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【Robot-ism 1950-2000 Vol.5】ロボットと人間の関係からデザインを考える――“ロボット・デザインの変遷”より

2000年03月02日 00時00分更新

文● 坂田 恵 megu-s@tkc.att.ne.jp

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27日午後の第2シンポジウムでは、さまざまな角度からロボットのデザインについて討議された。参加者は武蔵野美術大学教授、柏木博氏、ゲーム『バーチャロン』などを手掛けるメカデザイナー、カトキハジメ氏、(株)大林組のマルチメディアプロデューサー、西口勇氏、ヒューマノイドロボットをデザインした北野共生システムプロジェクト研究員、松井龍哉氏。バーチャルなものから実用的なものまで、ロボットのデザインに携わる4名のキーパーソンが集まった。

左から、カトキ氏、西口氏、松井氏
左から、カトキ氏、西口氏、松井氏



産業用、ヒューマノイド、バーチャルなロボットのデザイン

まず、進行役の柏木氏は、ロボットの歴史を説明し、ソニーの『AIBO』が“ペット”としての位置付けにあることを取り上げた。

ゲームやプラモデルのメカをデザインしているカトキハジメ氏は、自らデザインした『バーチャロン』を題材に、武器やその武器を収納する場所など、ゲーム設定の中で考えられた動きに説得力を与えるデザインを心掛けているとした。

また、大林組の西口氏は、建設会社である同社が取り組むプロジェクトの実例を紹介。これは、ペットや人間型のデザインではなく、あくまで機能を優先した実用的なロボットを利用し、建物そのものを作るというプロジェクトである。このロボットでマンションなどを建築した場合、費用は半額ほどになるという。

西口氏がプレゼン用に制作した建築ロボットのCG。ロボットがマンションの鉄柱を溶接しているところ
西口氏がプレゼン用に制作した建築ロボットのCG。ロボットがマンションの鉄柱を溶接しているところ



、実際に撮影したロボットの映像。プレゼン用のCGと実際のロボットの動きが違うと指摘されたが、動きはほとんどCGのものと変わらない
、実際に撮影したロボットの映像。プレゼン用のCGと実際のロボットの動きが違うと指摘されたが、動きはほとんどCGのものと変わらない



エンターテインメントと産業の中間に位置するロボットをデザインしている松井氏は、ロボット界で有名な北野宏明氏が主催する期間限定プロジェクトを紹介した。ここで研究しているヒューマノイドロボット“SIG(シグ)”は、視覚と聴覚をメーンに研究するためのロボット。松井氏のデザインによるものだ。このロボットでシミュレートして、人間の知能を解明しようというのが、研究の目的である。

松井氏は、この“SIG”のデザインについて「ロボットのイメージは男性的な強いイメージがあるが、このロボットの活動空間が六畳ほどの広さなため、その場所に合う女性的なデザインにした。人間と同じ動きをさせようとすると自然に人間の形になる」と言う。

ロボットのデザインは、ロボットが自立して動き、人間と同じ時間軸で動き続けるという点で、今までのインダストリアルデザインとは大きく異なると松井氏は指摘、21世紀のロボットのアイデンティティーについて言及した。

松井氏がデザインしたヒューマノイドロボット“SIG”。ロボットが視覚、聴覚の機能しか持っていないため、腕や足などはない
松井氏がデザインしたヒューマノイドロボット“SIG”。ロボットが視覚、聴覚の機能しか持っていないため、腕や足などはない



左が“SIG”の中身。松井氏のデザインにより左のようになる
左が“SIG”の中身。松井氏のデザインにより左のようになる



ロボットのデザインのアイデンティティー。エンターテインメントが先端技術を牽引

松井氏から出たキーワード“ロボットのデザインのアイデンティティー”を受けて、バーチャルなロボットをデザインしているカトキ氏が発言した。「ゲームはアニメーションなどと違って、対戦することがメーンになるため、ムービーには重きを置けない。ゲームの中でプレイヤーが動かすロボットとしてデザインをしている」と述べ、プレイヤー側の視点に立ったデザインを心がけているとした。

西口氏は「建築ロボットだけでなく、宇宙で人間の代わりに作業するロボットなどを考えている。その場合、建築ロボットのように機能のみを考えたものではなく、人間がそのロボットを見て何をするロボットなのかを認識できるようなデザインが必要になってくる」と語った。

松井氏は、「これからのロボットは2つの点について考えなくてはいけない。1つは道具としてのロボットで、1つの機能に特化した“単細胞”のロボット。もう1つは“AIBO”のように個人が楽しむためのロボット。エンターテインメントが先端の技術を引っ張っていく」とした。

今まで世界をリードしてきた日本のロボット技術については、「幼年期に視覚的に“鉄腕アトム”から受けた影響は、今の日本の産業に反映され、技術者たちのモチベーションの原型となった。しかし、それ以降の世代にとって、モチベーションのベースは世界共通で“スター・ウォーズ”になってしまい、日本独自のものではなくなってしまった」と、日本の独自性がなくなったことを示唆した。そして、「子供たちに“あんなロボットを作りたい!”と思わせるのがデザイン力なのではないか」と述べた。

情報を扱う未来のロボットも大切

最後に将来のロボット像について、それぞれが展望した。

カトキ氏は、「正直言って、ここ10年から20年の間にヒューマノイドロボットが、街を歩き回るようになるとは思えない。ロボットが日常的になってしまったら、デザインも今のクルマのようにつまらなくなってしまう。ゲームやアニメの中で、いろいろなデザインのロボットが許される時代を楽しみたい」と述べた。

それに対して松井氏は、カトキ氏の言う街中をヒューマノイドが歩き回る未来は、そんなに先のことではないとし、「カトキさんもギリギリOKな未来ですよ」と説明した。

西口氏は、これからの産業ロボットは、物を作るだけでなく、情報を扱うロボットが大切になってくるだろうと考えている。自分の代わりに、ネットワークの中で情報を集めてくれたりと、目に見えない部分で必要になるロボット像について見解を示した。

さらに松井氏は「我々はロボットを通して、人間というものを理解しようとしている」、「北野宏明氏が提唱している、2050年にロボットでFIFAのサッカーチームに勝とうという“ロボカップ”のような、大きなビジョンを示すことが大切。それが技術の普及を促す」とし、これからのロボット技術のあるべき姿を語った。

参加した4名それぞれが、まったく違った立場からロボットを捉え、発言の1つ1つが興味深かった。特に、バーチャルなメカデザインをしているカトキ氏と、本当に動くロボットのデザインする松井氏のやりとりは、もっと時間があれば面白い話が聞けたかもしれない。

最後に柏木氏が語った「松井氏の研究のように、ロボットの研究を通して人間の研究をするということは、ロボットと脳の研究がパラレルに進んだことと深い関係がある」という言葉は、ロボットと人間の関係を象徴しているようで印象的だった。

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