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デジタルテレビの受像機に標準で字幕機能を――新技術の“マルチメディアネットワーク時代における障害者、高齢者の情報アクセスと著作権”

2000年02月14日 00時00分更新

文● 若菜麻里

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5日、都内で国際シンポジウム“マルチメディアネットワーク時代における障害者、高齢者の情報アクセスと著作権”が開催された。主催は、(財)日本障害者リハビリテーション協会。デジタルテレビやインターネットなど新しい情報手段に対して、いかに視聴覚障害者がアクセスするか、また発信される情報に対して、字幕や音声ガイドを付けることへの障壁となっている著作権との兼ね合いなどについて、講演やパネルディスカッションが行なわれた。

午後のパネルディスカッションでは、午前中に基調報告を行った(財)日本障害者リハビリテーション協会の河村宏氏をコーディネイターに、パネリストとして以下の7人が発言した。静岡県立大学教授の石川准氏、全国LD親の会の井上芳郎氏、日本盲人会連合情報部長の牧田克輔氏、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長の高岡正氏、東京都聴覚障害者連盟事務局長の越智大輔氏、WGBH/NCAMのデジタルテレビ・アクセスプロジェクトのマネージャーのゲリー・フィールド氏、米国ギャローデット大学図書館長のジョン・デイ氏。

まず自己紹介を兼ねて、活動状況などについて、それぞれが発言した。

著作権改正に向けて一歩前進

牧田氏 「図書館での録音テープ図書作りには、著作権の許諾が必要になる。自由に点字、録音ができるように、著作法改正を要望している。昨年6月から、関連団体17団体で障害者放送協議会として、著作権改正に向け活動してきた。その半年後に出された著作権審議会の“審議のまとめ”では、“聴覚障害者のための放送番組などの字幕または手話によるリアルタイム送信”および“点字データのコンピューターへの蓄積およびコンピューターネットワークを通じた送信”が、必要度と緊急性の高い課題として取り上げられたという成果が出せた」

左から、(財)リハビリテーション協会の河村宏氏、静岡県立大学教授の石川准氏、全国LD親の会の井上芳郎氏、日本盲人会連合情報部長の牧田克輔氏
左から、(財)リハビリテーション協会の河村宏氏、静岡県立大学教授の石川准氏、全国LD親の会の井上芳郎氏、日本盲人会連合情報部長の牧田克輔氏



高岡氏 「字幕放送は、NHKで全番組の約17パーセント、民法で2パーセント程度と非常に少ない。しかし、3月27日からは、1日1時間だが、NHKがニュース番組で音声認識技術を使った字幕を世界で初めてリアルタイムで提供する。また、テレビの筆録や映画の字幕をパソコン通信で聴覚障害者向けに配信する際に壁となる著作権法については、自由に字幕化できるように、法改正の署名活動などをしている」

井上氏 「全国LDの親の会に所属している。LDというのは、“ラーニングディスアビリティーズ”の略で、全般的な知的発達に遅れはないが、中枢神経系の機能障害などにより、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するといった能力のうち、特定の使用に著しい困難を示すものだ。例えば、“わ”と“ね”が識別できない、早口でしゃべられると言葉として理解できないといった症状が出る。日本では、LDの社会的認知が遅れている。しかし運動の成果もあって、昨年12月に出された著作権審議会の審議のまとめでは、学習障害(LD)について、“視聴覚障害者に準じる情報保障の必要性を引き続き検討する必要がある”と明記された」

超智氏 「自分自身聴覚に障害があるが、アクセシビリティーは著作権法を変えればいいという問題ではない。1年半前に高岡氏の団体と、東京のテレビ局をまわって字幕を付けてほしいと交渉したが、時間がないのを理由に断られた。しかし、そのあと番組が大ヒットしたら、字幕も付くようになった。提供者側のやる気や障害者に対する理解がなければ、字幕付きの番組は増えていかないと考えている」

家電の規格が決まる前に、視聴覚障害者の要望を提出することが重要

石川氏 「視聴覚障害者をサポートするためのパソコンソフトを開発しているが、極めて開発コストが掛かる。製品を作る1番最初の段階に、アクセシビリティーを徹底的に考慮する必要があると痛感している」

フィールド氏 「米国では、約20年間で、80万個くらいのデコーダーが家庭に入っていた。6年前の法改正で、テレビへのキャプションデコーダーの内蔵がメーカーに義務付けられた。商業放送局では、市場があると判断したときに、字幕付きの番組が増える。地元のニュース番組には必ず字幕が付き、CMで“この番組の字幕はこの企業によって提供”と流れる」

