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【サンフランシスコNPO訪問記 Vol.2】新通貨でSFの経済を活性化――地域交換取引制度(LETS)と地域通貨“ブレッド”

2000年02月01日 00時00分更新

文● 秋吉一郎

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ある地域だけで通用する通貨で、財やサービスを取り引きするのが地域交換取引制度(LETS)である。世界2000地域で展開されており、米国でも100地域以上が導入している。貸し借りバランスをコンピューターに記録しているところも多い。地域経済活性化の一手段として最近、注目度が高まっている。

日本では通産省の加藤敏春氏が福祉、環境分野のサービス提供を中心に据えた“エコマネー構想”を提唱、複数の地域で導入実験が始まっている。今回のレポートは、カリフォルニア州サンタクルーズで導入予定の電子マネー利用のLETSと、バークレーで利用されている地域通貨“ブレッド”を紹介する。

NPOスタッフの給料の一部は地域通貨で

  サンタクルーズで導入予定のLETSは、スマートカードを利用した電子マネーの地域通貨だ。ここがモデルにしているのは、LETS発祥の地、カナダのバンクーバー島コモックス。同地で地域通貨を提唱したコンピューター会社社長、マイケル・リントン氏を招き、システムの構築を進めている。

LETSシステムを説明するマイケル・リントン氏
LETSシステムを説明するマイケル・リントン氏



“コミュニティーウェイ”と名付けられたこのシステムは、まず会員企業が地域のNPOに寄付をする。寄付されたNPOはスタッフの給料の一部を地域通貨で払い、各個人が会員企業で物品購入の15~20パーセントを地域通貨で支払う仕組みだ。

企業もほかの企業やNPOが提供する物やサービスを購入し、地域通貨を使い循環させる。20の企業と30団体のNPOが参加を表明しており、既に4万ドルの寄付があるという。
 
'83年からカナダで地域通貨の実験を試みているリントン氏は「最初はやはり、個人がサービスを受け渡しする方式を取っていたが、小売店の加盟が増えず、システムが必ずしもうまく稼働しない。そこで、コモックスでは'98年から新システム、コミュニティーウェイを作り、従来のシステムと併用している。このためサンタクルーズでも新システムを導入することにした」と話す。

サンタクルーズで導入予定の地域通貨
サンタクルーズで導入予定の地域通貨



各地の地域通貨
各地の地域通貨



LETSが最も普及しているイギリスでは既に、電子マネーを使ったシステムが動き出しているという。  

通貨発行権を銀行から住民の手に

サンフランシスコ湾の対岸にあるバークレーは60年代、世界に広がった学生運動の発火点となったカリフォルニア大学バークレー校のある街として知られる。ここで地域通貨“ブレッド”が導入されたのは3年前。お札にはパンの絵が描かれている。

地域通貨“ブレッド”。パンの絵が印象的
地域通貨“ブレッド”。パンの絵が印象的



通貨単位はアワー。1アワーは12ドルの価値を持つ。現在の加入者は500人で、うち30店が商店。流通量は2万5000ドル分という。仕組みはこうだ。まず、ブレッドのメンバーになる人は事務局に寄付をし、アワーで紙幣をもらう。そしてブレッドの情報誌に、自分が提供できるサービスを載せる。

ニューヨーク州イサカで'91年に始まった“イサカアワー”をモデルにしている。情報誌には、大工仕事からガーデニング、有機農産物の販売、ペットケアなど、多様なサービスが並んでいる。もちろん会員の商店でものを買うことも可能だ。サービスの値段は各自が決める。地域の中でモノやサービスを交換する一種の地産地消方式なので、余計なエネルギーを使わず、環境にも優しいという。中心メンバーの1人、手作りギター職人のデビッド・メリー氏は、ギターの修理代を、ブレッドで受け取っている。

加入者の提供サービス一覧が載った情報誌を手に話すデビッド・メリー氏加入者の提供サービス一覧が載った情報誌を手に話すデビッド・メリー氏



  LETS導入の目的は地域経済の活性化だが、さらにメリー氏は「地域の信頼関係も強まる。ブレッドは、通貨発行権を銀行から住民の手に移す試みです」と意義を強調していた。
 
日本のエコマネーは、これまで貨幣的価値に換算されることのなかったボランティアをも価値化する点でLETSより広い概念と言える。福祉分野に限った導入を試みる地域もある。しかし今回の研修の感想から言うと、ある程度の会員数を持つためには、一般商店など多様な使途先がある方がいい。一般の通貨との互換性もあった方がシステムを動かしやすいのではないかと思った。

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