持ち物としての認識が高い
「若い人たちは、新しいメディアをすぐに使いこなしてしまう」と、学生から送信されてきたメールを紹介する黒田氏。インターネットに比べ、操作が簡単な携帯端末は“パーソナル”な持ち物としての認識が高い



縦割り行政を打ち破る“バーチャルエージェンシー”

政府の打ち出した“ミレニアムプロジェクト”の1つである“教育の情報化プロジェクト”。これは、高度情報化社会に対応した人材を若いうちから育成するために、学校を中心に教育の情報化に取り組んでいる。全国の小中学校などに対し、コンピューターの整備、インターネットの活用、情報化に精通した人材の活用などを推進している。

この中心となるのが“バーチャルエージェンシー”である。文部省、内閣官房、通商産業省、郵政省、自治省のスタッフがメンバーとなり、従来の縦割り行政ではなく、各省庁の横断的な連携によって、子供と授業と学校とを変えていうこうと、すでにいくつかの具体策が掲げられている。

まず、“総合的な学習”における情報教育が小学校から高校に導入され、さらに高校には“情報科”を新設。情報活用の実践力、情報の科学的な理解、情報社会にする態度の3つを修得させることが目標となる。

ハード面では2005年までに、各教室へのコンピューターの配置、中古PCなどを活用して教師1名につき1台の専用パソコンを設置することを目標にする。さらに、光ファイバーの全国整備や通信料の低廉化によって、回線の高速化を目指す。ソフト面では、教員の研修だけでなく、情報化推進コーディネーターなど外部の人材も活用して、情報化推進をサポートする。さらに、“産”、“官”、“学”が連携して教育用コンテンツを増やしていく。こうした取り組みでは私立校が先行していたが、徐々に公立校でも広がりをみせてきた。

メディアが経験を増幅する!? 経験の事前、事中、事後をどう結びつけるか

このように、ソフトとハードの両面からの体制が整ったとしても、ネットワーク整備の意義を見失っては本末転倒である。「ネットワークによって情報を得ることと、従来の“調べ学習”との差を認識することが大切」と黒田氏は強調した。正しいことが前提となっている教科書や図鑑の情報に比べ、インターネット上の情報には虚偽や誇張が含まれている可能性も否めない。しかし、深く調べていくことや、発言元作者に確認を取ることができるという、ネットならではの特徴を生かしていく気持ちがあれば、その情報量は魅力となる。

黒田氏は、“こねっとプラン”や“インターネット市民塾”において生徒たちが、地域との交流や他校の生徒とのコミュニケーションを経験したときの例を挙げた。「例えば、新潟の小学生にとっては冬に長靴を履いて登校するのが普通だが、ほかの地域ではめったにないことだということを、生徒たちは知らなかった。ネットに長靴の画像リストを掲載し、その反響を通じて、事実を知ったようだ」と、メディアを通じてしかできない体験があることを指摘。経験の事前、事中、事後を、どうつなげるかで、メディアが体験を増幅することもあると述べ、「意味のある体験になるために、学習環境の整備とカリキュラム作りが大切である」と主張した。

これから先、学校におけるネット教育がどのように変わっていくかについては「大きく変わるのは確実。パソコンの台数が増え、外部向けサーバーを持つとなると、その管理を教師が受け持つ煩雑さは、今以上になる。費用に限りはあるだろうが、情報と学校教育との両方に専門性を持つ人材が必要になってくるはず。また、管理が楽になるように、導入時から慎重に設計しておくことが肝心である」と警鐘を鳴らした。

身近な地域の良さを再発見するためにも、ネットワークを使った比較は欠かせないプロセスである。地方からの情報発信を助けるために、学校でなく政府も横の連携を図って取り組むべき」と述べ、講演を締めくくった。

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