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蜘蛛の網に掛かる黄金の魔法――ECビジネスは一体どこへ行くのか?(前編)  

2000年01月31日 00時00分更新

文● 岩戸佐智夫

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週刊アスキーで、パーソナルコンピューターとインターネットが普通の人々の生活をいかに変えていくか?をテーマに取材を続けてきた岩戸佐智夫氏からの寄稿。自身がパソコン誌で連載を始めた3年前のことを振り返りながら、現状のネットビジネスの行方を語る(敬称略)。



                              ***

「苦節5年でしたね」 

とM&M代表の三石玲子*は言った。日経産業新聞主催の“2000年のネットビジネスの行方”というセミナーで行なわれた基調講演でのことだ。

「去年の暮れからでしょうね」

ECビジネスのマーケットが見えてきたのはそこら辺りで、それまでは実験と失敗の繰り返しだったと彼女は言う。

*三石玲子(みついし・れいこ) 。M&M研究所代表。東京大学文学部卒。流通業、シンクタンクを経て独立し、現職。サイバービジネスのマーケティング、顧客リレーションシップマーケティングを専門とする。著書に『オンラインショッピング』、『webマーケティングサバイバルガイド』、『サイバービジネスがわかる』など多数

ドッグイヤーの世界では3年前はふた昔前。Eビジネスの世界の動きも目まぐるしく変わる

3年前から、『パソコンなんていらない』、『メディアを継ぐもの』、『すべてはビットとして』という一連の連載で取材・執筆を私は続けてきた(掲載誌は休刊となったE・COMから週刊アスキーにわたっている)。タイトルやタッチこそ違え、いずれもパーソナルコンピューターとインターネットが、私たちの生活をいかに変えていくのかをテーマにしたものである(この一連の連載を始めるまで、私はパソコンにもインターネットにもまったく無知な人間であった)。

連載の初期のころ、つまり3年前の話だが、すでにパソコンとインターネットは世の中に普及してしまっているのだと熱弁を奮う編集者を私は鼻で笑った。「パソコン雑誌の編集部や秋葉原ならいざしらず、我々の周りのどこにパソコンに詳しい人間がいるのだ」と。

数日後のことだった。その編集者は首をうなだれて私の前に現われ言った。「僕はやはり特殊な世界にいるようです」。彼は数日をかけてパソコンとインターネットの普及を私に証明しようとデータを集めていたのだ。だがそのころにはまだ、彼が思うようなデータはどこにもなかった。当時はまだ一般への普及など、ほど遠いものだと思われたのである。

3年前の話などいまさらしても仕方はないが、世の中の雰囲気はそんなものだった。パソコンの世界は1年が7年に相当するドッグイヤーだと言われるが、そうならばあれから21年が経過したということになる。

昨年秋ごろからEビジネスに関する話題が尽きることがなかった。昨年Eビジネスにおいて最も大きかった出来事は、株取引手数料の自由化にともなって始まったオンライン証券会社の登場だったろうか*、あるいはソニーが音楽データ配信を開始したことだろうか*、それともソニーまでもが参入を表明したインターネット銀行構想の登場だろうか*

*オンライン証券会社の登場
昨年10月の株取引手数料自由化にともなって、ネットトレーディング戦争が勃発。松井証券などの中小証券会社から、大和、野村などの大手証券会社、これ以外の新規参入組みまでが交じって戦いが続いている


*音楽データ配信を開始
昨年12月にソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)が始めた有料音楽配信サービス“bitmusic”。SDMI(Secure Digital Music Initiative)に対応する有料音楽配信としては、世界で初めての試み


*インターネット銀行構想
銀行は銀行だけがやるものという考えを覆した。銀行以外の企業がネットバンキング事業に参入するのはソニーばかりではない。つい先日、ソフトバンク・ファイナンスも駿河銀行と提携、インターネット上に仮想支店を開設すると発表


物流・販売チャンネルを持つ既存企業の逆襲がいよいよ始まるのか?

いつもはECに厳しいという三石は基調講演でこう語る。

「間違いなくお金が動きます」

これまでのインターネットビジネスはまさしくベンチャービジネスであった。これのみに賭ける、という人間がインターネットビジネスに賭けてきた。たとえ大企業が始めたインターネットビジネスであっても、それはその企業が積極的に動いたのではなく、企業内の変わり者が始めたことでしかなかった。

だが'99年の暮れからはその流れが違ってきた。インターネットビジネスに投入される予算の桁が変わってきているのだという。もちろん消費者がどこまでついてくるかはまだ分からない。通産省が発表しているインターネット市場で動いた金の総額もあまりあてにならない、実体はそれほど大きくないだろうと三石は言う。

既存の大企業すらインターネットビジネスを無視することはできなくなってきたのは事実だ。それはインターネットのみでビジネスを成立させてきたベンチャーへの逆襲が始まるということでもある。既存の企業はショップなど、実体としての物流・販売チャンネルを持っている。インターネットはバーチャルだが、物質はバーチャルではない。やはり物質とバーチャルの両方をカバーしている方が強い、それは事実だろう。先行者利益で勝ち抜いてきたベンチャーも新しい何かを考えねばならない。

リアルの商売を単にバーチャルにするだけでない、新しいビジネスの必要性<

三石は、「これまではリアルの商売をバーチャルに移し替えただけというところが多かったが、これからはインターネットという世界規模の蜘蛛(くも)の網の性質を全面的に利用したビジネスを展開しなければならないだろう」という。

既存の企業側は大きな問題を抱えている。まずトップの人間がインターネットという文化を理解できるかどうかだ。これまで大企業が進出しながら、結局ベンチャーに勝てなかったのは、インターネットの文化を理解することができなかったからだ。端的に書けば、消費者を嘗めていたのだ。

これからはこれまでの企業内での考え方、やり方を変えることが必要になる。

インターネットビジネスはこれまでの社会のあり方を間違いなく変える。そしてそれに対応する為には既存の企業やビジネスは嫌でも応でも変わらねばならない。必要としてきたものが不要のものとなり、不要であったものが必要となる。インターネットがもたらす大きな変化に一般の人々も少しずつ気づきつつある。だが、まだそのことはそれほど大きくは語られていない。それに対応し、新しい哲学を持ち得たものが勝ち残ることになる。

大きな変化が地殻を破って今、噴出しようとしているのだ。

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