米西海岸在住ライター、TERO MODA氏の寄稿をお届けする。
謎のビルボード
そのビルボードを発見したのは、今年1月4日、MACWORLD Expo 2000の取材でSan Franciscoを訪れたときのことだった。オレンジの背景に、白のペイントで2つのメールアドレスだけが、ぽつんと記されている。goliath689@aol.com
david@earthlink.net
しかしいったい誰が何の目的で出している広告なのかが、さっぱりわからない。
おそらくこの不思議なビルボードを見た何人かは、私と同じ疑問を抱き、ここに書かれたメールアドレスに問い合わせをしていることだろう。ビルボードという広告媒体にはどの程度の注目と反応があるのか、広告代理店がリサーチをとっているのかもしれないと、私は推測した。
しかし、MACWORLD Expo 2000の取材を終え、San Joseに戻ると、San Franciscoにあったのとまったく同じビルボードを見つけてしまった。そして、ワシントン州Seattleで取材中のライターが、やはり同じビルボードを見つけたとの連絡をくれた。リサーチにしては、規模が大きすぎる。
San Jose市内にある謎のビルボード。goliath689@aol.comの「689」という数字に、意味はない。AOLではgoliathというメールアカウントがすでに取得済みだったため、goliath689が使われている。 |
真偽をはっきりさせるため、ビルボードのメールアドレスに問い合わせをした。それから3週間後、2つのメールアドレスの主からようやく返事が届いた。
ダビデとゴリアテ
返事をくれたのは、EarthLink社Corporate Communications部門の責任者Arley Baker氏だ。彼によると、謎のビルボードは、全米第2位のインターネットサービスプロバイダーEarthLink社のキャンペーン広告だった。なるほど、ビルボードの背景には、EarthLink社のカンパニーカラーであるオレンジが使われていたわけだ。今年1月にSan Franciscoで開催したMACWORLD Expo 2000でのEarthLink社のブース。会社ロゴの背景には、ビルボードと同じオレンジが使われている。 |
EarthLink社は、日本人には馴染みの薄いインターネットサービスプロバイダーだ。しかし、Apple社のiCEOスティーブ・ジョブズ(Steve
Jobs)氏がMACWORLD Expo 2000/San Franciscoの基調講演において複数年にわたる提携を発表した唯一のプロバイダーということで、その社名をご記憶の読者もいることだろう。
ビルボードのメールアドレスは、これらがEarthLink社とAmerica Online社(AOL)から一般ユーザーが取得したアカウントであるかのように見せている。AOLは全米第1位のインターネットサービスプロバイダーで、ビルボードは2つのメールアドレスを並べることにより、EarthLink社がAOLと肩を並べるプロバイダーであることをアピールしている。
そのAOL(goliath689@aol.com)とEarthLink(david@earthlink.net)のメールアカウントには、もう1つの秘密があった。ユーザー名、ダビデ(David)とゴリアテ(Goliath)は、旧約聖書の登場人物だったのだ。少年ダビデは、ペリシテの巨人ゴリアテを石を使ってうち倒す。つまり、ビルボードには、若いEarthLink社が、巨大なAOLをうち負かすというストーリーが隠されていた。
ビルボードにはこれ以外に、2つのバージョンがある。
herd@aol.com(herdは「牛の群」)
heard@earthlink.net(heardは「たよりを受ける」)
そして、
serf@aol.com(serfは「農奴」)
surf@earthlink.net(surfは「サーフィン」)
AppleとEarthLinkの提携
EarthLink社がApple社と提携したことにより、今後、米国内で販売するすべてのマッキントッシュ製品には、EarthLinkへの接続ツール(EarthLink TotalAccess)がプリインストールされることになる。マッキントッシュユーザーがErthLinkに加入するたびに、Apple社はEarthLink社から収入を得る契約になっている。また、Apple社はEarthLink社への2億ドルの出資と取締役会への参加を予定している。
日本居住者がEarthLinkへ加入することは可能だ。ただし、2000年2月現在日本国内のアクセスポイントは東京だけ(大阪のアクセスポイントは現在休止中)。また、このアクセスポイントにダイヤルアップするには、月額19.95ドル(約2130円)の会員費用に加え、1分ごとに15セント(約31円)の追加料金を支払うことになる。