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究極的にムダを削減するのがインターネットビジネス――ECビジネスは一体どこへ行くのか?(後編)  

2000年02月03日 00時00分更新

文● 岩戸佐智夫

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週刊アスキーで、パーソナルコンピューターとインターネットが普通の人々の生活をいかに変えていくか? をテーマに取材を続けてきた岩戸佐智夫氏からの寄稿。典型的なECビジネスモデルの現状について再考し、今後1年のネットビジネスの行方を語る(敬称略)。

激しい潮流の中で次々と新しいビジネスが生まれる。先日、日経産業新聞主催のセミナーに参加した。“BtoC ビジネス 成功の条件”と題したパネルディスカッションである。パネリストはDLJディレクトSFG証券の社長、国重淳史、オートバイテル・ジャパンの社長、佐々木経世、NTTデータの取締役/新世代情報サービス事業本部長、宇治則孝の3人だった。

典型的なECビジネスモデルの現状は……

*国重淳史のDLJディレクトSFG証券は、昨年秋から話題になっているオンライン専業の証券会社だ。昨年末には取扱手数料の98パーセントの値引きを掲げ話題となった。現在の会員数は3万数千人に達している。

*
國重氏は、住友銀行出身。銀行員時代は、MOF担当を務めていた。社名“SFG”の頭文字は、Sが“Share”。Fは“Flexible”Gは“Global”をそれぞれ示す。米国では英国のビッグバンに相当する、'75年5月1日のメーデー(証券市場改革)以降、金利・手数料の完全自由化が実施された。その後の激しい競争により証券会社の倒産・廃業、他社による買収が相次いだ。米国DLJでも、'89年よりオンライン取引事業をスタート。「インターネット自体が一般に普及しきれていなかったこともあり、7~8年は、さしたる進捗もなかった」E*trade社が、ウォールストリートジャーナルに大きな広告を打ったことがキッカケとなり、業界全体の流れが変わっていったという。

*オートバイテル・ジャパンは、'99年の11月に設立した自動車新車のネット販売の会社だ。とは言っても実際はオートバイテルが販売を行なうのではなく、オートバイテルのホームベージで各社のディーラーに見積もりを出させ、ユーザーがそこから購入を決定するというもの。いわば販売の仲介業のようなものだ。オートバイテルは仲介だけではなく、販売の指導までするところが単に仲介とはいえないところだ。アクセスしたユーザーは述べ5000万人、出された見積もりは5万数千件、内十数台が成約にまでいっている。

*オートバイテル・ジャパンの本社は米国にある。autobytel.comは'94年の設立で、インターネット上で自動車販売情報の仲介を行なう企業としては米国最大手。'98年の見積もり依頼件数は130万件で、成約に至った件数はこのうち約30パーセント。金額に直すと約1兆円で、これはインターネット自動車販売市場では最大だという。日本法人の資本金は15億490万円で、インテック、伊藤忠商事(株)、トランス・コスモス(株)、(株)リクルート、(株)オリエントコーポレーション、イーソリューションズ(株)の6社が共同出資

NTTデータの新世代情報サービスはEコマースに乗り出そうとする会社に情報ツールやプラットホームを提供することを業務としているが、自らも『まちこ』という名前の女性向けの物販サイトを持ったり、サンリオと組み子供や家庭向けの『マグネット』というサイトを展開するほか、プロバイダーサービスも開始するなどさまざまな形でインターネットビジネスにも乗り出している。

消費者が情報やサービスをハンドリングする時代に

NTTデータの宇治が言う。

「インターネットビジネスは、消費者が情報やサービスをハンドリングすることになるでしょう。コンシューマー主導のサービスが展開することになる」

ユーザーはセールスマンにコントロールされることを極力避けながら、各社の車の見積もりを客観的に比べることができるというのが、オートバイテル・ジャパンのサービスだ。だが、これも宇治が言う消費者主導になりつつあるやり方だとも言うことができる。

アメリカでは車の値段の広告費が3分の1、人件費が3分の1だと佐々木は言う。そこにインターネットを導入することで広告費や人件費が5分の1まで下がるのだと語った。

「アメリカではメーカー主導型のホームページには集まらないんです。インターネットユーザーに味方する独立系のサイトに人気が集まっています。日本も開けてみたら同じような現象が生じていると思います」と佐々木は言う。

私は昨年末、週刊アスキーの連載の取材で国重と会っていた。

「ザウルスを会員に貸し出す『ゲット!ザウルス』、アナリストや証券会社の推奨株を並べ、それがその後どうなったかを競馬予想のようにホームページに載せたい」

私を前にさまざまなアイデアを開陳してみせた。面白い人物だと思った。その時、国重は大幅な値下げを口にした。DLJディレクトSFG証券は他の証券会社よりもはるかに人員が少ない、だから手数料が安くてもやっていけるのだと国重は言った。

その話を聞いた時、面白いが、これは安売り合戦を誘発するなと私は思った。当たり前の話である。国重が手数料の値下げを発表するや、翌日には松井証券がいち早く手数料の値下げを発表した。こうなればどこまで耐えられるかの競争だ


*米国のオンライン証券では、新たな問題が出てきている。広告PR費が業績を圧迫しているのだ。チャールズ・シュワッブ、E*トレード、DLJディレクト、アメリトレードの主要4大オンライン証券が99年第3四半期に計上した広告費の合計は約1億8000万ドルで、前年同期比で1.9倍にもなっている。激しいPR合戦が繰り広げられ、12月期の決算で黒字になったのはチャールズ・シュワッブにのみだった

オンライントレードは、インターネットビジネスの典型的な実例を示すだろう

インターネットビジネスは究極的にムダを削減していくビジネスだ。それはネットジェネレーション企業自身に厳しい要求を突きつける(ネットジェネ企業だけでなく、既存の企業にも同じことが起きるだろうと私は考えている)。

「オンライントレードは面白い。1年後にどこが生き残っているかだ。パソコンの世界がドッグイヤーなら、この1年は7年に相当する。つまりこの1年で7年の戦いを見られるということだ。オンライントレードはインターネットビジネスの典型的な実例を我々に、この1年で示すことになるのではないか」

M&M研究所代表の三石玲子はパネルディスカッションが始まる前の基調講演の中でこう語っている。
 
おそらく幾つかのオンライン証券会社は消え去るだろう、そう私も思う。それがどこなのか、今年の終わりには答えが出ているはずだ。オンライン専業証券の幾つかが消えるだろう。前編でも書いたが、リアルとバーチャルの両方を持っている方が強いのは目に見えているからだ。しかしそれをもってオンライン専業は駄目だとは言えないだろう。
 
この1年は1つの時代の始まりの終わりにしか過ぎないのだ。

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