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フルCG映画“A・LI・CE”がフィルムレス上映で公開開始

2000年02月10日 00時00分更新

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2月5日の土曜日、新宿・歌舞伎町の映画館・“新宿ジョイシネマ3”で、フルCGによるSF映画“A・LI・CE”(製作:ギャガ・コミニュケーションズ)の初日の上映が行なわれた。

(C)1999 GAGA Communications, Inc.
(C)1999 GAGA Communications, Inc.



この作品は、モーションキャプチャーを使って、役者の演技をデータ化、それをもとにCGを完成させるというプロセスで全編が製作されたもの。CGでありながら、役者のニュアンスが反映されるというメリットが活かされている。昨年秋の“*東京ファンタスティック映画祭”で上映されたあと、一般公開が待たれていたがこの日から同劇場で、レイトショーでの公開が始まった。

*東京ファンタスティック映画祭:SFやホラーといったジャンルで、特撮映画が多く上映される映画祭。昨年で15回目を迎えた

新宿ジョイシネマ3は歌舞伎町のコマ劇場前広場の西武新宿駅寄り。“A・LI・CE”は21:20からのレイトショーで公開中だ(日曜を除く)
新宿ジョイシネマ3は歌舞伎町のコマ劇場前広場の西武新宿駅寄り。“A・LI・CE”は21:20からのレイトショーで公開中だ(日曜を除く)



この日は、関係者の舞台挨拶が予定されていたこともあって、21時20分の開場前から劇場前は長蛇の列。舞台挨拶が始まるころには定員300人の館内は立ち見が出る盛況だった。舞台に上がったのは監督の前島健一氏、脚本の吉本昌弘氏、音楽の村田昭氏、主人公の亜利寿役(モーションキャプチャーによる演技と声)の清水香里さん、ユアン役の鈴木千尋さん。

舞台挨拶をする前島監督。“銀河英雄伝説”などを手がけている
舞台挨拶をする前島監督。“銀河英雄伝説”などを手がけている



主演の清水香里さん。笑顔が可愛い小柄な女の子だ。テレビアニメ“lain”の岩倉玲音役で知られる
主演の清水香里さん。笑顔が可愛い小柄な女の子だ。テレビアニメ“lain”の岩倉玲音役で知られる



昨年の公開以降も作品に手を加えていたらしく、監督の前島氏は「東京ファンタのときよりも一段とパワーアップしています」と話した。テーマソングも歌った清水さんは、演技と歌に意欲的に取り組んだことを笑顔を交えて元気いっぱいに話した。

左から前島監督、清水香里さん、ユアン役の鈴木千尋さん、脚本の吉本昌弘氏、音楽の村田昭氏
左から前島監督、清水香里さん、ユアン役の鈴木千尋さん、脚本の吉本昌弘氏、音楽の村田昭氏



“A・LI・CE”は近未来が舞台。宇宙旅行からの帰還中にタイムスリップ、ロボット兵に襲われる主人公・亜利寿。そこは独裁者が作ったコンピューターが支配する世界だった……というストーリーは、SFのいろいろなエッセンスを取り入れたもので、CGやキャプチャーといった話題を別にしても十分楽しめるものに仕上がっている。

この作品にはもうひとつの注目点がある。それはフィルムレス上映だ。通常の映画のようにフィルムを使って上映するのではなく、HDDに記録したCGデータを、そのままデジタル入力を持つプロジェクターへ転送、スクリーンに投影する方式である。

これは昨年、米ルーカスフィルム制作の“スターウォーズ エピソード1”で初めて試みられたもので、米国では数十館でプロジェクターを使ったデジタル上映が行なわれたほか、これまでに米ディズニー映画の“ターザン”や“トイ・ストーリー2”などが上映されている。

NEC製の汎用プロジェクター『XT5000』を特製の台座に設置している。デジタル入力端子は前面にある。これでもかなり小型の製品だ
NEC製の汎用プロジェクター『XT5000』を特製の台座に設置している。デジタル入力端子は前面にある。これでもかなり小型の製品だ



従来のフィルム映写機と大きさを比べるとその違いは歴然。フィルムに欠かせない温度管理も不要
従来のフィルム映写機と大きさを比べるとその違いは歴然。フィルムに欠かせない温度管理も不要



