このページの本文へ

【Robot-ism 1950-2000 Vol.4】シンポジウムで語られたアートとロボットの関係―― “アートとしてのロボット”より

2000年03月01日 00時00分更新

文● 坂田 恵 megu-s@tkc.att.ne.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

CG-ARTS協会(財団法人画像情報教育振興協会)は、第3回文化庁メディア芸術祭企画展として、“Robot-ism 1950-2000~鉄腕アトムからAIBOまで~”を2月25日から3月2日まで東京・港区の草月会館で開催している。

会場では、今回のメディア芸術祭授賞作品の展示や、『鉄腕アトム』から『∀ガンダム』までのロボットアニメの上映、ホンダの人間型ロボット『P3』、ソニーの『AIBO』など、最先端ロボットとメディアアートとしてのロボットを総合的に展示。

また、メディア芸術祭の受賞者や、ロボットに関連する各分野のキーパーソンによるシンポジウムが開催され、ロボットとアート、ロボットと技術など、さまざまなロボットが与えた影響を、多角的に検証するイベントになっている。本稿では27日のシンポジウムを中心に報告する。

27日午後から開催されたシンポジウムでは、東京大学教授でメディア芸術祭委員長の河口洋一郎氏、メディアアーティストで『PostPet』の作者としても有名な八谷和彦氏、CGアーティストの檜山巽氏の3人が、ロボットの持つアート性について語った。

左から、河口洋一郎氏、八谷和彦氏、檜山巽氏左から、河口洋一郎氏、八谷和彦氏、檜山巽氏



アートのバックグラウンドにはロボットがあった

まず、アートの中でロボットを表現している各氏の作品と最近の活動などについて説明した。CGアーティストとしてCMなどのキャラクターデザインなどを手掛ける檜山氏は、今回のメディア芸術祭のデジタルアート(ノンインタラクティブ)部門優秀賞を受賞した『檜山巽3EXHIBITION TOKYO:1999』の一部を紹介した。

「“縁起もの戦隊”という作品を作るまで、ロボットのことなんて全然知らない普通の女の子だった」と言いつつも、「本やビデオでSFやマンガのロボットを改めて見て、幼いころにテレビやマンガにはロボットがあふれていたことを思い出した。自分のバックグラウンドにあるロボットデザインをしよう! と思ったんです」と作品の生まれる経緯を語った。

ロボットをキャラクターにして旗としてデザインした作品。檜山氏いわく「自衛隊のマークを勝手にデザインしてみた」とのことロボットをキャラクターにして旗としてデザインした作品。檜山氏いわく「自衛隊のマークを勝手にデザインしてみた」とのこと



八谷氏は、自分の好きなロボットのアート作品を紹介。'99年の12月に初来日し、代々木公園で行なわれたサヴァイヴァル・リサーチ・ラボラトリーズ(SRL)のイベントの模様や、飴屋法水氏のMMMによる映像の中に現われる“島田ロボット”、テレビゲームの『バーチャロン』をビデオで紹介した。

SRLは、ジェットエンジンや巨大なロボットを手作りして、ロボット同士を戦わせたり、何かを破壊させたりすることで、アートを表現する集団。「今回のイベントで紹介されていないが、ロボットとアートを考える上で、SRLやゲームのバーチャロンは外せない」と力説した。

八谷氏自身が現在制作中の、映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』に出てくる、空中に浮くスケートボード“エアボード”についても「'70年代に万博で見たような未来はまだ現実になっていないし、そんな未来は来ないのかもしれない。そんな“来なかった未来”を自分の手で作りたい」と語った。

作成した巨大なロボットを操縦する、SRLの中心人物マーク・ポーリン氏(八谷氏紹介のビデオより)作成した巨大なロボットを操縦する、SRLの中心人物マーク・ポーリン氏(八谷氏紹介のビデオより)



SRLのイベントで登場したロボットの1つ。巨大な謎のロボットが戦う映像は圧巻SRLのイベントで登場したロボットの1つ。巨大な謎のロボットが戦う映像は圧巻



進行役を務める河口氏は、電脳空間の中の生命体をイメージしたCG作品を紹介。「自分の考えるユートピアをシミュレートしたような作品。生命体が自己学習して増殖していくようなイメージを表現した」とのこと。また、印刷会社と協力して制作しているという3D CG作品も紹介していた。

同会場6Fに展示されていた河口氏の3D CG作品。見る角度によって立体的に見える特殊加工がなされている同会場6Fに展示されていた河口氏の3D CG作品。見る角度によって立体的に見える特殊加工がなされている



日本の文化に根ざしたロボットアニメのヒーロー像

八谷氏から、今回のメディア芸術祭では「AIBOよりも、米国で社会現象にまでなっているポケモンを大賞にすべきでは?」との発言で、米国では受け入れられないとされていたキャラクター文化が、ポケモンの人気によって覆された点に話が及んだ。

「ピカチュウはヒューマンな、弱さも表現できる表情をしていて、それが女性に受けたのかもしれない」と河口氏。八谷氏は「カードゲームといっしょにポケモンを展開したところにポイントがある」と分析。さらに「2年前にPostPetの英語版を考えていたときは、やはり米国には向かないと考えられていた。ポケモンが受け入れられている現状は、PostPet英語版の追い風になっている」と今後を期待していた。

また、日本でロボットアニメがここまで流行したことについて、檜山氏が「欧米では普通ロボットアニメは15歳くらいで卒業するものとされていて、大人になってロボットアニメを好きなんて許されない。でも、戦後権威が揺らいでしまっている日本では、大人になってもロボットアニメが好きでいられたのだ」と分析。

結果的にそれが良い影響を及ぼしていることを「ホンダのP3を作っている人など、企業の中で活躍している人たちは、子供のころ鉄腕アトムやガンダムを絶対に見ている。そんな状況を米国人はうらやましがってる」と八谷氏が語った。4月から東京大学でアートに関する講座を持つ河口氏も、企業の中だけでなく、官庁に本当にアートを理解できる人材が、今後どんどん増えてくれば、現状はもっと良くなるだろうと語り、「東大と芸大をいっしょにすべき」と呼び掛けていた。

最後に、今後の活動などについて八谷氏は、現在製作中のエアボートを完成させること、また「これから石油がなくなるかもしれないので、“馬”との生活に興味があり、現在調査中。カーボンの馬車とかを作りたい。アーティストの語る50年後の未来が実現するってよくあることだから」と笑いながらも真剣なまなざしで語った。

檜山氏は今後もCG作品を作り続けることと、「ロボット世代のために“高級ガンプラ”(ガンダムのプラモデル)なんかができたらいいな」との意向を表明した。河口氏は「メディアは人間を退化させるものだから、その逆のことをやりたい。もっと人間の遺伝子を強くしたい!」と自身のアートのイメージを反映させた抱負を語っていた。

オリジナリティーにあふれる作品を生み出している3氏だけに、それぞれの視点から語られるアートとロボットについての話はどれも面白かった。今後の活動で、我々の知らない未来を見せてくれそうだ。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン