このページの本文へ

【サンフランシスコNPO訪問記 Vol.3】NPOが行政サービスの一部を肩代わり――サンフランシスコ再開発局、小ビジネス局

2000年02月02日 00時00分更新

文● 秋吉一郎

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

行政と民間の役割分担は、財政悪化が進む日本の自治体でも関心の集まる問題だ。米国では、NPOが行政サービスの一部を肩代わりする形で、効率化に大きな役割を果たしている。

サンフランシスコ再開発局の入り口にある、再開発地区が示された地図。左は今回の視察をコーディネートしてくれたジャーナリストの岡部一明氏
サンフランシスコ再開発局の入り口にある、再開発地区が示された地図。左は今回の視察をコーディネートしてくれたジャーナリストの岡部一明氏



再開発の財源はTIF方式で調達

サンフランシスコ再開発局は、カリフォルニア地域再開発法に基づき設立された地方公共機関で、市内各地の再開発を担当する。
 
再開発はまず、市議会が特定地域を調査地区に指定し、住民代表を含む委員会で計画案を練り上げる。再開発局にはプランナーがいて、粘り強く住民と対話しながら案をまとめる。

シニアプランナーのスタンレー・ムラオカ氏は「私たちはあくまでも技術的なアドバイザー」と話す。事務所入り口に掲げられた市内地図には数多くの再開発地区が示されており、日本町が含まれる地区はあと1年で完全に再開発が完了するという話だった。

再開発の仕組みを説明するシニアプランナー、スタンレー・ムラオカ氏
再開発の仕組みを説明するシニアプランナー、スタンレー・ムラオカ氏



再開発の財源は普通、不動産税だという。以前は、連邦政府からも大量の予算が投下されていたが、今は減っており、タックス・インクレメント・ファイナンシング(TIF)と呼ばれる方式などで資金調達している。TIFとは、再開発による経済活性化で固定資産税収が上がる分を見越して前借りする資金で、再開発局予算のかなりの部分を占める。カリフォルニア州では過去20年くらいこの方式で調達している。TIFを背景に再開発局が公債を発行することも可能だそうだ。

計画案を検討する委員会には一般的に、地域のNPO代表が参加する。ムラオカ氏が現在担当しているベイビュー地区だと、環境保護NPOが加わっており、有害廃棄物の発生を懸念して発言している。当然、利害の対立する住民団体もあるわけで、「計画が出来上がるまで普通でも1年半から2年、長い場合は5年程度は掛かる」という。  

低家賃共同住宅もNPOで

再開発の中で特徴的なことの1つに、低家賃住宅の建設を行政でなくNPOが進めていることが挙げられる。 

サンフランシスコ中心部、近代美術館やソニーのマルチメディア映像館“メテレオン”があるヤーバブエナ地区には、住民らによる再開発NPO“借家人・所有者開発組合”があった。
 
同組合が建設した代表的建物であるメンデルスゾーンハウスを見学した。高齢者向けの低家賃共同住宅で、1階には別のNPOが運営するデイケアセンターも入居している。案内してくれた管理人の男性は「近辺にある民間のマンションに劣らない造り」と力説。共同食堂や野菜や花を植える庭もあり、確かに整った環境に見えた。

地域の開発NPOが建てた高齢者向け住宅の1階で、管理担当者に話を聞く
地域の開発NPOが建てた高齢者向け住宅の1階で、管理担当者に話を聞く



  NPOに住宅建設を任せるメリットについてムラオカ氏は「地域事情に詳しいし、建設、運営コストも下げられて効率的。昔はわれわれも造っていたが、今は連邦から来るお金も少ないし」と苦笑した

インターネット端末も完備した小ビジネス管理局

  少額ローンで起業家を支援する連邦機関として、小ビジネス管理局がある。全米に68ヵ所あり、サンフランシスコにも事務所がある。行政が信用保証をして1万ドル以下の少額融資を行ない、ベンチャービジネスやNPOを支える。

支援団体の選定は地域のNPOに任せている。経済開発担当のゲーリー・マーシャル氏は「非営利団体はすでに同様の支援プログラムを持っており、ノウハウがある上に地域の情報も多く入ってくる」と、その理由を語る。

連邦小ビジネス局で説明するゲーリー・マーシャル氏
連邦小ビジネス局で説明するゲーリー・マーシャル氏



連邦小ビジネス局にある起業家センター
連邦小ビジネス局にある起業家センター



このほか経営者OBのいるNPOと連携し、経営コンサルティングもする。同じ階に起業家センターを開設しており、インターネット端末や業種別の資料も完備。誰でも使うことができるという。

行政の効率化が言われる日本。自治体の業務も、種類によっては外部委託が進む。もちろん行政が自身でやらねばならない業務はあるだろうが、コスト削減とサービス向上のため民間企業やNPOの力を借りる米国の様子には、参考にすべき点がある。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン