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【INTERVIEW】企業向けにリアルタイムチャットのツールをOEMで提供--米マルチメイトネット社

2000年03月03日 00時00分更新

文● 編集部 鹿毛正之

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インターネット向けのツールとして、“コミュニケーションツール”と呼ばれるジャンルのソフトがある。これは、ネット上でチャットやメッセージ通信を行なうもので、電子メールよりも手軽なコミュニケーション手段として、人気が高まっている。

今回のインタビューに応じてくれた、マルチメイトネット社のマーク・フリーサー氏(左)とエリ・エフラット氏。日本でのパートナーや代理店を探しに来たと語っていた
今回のインタビューに応じてくれた、マルチメイトネット社のマーク・フリーサー氏(左)とエリ・エフラット氏。日本でのパートナーや代理店を探しに来たと語っていた



この分野で最も知られているツールとしては、『ICQ』が挙げられる。この他にもエキサイトが提供する『excite PAL』やYahoo!の『Yahoo!ページャー』などが知られており、いずれも“パーソナルチャット”や“インスタントチャット”といった機能をウリにしている。

パーソナルチャット分野に“ブラウザーコンパニオン”を引っさげて参入--マルチメイトネット社

この分野に、『Instant Randezvous(インスタントランデブー)』という製品を引っさげて参入したのが、'99年1月に創業したマルチメイトネット社(multimate.net)だ。米ニューヨークに本社を置く同社は、最近その数を増やしつつあるイスラエル系のベンチャー企業。テルアビブの研究所では22人の技術陣が開発業務を行なっているという。

『Instant Randezvous(インスタントランデブー)』、これは日本の提携企業向けに、スキンがオリジナルのデザインになっている。下側がチャットウインドーとなっている『Instant Randezvous(インスタントランデブー)』、これは日本の提携企業向けに、スキンがオリジナルのデザインになっている。下側がチャットウインドーとなっている



同社ではインスタントランデブー(以下、IR)を、“ブラウザーコンパニオン”と形容している。IRの仕組みは、同じウェブページにアクセスしているユーザー同士が、リアルタイムチャットを楽しめるというもの。つまり、ウェブブラウザーと同時に使用することが前提となる

IRを使うには事前の登録が必要。登録に際して最低限必要なのは、ユーザー自身の“ニックネーム”だ。他のチャット参加者からは、ユーザーのニックネームだけが見える(その他の情報を表示することも可能)。実際には、登録の際に固有のユーザーIDも与えられるのだが、ユーザーIDはマルチメイトネット社内で厳重に管理されるそうだ。

ユーザー登録画面の一例。訊かれるのはごく簡単な質問だけで、年収や家族構成といったプライバシーに立ち入るような質問はない
ユーザー登録画面の一例。訊かれるのはごく簡単な質問だけで、年収や家族構成といったプライバシーに立ち入るような質問はない



IRのユーザーは、気のあった仲間を登録できるバディリスト(友だちリスト)を持っている。チャット相手に“バディリストに入れてもいいか?”と確認し、オーケーが出た場合にのみ、バディリストに相手のニックネームを追加することが可能だ。

パートナー企業にOEMでツールを供給

IRと同様のツールとしてはHypernix社の『Gooey』などがあるが、IRの特徴は“OEMとして供給する”点にある。つまり、IRをユーザーに配布したい企業とパートナーシップを組み、その企業向けにオリジナルデザインのIRを提供するというのが、マルチメイトネット社のビジネスモデルだ。

このビジネスモデルについて、同社の副社長を務めるマーク・フリーサー(Mark Frieser)氏は「見栄え、雰囲気、言語という3要素において、トータルソリューションを提供している」と語る。IRを採用する企業のイメージにあわせ、ツールの外観(スキン)を変え、オプション機能を提供し、言語対応も行なうというのだ。

マルチメイトネット社の副社長としてビジネス部門を統括するマーク・フリーサー氏。日本にはこれまで2回来たことがあるという
マルチメイトネット社の副社長としてビジネス部門を統括するマーク・フリーサー氏。日本にはこれまで2回来たことがあるという



さらにフリーサー氏は、「数多くの企業が、リアルタイムのインターネットコミュニケーションを欲している」と語る。特に、自社のオリジナルデザインをまとったツールが提供できれば、「企業のブランド強化にも役立つ」というのだ。

