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平等な情報アクセスを目指し、“マルチメディアネットワーク時代における障害者、高齢者の情報アクセスと著作権”が開催

2000年02月08日 00時00分更新

文● 若菜麻里

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5日、都内で国際シンポジウム“マルチメディアネットワーク時代における障害者、高齢者の情報アクセスと著作権”が開催された。主催は、(財)日本障害者リハビリテーション協会。デジタルテレビやインターネットなど新しい情報手段に対して、いかに視聴覚障害者がアクセスするか、また発信される情報に対して、字幕や音声ガイドを付けることへの障壁となっている著作権との兼ね合いなどについて、講演やパネルディスカッションが行なわれた。来場者や出演者は、障害者自身や関連の活動をしている人たちで、それぞれの立場から、様々な意見が交換された。

障害者や高齢者の情報へのアクセスは、基本的人権として保障されるべき

基調報告では、日本障害者リハビリテーション協会、情報センター長の河村宏氏が、シンポジウムの主旨を次のように述べた。
 
「インターネットが新聞で話題に上らない日はないが、パソコンを使ってインターネットにアクセスできるのは、ごく限られた人たちだ。特に、視聴覚障害者や高齢者は、こうした情報にアクセスしづらい状況にあり、また公表された情報を点字や字幕などにするには、著作権という壁がある」

日本障害者リハビリテーション協会の情報センター長の河村宏氏日本障害者リハビリテーション協会の情報センター長の河村宏氏



「今までは、活字情報や音声情報にアクセスできないのは、障害者側の問題とされていた。しかし2020年には、おそらく人口の25パーセントが65歳以上という高齢化社会が到来する。情報へのアクセスに対して制限を伴う人が増加するだろう。アクセス権は基本的人権として尊重されるべきであり、大多数の人がアクセスできる情報に、あるグループはアクセスできないという不利益が解消されるよう、今日のシンポジウムを有意義なものにしていきたい」とした。

デジタルテレビで字幕などを流すには、サービス開始前から関連団体との協調が必要

招待講演“障害者のためのデジタルTV放送について”では、視聴覚障害者向けの放送メディアアクセスに関する活動をしている米国団体WGBH/NCAM(National Center for Accessible Media)のデジタルテレビ・アクセスプロジェクト・マネージャー、ゲリー・フィールド氏が、同団体の活動などについて語った。

WGBH/NCAMのデジタルテレビ・アクセスプロジェクトのマネージャー、ゲリー・フィールド氏WGBH/NCAMのデジタルテレビ・アクセスプロジェクトのマネージャー、ゲリー・フィールド氏



「WGBHのキャプションセンターでは、'92年からテレビやホームビデオ、映画に画像解説を付ける活動を商業的、非商業的に行なっている。クローズドキャプションという方法を用いており、これは、スイッチのオンオフにより、字幕を見るかどうかを視聴者が選べる仕組みだ。またセリフだけでなく、表情や情景なども、字幕で伝えるようにしている」

「生中継やニュース番組では、話された言葉をコンピューターでテキスト化し、リアルタイムで字幕として提供している。臨時の生中継が多かった湾岸戦争のときも、ほとんどリアルタイムで字幕を提供できた。視覚障害者向けに、2ヵ国語放送のような形で副音声を利用し、ナレーションによる情景説明も提供している」

「アナログ放送については、字幕分の帯域は、法で確保されている。また、米国では、連邦通信委員会が画面解説のルール作りを試みている。例えば、3ヵ月に50時間は解説を入れなければいけないとか、ビデオデッキに対して、必要な仕様を検討している。2006年には、全米のテレビ局がデジタル放送を開始するため、デジタルテレビの社会的な義務や責任を、ルール化しようとする動きもある」

字幕や解説の付加を法律で義務づける?

「デジタルテレビでは、アナログの10倍の容量の帯域が確保できる。そのため、セリフを字幕で解説するだけでなく、視覚障害者団体が何年間も要望していた付帯サービスができるだろう。たとえば、今はモノラルで提供している画面解説を、臨場感あるステレオの音声で提供できる。字幕は、今は画面の下に固定された黒い長方形のスペースに白抜きの文字で提供しているが、字幕の領域の大きさや背景の色、枠の形、テレビ画面の中での配置場所、フォントも視聴者側で変更できるようになるだろう。数ヵ国語での字幕も提供できる」

「ただしそれは、WGBHは単独でできるわけではなく、テレビやビデオメーカーなどとの協調が必要だ。例えば、クローズドキャプションは、6年前に法律によって、13インチ以上のテレビへのキャプションデコーダーの内蔵がメーカーに義務づけられた。それ以前は、デコーダーを別に購入する必要があった。デジタルテレビ放送についても、我々は業界とのパートナーシップにより、字幕サービスの配信などをテストしていきたいと考えている」

「このように、アクセシビリティーに対する動きは広がってきており、XML言語やJavaなどを活用した放送技術も開発されはじめている。今後、デジタル技術で何千というチャンネルが空くので、その使い道は無限大だ。文章を音声に変えるだけでなく、画像を音声に変換するということも、不可能ではなくなるだろう」

電子的な著作物のフォーマットを変更するためには、著作権法の改正が必要

引き続き、招待講演“著作権とアクセシビリティー”では、米国ギャローデット大学図書館長のジョン・デイ氏が、まず世界人権宣言の第19条を紹介した。

これは、“すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由、並びにあらゆるメディアにより、また、国境にかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む”というもの。

しかし、デイ氏は「50年前にこれを採択したが、未だにすべての人が同等の権利を享受できているわけではない」と語り、著作物に字幕解説を付けたり、点字や音声化が容易になるよう、著作権法の改正に向けて活動をしていると、語り始めた。

ギャローデット大学図書館長のジョン・デイ氏ギャローデット大学図書館長のジョン・デイ氏



「現在、情報は電子的な形で作成されることが多く、電子的なものは安価で簡単にフォーマットを変更できる。たとえば、テキストデータを点字データや音声データなどに変換できる、すべての著作物がフォーマット変換してよいことになっているわけではない。そのため、視聴覚障害の人、そのほかすべての人が情報にアクセスできるという権利と、作者が著作物を所有する権利の間には調和が必要だ」

ハンディキャップを持つ人のための世界的な著作権処理の合意を

「また国際間の障壁がある。著作権は、著作権者の居住国の法律がベースになっているが、各国の図書館では、他国の法律までは把握していないので、他国の著作物にはフォーマットに変更を加えない、というスタンスを取りがちだ。しかしそれは、すべての人が平等に情報にアクセスすることへの障害となる」

「そのため、視聴覚障害者らのことを考慮した著作権法の改正が必要だ。私が関わっている国際的な著作権のプロジェクトでは、障害を持つすべての人がアクセスできるような、著作物のフォーマット変更の合法化を目的としている。基本法案を作成し、各国の図書館協会と協力して、非政治的な力でプロジェクトを推進していく予定だ」

「現状としては、国際図書館連盟が、このプロジェクトの主導権を握っている。米国では、図書館協会がこのプロジェクトに参加し、著作権当局が賛同している。また、国際出版協会とも手を結んでいく計画だ。情報のアクセスをある集団に拒絶するのは最悪の差別である。著作権と、すべての人々の人権との間に調和を求めて活動を続けていくつもりだ」

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