富士ゼロックス(株)は、オンデマンドセルフパブリッシングにより、作家、村上龍の長編小説『共生虫』を1日から限定発売(1000部)すると発表した。
発表会出席者。左から講談社の文芸局長、宮田昭宏氏、富士ゼロックスの庄野次郎氏、作家の村上龍氏、龍声感冒の栄花均氏 |
『共生虫』は、インターネットをめぐる病理やコミュニケーションのあり方を、“引き込もり”をキーワードに『群像』誌に連載していたもの。今回の限定販売本の特典として、先着別シリアルナンバー、村上氏の自筆メッセージ、特別コンテンツへのアクセス専用パスワードなどが添付される。価格は3000円(別途郵送料500円)。富士ゼロックスの『BookPark』サービスからからオンデマンドでプリントし、購入できる。
『BookPark』サービスは、オンデマンドパリッシングだが、カスタマイズができるのが大きな特徴。すでに同社では、村上氏の短編集の中からセレクトしてオリジナル本を作れるオンデマンドパブリッシングサービス『向現
Author's Own Publishing』を'99年12月から始めている。これを“オンデマンドセルフパブリッシング”と呼んでいる。これ以外にも、小松左京のオンデマンド版作品全集など、文芸関連のコンテンツを用意している。
今回のオンデマンド本発刊のタイミングに合わせて、『共生虫』ファンウェブサイトも立ち上げた。これは、ファンサイト“龍声感冒”の主宰によるインデペンデントなサイト。作家と版元から距離を置いたファンの立場から、『共生虫』の世界観をインターネットによって伝えていく。
共生虫ウェブサイト http://www.kyoseichu.com/
村上氏は、今回のオンデマンドパブリッシングによる先行販売について、以下のように述べた。
「インターネットの関わりは、“東京デカダンス”から始まり、メールマガジンJMM(Japan
Mail Media)を発行、その後、サッカーの中田選手のウェブに連載を持った。いままでネットの仕事をして共通して感じている点は、ほとんどの利益がなかったということ。ただし、そのわりには妙な充実感があった」
「現在は、(インターネット上のコンテンツの)価値が直接金銭に結び付かず、その価値をコミットしているような状態だと思う。基本的に今の出版に不満があるわけではないが、今回は実験と思考錯誤の一環として試みることにした。コンテンツのバリューを確かめたい気持ちだ。今までの出版形態への批判ではなく、新しい可能性として考えている。また、インターネットのネガティブな部分を題材としているので、インターネットの肯定的な部分としてオンデマンドをやってみたかった」
村上氏(左)と栄花氏(左)。栄花氏はファンウェブサイトで『共生虫』をサポート |
また、講談社の文芸局長、宮田昭宏は出版社側の立場から、戸惑いながらも賛同の意を表明した。
「今回の“共生虫”は村上氏の作品の中でも、今世紀最後の勝利的な作品だと思っている。出版社の立場からすると少し悩んだ部分もあったが、刺激的な企画にどのように協力できるかを考え、プロモートの一環として賛同した」と語った。
なお、単行本は3月21日に講談社が発刊する。