同社のアピールポイントは、フリーサー氏の弁によれば「あなたのサイトをあなた自身のYahoo!にします」という点だ。たとえばIRのスキンに検索窓を付加すれば、ユーザーをYahoo!などのポータルサイトに取られることがなくなるとエフラット氏は語る。

結局のところ、同社はIRのサービスをインターネット上で提供する、一種のASP業者と位置付けることができる。ホスティング用のサーバーは米Exodas社のデータセンターに設置しており、ユーザー情報は同社のサーバーで一元管理される。提携企業は専用のサーバーなどを用意する必要はなく、ユーザー数に応じた利用料金を、マルチメイトネット社に支払うという仕組みだ。

日本企業でもすでにIRを採用

フリーサー氏は「日本は極東地区の重要なマーケット」と語っており、すでにIRを採用している日本企業もある。ソニー(株)のDSN部門が開設する“Pubzine(パブジーン)”というウェブサイトでは、IRのインターフェースを日本語化した『Pubzine IR』(パブジーン インスタント ランデブー)の無料配布を行なっている。同サイトにはヘルプページも用意されているので、IRについて知るにはPubzineを訪れるのが近道だ。

『Pubzine IR』のページ。ツールのデザインを見ただけなら、このソフトがPubzineのオリジナルだと思い込むユーザーも少なくないだろう
『Pubzine IR』のページ。ツールのデザインを見ただけなら、このソフトがPubzineのオリジナルだと思い込むユーザーも少なくないだろう



パブジーンは、メールマガジンの配信代行サービスを行なうサイト。読者と発行者を橋渡しするポータルサイトとしての役割も担っており、その橋渡しを目的にPubzine IRを利用している。Pubzine IRのダウンロードサイトでは、5つの質問に答えることで、同ソフトを無料ダウンロードできる。入力する必要があるのはメールアドレスだけで、年齢や職業はブルダウンメニューから選択するだけ。プライバシーと言えるほどの情報は求められていない。

他のチャットツールでは、自分の趣味や興味のある分野など、数十項目の質問に答えることが求められている。それに対し、なぜIRではこんなに質問項目が少ないのか? マルチメイトネット社のCEOであるエリ・エフラット(Eli Efrat)氏によると、同社のホスティングサーバーが必要とする情報は、各人に与えられる固有のユーザーIDとニックネームだけ。つまり、プライベートな情報を明かす必要は一切ないというのだ。

この点に関しエフラット氏は、「IRの特徴は、プライバシーを尊重したピアトゥピアのサービスだ」と語る。ユーザーはプライベートな情報を登録する必要がないので、チャット相手にプライバシーが漏れる心配をすることなく、安心してチャットを楽しむことができるという。お互いの匿名性は完全に保たれているので、バルクメールによる攻撃などの恐れもない。

マルチメイトネット社のCEOを務めるエリ・エフラット氏。同社のシステムについて詳しく解説してくれた
マルチメイトネット社のCEOを務めるエリ・エフラット氏。同社のシステムについて詳しく解説してくれた



だからといって、提携企業側にメリットがないわけではない。マルチメイトネット社のサーバーは、IRユーザーがどんなサイトを見ているか、どこのサイトに移動したかという情報をリアルタイムでトラッキングしている。この情報は数十秒ごとに収集されるので、ユーザーの動向を詳しく分析することが可能だ。

ただし、この場合でも、ユーザーのプライバシーは十分に守られているという。フリーサー氏によると、「情報はグループ単位で管理」されており、決して、特定の個人がどのサイトを見ているかという情報は集めていないのだそうだ。提携企業は、自社版IRのユーザーがどんなサイトを見ているかという“傾向”を知ることで、ビジネス戦略に活かせるそうだ。

また、IRを採用する提携企業側は“どんなプライベート情報を集めるか”を決めることができる。細かなユーザー情報を欲している場合は、居住地やメールアドレスなど細かな入力欄を設けることができる。とにかく自社版IRをバラまきたいのならば、一切個人情報を集めないという選択肢もある。

メッセージ機能も搭載--コミュニティーの構築を容易に

IRはチャット機能のほかに、一斉同報機能を備えている。これは、特定のIRを利用しているユーザーに対して、同報メッセージを発信するというもの。フリーサー氏はこの機能を“ダイレクト・マーケティング・ヴィークル”と表現しており、ユーザーの“コミュニティー”を対象としたマーケティングが可能になるとしている。

これを可能にしているのが、提携企業ごとに異なるバージョンのIRを提供するという同社の戦略。“同じバージョンのIRを使っているユーザー”というセグメント分けにより、プライバシーを保護しつつ、差別化ができるという仕組みだ。このメッセージ機能を利用すれば、自社サイトでチャットイベントを開催するとき、ユーザーに対して参加の呼びかけを行なうことも可能となる。

マルチメイトネット社では、提携企業のブランドとIRのブランドで相乗効果を生み出す戦略を“コブランド”と呼んでいる。同じIRでも複数のブランドがあり、異なるブランドでも同じIR、という意味合いを持つ
マルチメイトネット社では、提携企業のブランドとIRのブランドで相乗効果を生み出す戦略を“コブランド”と呼んでいる。同じIRでも複数のブランドがあり、異なるブランドでも同じIR、という意味合いを持つ



この他、同社ではウェブメール機能を付加することも検討中だという。すでに、ウェブメール分野の有力企業であるコムタッチ社と提携しており、ウェブメールの着信をIRで知らせるといった仕組みを模索しているそうだ。

さらに、携帯電話とのコラボレーションも進めている。同社が開設したwap.getir.comは、ヨーロッパで普及している通信プロトコルのWAP(Wireless Application Protocol)に対応済み。WAP携帯電話から同サイトにアクセスすることで、自分のバディリスト(友だちリスト)を参照することができる。日本でもDDIグループのEZwebがWAPに対応していることから、将来的に日本でも同サービスを受けられる可能性もある。

WAPは、いわば欧州版のiモード。現在のところ、WAP版のIRではパートナーごとのスキンを用意することはできない。これも次のバージョンでは改善できるとしている
WAPは、いわば欧州版のiモード。現在のところ、WAP版のIRではパートナーごとのスキンを用意することはできない。これも次のバージョンでは改善できるとしている



モデレーターが不適切な発言をチェック

IRではコミュニティーの発展が重視されているが、これを手助けする機能として、“モデレーター”機能が用意されている。これは、提携企業側のスタッフなど特定のユーザーが、チャットのホスト(モデレーター)になるというもの。モデレーターは掲示板の管理者に相当する存在で、チャット参加者の発言を禁止できるといった権限を持つ。

たとえば、個人攻撃や差別用語など不穏当な発言を繰り返すユーザーがいた場合には、モデレーターはそのユーザーの発言を禁止することができる。度が過ぎると判断した場合には、チャットの閲覧を禁止することも可能。この場合でも、モデレーターがユーザーを識別する手段はニックネームだけで、アカウントIDを含むプライベート情報がモデレーターに伝わることはない。

料金は従量制--最大で年間330万円

さて、実際にIRを採用したいと考える企業にとって気になるのが、IRのライセンス料金だ。エフラット氏によると、利用料金は月払いで、金額はアクティブユーザー数で決まるとのこと。価格は年間で2万ドルから最大で25万ドルとのことだ。ちなみに前述のPubzineではIRの代理業務を行なっており、こちらの料金は最大で年間330万円(10万ユーザーまで)となっている。

同社では中~大規模のサイトを提携対象としており、利用者がさほど見込めない小規模のサイトに対しては、IR上にバナー広告を掲載することで無償提供を行なうというプランも持っている。

現在のアクティブユーザーは全世界で約10万人。日本でも、Pubzine IRのユーザーコミュニティーがあるという。マルチメイト社では企業向けに6ヵ月間の無料トライアルも提供しており、現在25社がIRを試用しているとのことだ。また、「アクセス数でベスト20に入る有力サイト2社と交渉を行なっている」と、エフラット氏は語ってくれた。

インターネットに接続しながら、IRのデモを行なうフリーサー氏。大規模サイトでIRに興味があるところは、フリーサー氏自身まで直接コンタクトして欲しいとアピールしていた
インターネットに接続しながら、IRのデモを行なうフリーサー氏。大規模サイトでIRに興味があるところは、フリーサー氏自身まで直接コンタクトして欲しいとアピールしていた

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