「地上局の字幕付きの番組をケーブルテレビでも配信するときは、やはり字幕を付ける必要があるが、技術が違うため、字幕が配信できないということがある。デジタルテレビも、地上のデジタル放送の規格と、デジタルケーブルの規格に差があるため、字幕配信の方法などについて、検討しているところだ。

全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長の高岡正氏。東京都聴覚障害者連盟事務局長の越智大輔氏、WGBH/NCAMのデジタルテレビ・アクセスプロジェクトのマネージャーのゲリー・フィールド氏、米国ギャローデット大学図書館長のジョン・デイ氏
全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長の高岡正氏。東京都聴覚障害者連盟事務局長の越智大輔氏、WGBH/NCAMのデジタルテレビ・アクセスプロジェクトのマネージャーのゲリー・フィールド氏、米国ギャローデット大学図書館長のジョン・デイ氏



河村 「今年12月には日本でBSデジタル放送が始まる。あと2、3ヵ月で日本のBSデジタル放送の受像機の規格が決定するだろう。コンピューターにより字幕や副音声は柔軟に付けられるが、受像機がそれに対応していなければ、アダプターを別途購入しなければならない。私たちは、今、受像機の規格について、関連団体に要望を出していく必要があるだろう。また、ボランティアがインターネットを使って、字幕を送信することは、今回の法改正で可能になるだろう」

高岡氏 「米国では字幕が法律で義務付けられているが、日本ではできるだけ努力するというだけ。1時間の番組を字幕放送にすると、制作費は約40万円で、そのうち20万円は国から補助が出る。それにも関わらず、字幕付き番組が増えていない。放送事業者が字幕を付けることを公的な責任として受け止める必要がある」

デジタル技術で障害の度合いに応じた字幕サービスを

また会場からは、「当事者としては、字幕が要約されて提供されるのと、全情報が提供されるのでは、意味が異なる。また弱視と全盲では要求が違う」、「パソコンはまだ高額で、特定の人しか手に入らない。貧富の差がより激しいアメリカでは、そのへんをどう解消しているのか」など、さまざまな質問やコメントが出された。

高岡氏 「要約か、全訳かについては、音声を文字に変えた時点で、ある程度の制約が付く。すべてを説明するには、たくさんの文字が短時間で表示されるため、読めなくなる。そのため、要約せざるをえない。難聴の人は、高齢者が多いので、読みやすいのが大切。デジタル放送になると、ハードディスクに保存して映像と音声と字幕をゆっくり見ることができるので、そうなったら文字の量が多くなっても平気だろう。障害者が何を求めているかは、今後、制作者側にに示していく必要がある」

越智氏 「テレビがデジタル化すれば、字幕を要約で見るか、全訳で見るかは、聴覚障害者側で選べるようになるだろう。また番組を制作する段階で、障害者団体とテレビ業界が協力するしていくことは重要だ」

ボランティアらが、手話やスクリーン上の文字情報を提供。文字情報は発言を2人1組でパソコンに入力していくというもの
ボランティアらが、手話やスクリーン上の文字情報を提供。文字情報は発言を2人1組でパソコンに入力していくというもの



フィールド氏 「インターネットにアクセスできる環境があるかどうか、デジタル時代の持てる者と持たざる者の格差は米国でも大きな問題になっている。私の子供が通っている学校では、校内ではインターネットにアクセスできるが、家にもパソコンがある生徒はクラスの半分だ。カリフォルニア州やミズーリ州などで、学校のカリキュラムがCD-ROMで提供され始めている。しかし、クラスの全員が情報にアクセスできるのか、検討しているところだ」

デイ氏 「米国では、PCとインターネットは公共の図書館で使える。使い方も教えている。移住者や異なる文化背景の人のためのサポートとして、英語以外でも、セミナーを行なっている。自動車会社のフォードが、インターネットへのアクセスを月5ドルで可能にしたように、今後、接続料金やハード自体のコストは、だんだん下がっていくだろう」

最後に、河村氏はまとめとして、「情報へのアクセシビリティーには、コンピューター技術が重要だというのは、私たちの共通の認識だ。また、新技術やそれをベースとした製品が出来上がってしまってから、アクセシビリティーに対する運動を起こすのではなく、規格を決定する段階までに要望を出していく必要性が分かった。

「これからデジタルテレビを中心に、まったく新しい情報技術が各家庭に入ろうとしている今の時期、今日参加した関連団体は、シンポジウムの成果を踏まえいっそうの活動を展開することを約束する。またアメリカでの動きは日本のそれと非常に共通点があることも分かってきた。国際的な運動を広げて、障害者と高齢者が情報アクセスを十分に保障される社会を作っていくことを目指したい。パネリストも会場の人も、明日からまた活動を広げていきましょう」と締めくくった。

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