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デジタル時代の映像人に必要な現場感覚、即断力、洞察力――“eAT'00 KANAZAWA”開催(前編)

2000年02月29日 00時00分更新

文● Yuko Nexus6

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奥深い伝統芸術、文化を育んできた金沢市が、新たな芸術、文化、産業の創造と人材育成を目的として毎年開催している“eAT'00 KANAZAWA(イート2000金沢)”が2000年2月24日から26日の3日間にわたって開催された。

今年は“ムービーウォーズ……これが映画を変える!”をテーマに、日本映画界を席捲するデジタル化の波についてあらゆる角度から討論していこうというもの。まず24日、石井聰亙監督率いる映画人による幻のロックバンド『MACH1.67(マッハ1.67)』のライブで幕を開けた。石井監督のほか、音楽家小野川浩幸、浅野忠信、佐藤久順他というそうそうたるメンバーのため、大いに盛り上がったようだが、ここでは25日、金沢市民芸術村で開かれたセミナーを中心にレポートする。

東京、関西など県外からの参加者も集め、熱気あふれるセミナー会場。映像を学ぶ学生の他、熱心な映画ファンも多いだろう。特に女性の姿が目立った
東京、関西など県外からの参加者も集め、熱気あふれるセミナー会場。映像を学ぶ学生の他、熱心な映画ファンも多いだろう。特に女性の姿が目立った



マルチカメラは1つの情報公開

午前10時半より、今回の総合プロデューサー、掛須秀一氏をコーディネーターとして“これが映画を変える……海外映画メイキング事情”と題したセミナーが開かれた。海外における映画制作事情に詳しい映画人を集め、最新のデジタル技術がいかに映画の現場を変えるか、という現状報告から、教育機関の問題、日本映画の制作システムに対する提言など歯に絹きせぬ発言が相次いだ。

ジェイ・フィルムの代表取締役、掛須秀一氏。'94年にデジタルノンリニア編集機“アビッド”をいちはやく導入。日本映画界のデジタル化に先鞭(せんべん)を付けた彼が“eAT'00”の総合プロデュースを務めた
ジェイ・フィルムの代表取締役、掛須秀一氏。'94年にデジタルノンリニア編集機“アビッド”をいちはやく導入。日本映画界のデジタル化に先鞭(せんべん)を付けた彼が“eAT'00”の総合プロデュースを務めた



ADや助監督として長い下積み修行が必要とされる“旧弊”な日本の映像業界に見切りをつけ、いちはやく米国へと飛んだ渡部眞氏は語る。

「まず現場から猛反発を食らったのはマルチカメラですね。もともと日本の映画界ではファインダーに映る映像を見られるのはカメラマンだけ。最終的にどんな映像になっているのか、現像するまで誰も分からないわけです。それがモニターでマルチカメラの映像を誰もが見られるシステムが出てきた。これは1つの情報公開だと思いましたね」

撮影監督、渡部眞氏。CM撮影者として活動後、'86年渡米。プロのための映画学校AFIで学び、米国映画界で活躍。日本復帰後は『らせん』、『ショムニ』、『五条霊戦記』などを手掛ける
撮影監督、渡部眞氏。CM撮影者として活動後、'86年渡米。プロのための映画学校AFIで学び、米国映画界で活躍。日本復帰後は『らせん』、『ショムニ』、『五条霊戦記』などを手掛ける



制作から配給までデジタル化した『スターウォーズ・エピソード2』

ファインダーを独占する職人的カメラマン、細かい指定を書き込んだ分厚いスクリプトシート。日本映画を長らく支えてきた“伝統芸”とも言えるシステムが映画作りをブラックボックス化し、合理化効率化を妨げてきたという。

“アビッド”を使ったノンリニア編集はもはや当り前となり、来年に予定されているルーカスの『スターウォーズ・エピソード2』は配給すらデジタル方式で行なわれるという。映画の制作から配給までデジタル化されるのは、もはや時代の趨勢(すうせい)。“アビッド”導入に尽力した掛須氏をはじめ、このセミナーに集まった映画人は“古き良き日本映画界”と戦い続けてきた人々だといえる。 

オーストラリアで活動を続ける柏氏は、多くのハリウッド映画が制作されているシドニー映画界のデジタル化について、こう報告する。

「新しい技術が出てきた時、それによって職を失う人が出てくるのは当然です。そこでシドニーではノンリニア編集機導入にあたって2年ぐらい掛けてフォーラムを作り、映画監督、カメラマン、編集者などが意見交換する場を設け、十分討論しながら導入していったんです」

ポストプロデューサー、柏弘一氏。CM制作会社勤務後、オーストラリアへ渡り、国立映画大学在籍中からテレビ、劇場用映画、ショートフィルム、アニメーション、CMなどの制作にエディターとして参加。現在もフリーのフィルムエディターとしてオーストラリアで活動中
ポストプロデューサー、柏弘一氏。CM制作会社勤務後、オーストラリアへ渡り、国立映画大学在籍中からテレビ、劇場用映画、ショートフィルム、アニメーション、CMなどの制作にエディターとして参加。現在もフリーのフィルムエディターとしてオーストラリアで活動中



「日本でもそういう試みはしたんだけど、全然相手にされなかったね」と掛須氏は苦笑する。しかし慢性不況と言われる日本映画にも、近年ぽつりぽつりとヒット作が生まれ、海外でも成功を収める作品が生まれていること、それらがデジタルエフェクトやノンリニア編集を取り入れた作品であることが、もはやデジタル化が止めることのできない波であることを示している。

デジタル時代だからこそ、決断力とコミュニケーション能力を問われる

若手の育成についても盛んに意見が交換された。大学時代から映像に魅せられ、機材会社の下積み時代も「貴重な体験、決して無駄でも苦痛でもなかった」と語る古賀信明氏。「デジタルはしょせんアナログの模倣なのだから、アナログな映像作りの体験のない人は、思わぬところでつまづいてしまう危険性がある」という。

ビジュアルエフェクトのスーパーバイザー、古賀信明氏。『ビルマの竪琴』、『帝都物語』などで特殊造形を、『学校の怪談1・2』、『エヴァンゲリオン』で視覚効果を担当後、デジタル分野へシフト。SFXスーパーバイザーの第一人者としてCM、映画界で活躍。また専門学校講師も務める
ビジュアルエフェクトのスーパーバイザー、古賀信明氏。『ビルマの竪琴』、『帝都物語』などで特殊造形を、『学校の怪談1・2』、『エヴァンゲリオン』で視覚効果を担当後、デジタル分野へシフト。SFXスーパーバイザーの第一人者としてCM、映画界で活躍。また専門学校講師も務める



渡部氏「CGアーティストっていうと1日中モニターの前にいて仕事してるっていうイメージがあるけど、古賀さんはしょっちゅう現場に来てるよね」

古賀「現場の雰囲気を見て、そこでコミュニケートしないと結果的にいい映像ってできないんですよ。特に“アビッド”みたいに映像を全部デジタル的に取り込んで、いかようにも編集できる環境だと、時間短縮どころか試行錯誤が増えてバージョン違いがいくらでもできてしまう。アナログフィルムの時代は物理的な制約があるから、緊張感を持ってエイヤ!って作ってたんですけど、それがデジタル化されることでなくなってしまった。だからこそ自分がどうしたいのかという決断力、監督がどんな映像を欲しがっているのかを察知するコミュニケーション能力がとても大事になってきています」

「親父の愚痴になるかも……」と言いながら、参加者からは「最近の若いスタッフは基本的なコミュニケーション能力がない」、「自分が何をしたいって自分から言わないよね」などなどの発言が噴出。ほとんどが映像制作を目指す学生らしい聴衆にとっては耳が痛い発言?

見せる場がない。だったら今はインターネットで

若い映画監督の登竜門として短編映画が盛んに制作され一般に公開されているオーストラリアの現状を紹介した柏氏は「日本にはショートフィルムの伝統がないから、厳しいかもしれない」と言いながら、こうハッパをかけた。

「デジタル化によって映画作りはとても簡単になった。でも見せる場がない。だったら今はインターネットがあるじゃないですか。やる気のある人はネットを使って自分の作品を公開するなり、海外のアワードに応募するなり何でもやるべきなんですよ。そしてそういうことをするためには、コミュニケーション能力、自分が何をしたいかはっきりさせることがやはり大切」

同時開催、セガの『シェンムー』の開発秘話

午前中に同時開催されたセミナーは、『ハングオン』、『バーチャファイター』など数々のヒットを飛ばしてきたセガ・エンタープライゼスのゲームプロデューサー、鈴木裕氏の講演。70億もの巨費を投じて制作されたというドリームキャスト用ゲームソフト『シェンムー』の秘話公開である。が、やや“ファンの集い”風のトークであったことは否めない?

セミナーBと平行して行なわれたセミナーAでは、“今語る、シェンムーのすべて”と題してゲームプロデューサー鈴木裕氏が登場。聞き手は東京大学大学院助教授、浜野保樹氏セミナーBと平行して行なわれたセミナーAでは、“今語る、シェンムーのすべて”と題してゲームプロデューサー鈴木裕氏が登場。聞き手は東京大学大学院助教授、浜野保樹氏



一部で熱狂的なファンを生み出したものの、このゲームがドリキャスのキラーアプリケーションとは呼べないのも事実。「映画的表現を意識して作った」という鈴木氏だが、質疑応答では「よりシンプルな昔のゲームの方が魅力があった」との発言も。このセミナーを聞いていた萩野氏(ボイジャー社長)は「映画を意識した結果、映画にありがちな大作主義になってしまったのではないか」と指摘する。

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