この方式の最大のメリットはフィルムを上映館分コピーする必要がないこと。フィルムの傷や傷みとも無縁で、上映後の巻き戻しも不要。将来的に衛星や通信回線でデータを配信すれば配送コストも大幅に下げることができる。また、最近のデジタル技術全盛の絵づくりにおいて、最初からデジタルカメラで撮影すれば、プリプロダクションからポストプロダクション、そして上映までをすべてデジタルデータのままで行なうことができるという変化が生まれる。現行の映画作りで少なくないフィルムからデジタル、そしてまたフィルムという手間とコストがなくなることになる。

注:映画フィルムの解像度は1920×1440ドット毎秒24コマで(4:3の場合)程度といわれる。今回のシステムは1024×768ドット毎秒30コマでの上映。ただし、A・LI・CEのデータは720×480ドットしかないため横を拡大しての上映。 また、プリプロダクションは映画撮影前の下絵作りや背景の作業などを指し、ポストプロダクションとは撮影後のさまざまな効果の追加や編集作業などを指す言葉。

いわば未来の上映システムというわけだが、これにはプロジェクターの性能向上という背景がある。今回の上映には、米テキサス・インスツルメンツ(TI)社が開発した表示システム“DLP”(Digital Light Processing)が使われている。DLPはDMD(Digital Micromirror Device)と呼ばれる半導体素子を使ったデジタルプロジェクタシステム。

DMDは数μm大のマイクロミラーを数十万個、シリコンウエハー上に形成したもので、それぞれのミラーはアクチュエーターによって1つ1つ角度を変えることができ、入ってくる光の向きを変えられる。DLPは入射した光源からの光をDMDによって制御することで映像を作り出す仕組みだ。

TI社は劇場専用のDLPプロジェクターを開発中だが、今回の“A・LI・CE”の上映には映画専用でなく汎用の(といっても業務用の大型機)、NEC製の『XT5000』というプロジェクターが使われた。XT5000は最大500インチまでのスクリーンに対応する、XGA(1024×768ドット)のDLPを使った製品だ。ただし、今回の作品の解像度は720×480ドットであり、それをスクリーンサイズに合わせるため上下をトリミングしているので、画素数は少なくなっているという。

映写室には18GBのHDDを12台搭載内蔵したDDR(Digitl Disk Recorder:米Pluto社製『VideoSpace』)を用意、XT5000とデジタル接続して映像を送出。音声はHi8テープを使うDA88フォーマットのデジタルオーディオレコーダーを使用、両者をタイムコードで同期させるシステムが組まれていた。この日は上映終了後にHi8テープを巻き戻す作業があったが、近日中に音声もHDDに入れてDA88レコーダーは撤去するという。DDRはRAID3システムを2系統内蔵しており、ほぼトラブルフリーで動作するとのことだ。

注:今回、DDRとXT5000は、テレビ放送で使われる“D1”規格と呼ばれるインターフェースで接続された。デジタルオーディオレコーダーは、8ミリビデオの“Hi8”テープに、PCM方式でデータ記録するもので、DA88はそのフォーマット規格。 またRAIDは、HDDを複数使って信頼性やデータ入出力を高速化する規格で、RAID3もその1つ。

下からDDR。中央がオーディオ用のDA88レコーダー、上のモニタはDDRにつながっている
下からDDR。中央がオーディオ用のDA88レコーダー、上のモニタはDDRにつながっている



DDRの中は18GBのHDDが12台内蔵されている
DDRの中は18GBのHDDが12台内蔵されている



Hi8テープに記録するDA88フォーマットレコーダー。音声もDDRに取り込む予定で、近日中に撤去される
Hi8テープに記録するDA88フォーマットレコーダー。音声もDDRに取り込む予定で、近日中に撤去される



(C)GAGA Communications, Inc.
(C)GAGA Communications, Inc.



今回のデジタル上映にあたって技術協力をしていた、(株)IMAGICAデジックスのエンジニアによると、このシステムは今回のようなCG作品には十分なクオリティを提供できると言う。それでも今回は元の素材の解像度が低い(720×480ドット)のでスクリーンでは一部チラちくこともあるようだが、製作段階からハイビジョン(1920×1080ドット)対応で行なえば、まずフィルムに遜色ない上映が可能とのこと。ただし自然画(非CG)や色の再現性に関しては、まだ改良の余地があるということだ。東京ファンタスティック映画祭に続いて、今回も技術協力をしている、ATOM SEVEN STUDIOの今川千佳夫氏は、デジタル上映について「非常に将来性のあるシステム」と話してくれた。

“A・LI・CE”は新宿ジョイシネマ3で日曜を除く毎晩21:20からレイトショーで公開されている。

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