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元大統領がNPO活動に飛び込む国のシニアネット――KRPベンチャー村より(前編)

2000年01月31日 00時00分更新

文● 服部貴美子 

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去る1月27日に、京都リサーチパークを会場に“KRPベンチャー村”が開催された。スタートアップベンチャー(27日)、ベンチャープラザ2000京都(翌28日)と同時に開かれたこのイベントには、学生、シニア、女性、産学連携、企業内ベンチャーなど、起業をあらゆる角度からとらえた講演やパネルディスカッションなどが盛り込まれていた。

本レポートでは、同日午後から始まったシニアベンチャーフォーラムの概要をお伝えする。

後れをとっている日本のシニア向けネット

パネルトークに先だち、全米約3万人の会員を有するNPO“シニアネット(SeniorNet)”の代表として、アン・リクソン氏とスマートバレージャパンの山藤泰氏による基調講演が行なわれた。

“シニアネット”代表、アン・リクソン氏“シニアネット”代表、アン・リクソン氏



米国シニアネットのホームページは、月間100万ページビューという驚異的な数字を記録。そこで、若きリーダー、アン・リクソン氏の果たした功績は大きい。

シニアネットは、サンフランシスコに本拠地を置き、160ヵ所のラーニングセンターを有する組織である。IT(情報技術)を活用してシニアの活性化を図るその活動は、各所で高く評価され、ことにリクソン氏がシニアネットのボードになってからは、会員が過去2年で1万人も増加し、3万1397人と過去最高の数を記録。また、講習を支えるボランティアの数も3637人となって、これも2年間で2300人増加し、'98年のYahoo's Best Community for Seniors、'99年のWebby Award を受賞するに至った。

一方のスマートバレージャパンは、情報化と地域新興を目指すNPOとして大阪で'96年9月に活動開始。大阪ガスや関西電力といった地元起業のOBやOG(以下OBと総称)を対象として、インターネット上で趣味や仕事の輪を広げることを目指すシニアネットワークパーティ(以下SNP)や、シニア自身による企業、学生やベンチャーへのサポート活動などを行なっている。

スマートバレージャパンの山藤泰氏スマートバレージャパンの山藤泰氏



スマートバレージャパンの活動は多岐にわたるが、学校にネットを敷設するスマートスクール(姫路)、ビジネスカフェ(シリコンバレー・東京)、シニアネットワークパーティの3つの存在が大きい。特に3つ目は行政が、広く一般のシニアに対しての地域活動を行なうのに対して、定年退職者のみにフォーカスしているのが特徴的だ。

「いきなり会社という居場所をなくした定年退職者は、趣味やボランティア、新しい仕事への意欲は高いのだが、社会、ことに地域とのつながりが希薄で、どうすればいいのか方向を見失う。それを助けるのは、インターネットというツールである」と山藤氏。自分の楽しみを仕事にしたいという気持ちが大きく、かつ収入を優先しない60代のホワイトカラーは、若者の減少を補う労働力になると語った。

まず、OBという親近感を抱きやすい集団での取り組みからスタートし、OBがOBを教える形でインターネットリテラシーを高め、「いずれは、人材の検索機能や、企業や地域との橋渡し、オフ会などでの交流の機会を作っていきたい。また、米国シニアネットとのコラボレーションも実現させたい」と抱負を述べた。

続いて開かれたパネルディスカッションでは、こうした日米のNPO団体の活動内容をふまえ、今度の日本でのシニアベンチャーの可能性について討議された。

司会は、(財)千里国際情報事業財団の専務理事、岩田誠氏。同財団は、関西エリアの産・官・学・一般の人々を結ぶ情報のパイプ役として設立された司会は、(財)千里国際情報事業財団の専務理事、岩田誠氏。同財団は、関西エリアの産・官・学・一般の人々を結ぶ情報のパイプ役として設立された



シニアネットの活動に見る、日米の風土の違いとは?

まず、岩田氏は、リクソン氏が女性であり、しかも“シニア”という世代よりもかなり若いことに触れ、シニアネットへの参加への男女差や若年層との交流の実態について質問した。リクソン氏によれば「ボランティアのほとんどが男性で、しかもかつて高い地位にいた人が多い」ようだが、これは、パソコンやインターネットといった情報ツールに、男性のほうがなじみが深いからだと推測される。

過日、山藤氏とリクソン氏は仙台を訪れたそうだが、「地域に根付いた活動なら、女性のパワーが大きく、結束力も強い。SNPのパソコン講座など、今はまだ講師も受講生も男性が優位だが、受講生には女性の姿も見えるようになり、次第に増えてくるに違いない」と語った。また、米国には、若者とシニアたちとの交流を促すようなサイトもいくつかあり、「たとえば、戦争に関する1冊の本を読んで、お互いの書評を語り合うというような試みも始まっている」

シニアネットの活動内容からは、日米の風土の違いも感じられる。その代表例が、カーター元大統領が、自ら地域に飛びこみ、活動に参加していたというエピソードだ。日本の首相が、こうしたNPO活動に姿を見せたという話はあまり聞かない。リクソン氏は「おそらく、寄付金が税控除の対象となる米国と、日本とでは状況が違うのだろう。今後、税法が改正されれば、日本にも積極的に協力してくれるリーダーが現われるかも」と期待を述べた。

また、岩田氏が、ネチケット違反などインターネット特有のトラブルの有無などについて質問すると「かつては、問題が起こったこともあるが、仲間内からのプレッシャーで解決した例が多い」と、組織に自浄作用が働いたことを説明。山藤氏も、米国に渡っていたときの経験から「ディスカッショングループが数百に分かれても、そのすべてをシニアネット本部が管理するのではなく、発起人であるリーダーたちが、各々で責任を持っていた」と付け加えた。

ボランティアからベンチャーまで――シニア活性化の可能性は?

米国シニアネットでは、多くの生徒たちが起業している。「職種はさまざまで、出版を始めた人もいれば、経理士になった人もいる。特徴を挙げるとすれば、過去の経験に、コンピューターの知識をプラスしてビジネスにするというパターンが多いようだ」(リクソン氏)。

山藤氏も「米国では、ビジネスのアイデアが浮かんだら、それを掲示板やメール交換によって他の人に投げ掛け、先輩格の人からアドバイスを受けることで、実現に近づけるという仕組みができていた。ローテクベンチャーの疑問点を、メールというコミュニケーションで解決しているという印象で、こうしたコミュニティーの誕生は、日本でも参考にしたいところ」と述べた。インターネットの効用は、定年退職して、社会とのつながりが切れ、孤独になった人同士が、支え合うところにあるようだ。

こうしてみると、日本はアメリカに比べてかなり遅れをとっているようだが、リクソン氏は「日本には多大なリソース(資源)があるし、シニアの人口も多い。この力を十分に活用することで、突破口は開けるのでは?」と参加者たちにエールを送った。

山藤氏は、インターネットの利用率について触れ「シニア層の利用率が、日本は米国に比べて低く、“失敗したら怖い”、“あれは若者の道具”と敬遠する人が多い。インテリジェンスは高いのだから、始めれば進歩は早いだろうに……」と、日本のシニアに苦言を呈した。また、英語力の弱さも、インターネットを使う上で、ネックになりそうだ。

若者の参画も、ポイントの1つ

リクソン氏は「誰もがいつかは老人になるのだから、若者がシニアの活動に興味を持つのは当たり前」と語ったが、山藤氏は「米国では社会貢献の気持ち良さを誰もが知っているし、企業にも支援する姿勢がある。しかし、日本ではまだまだ」と、改めて風土の違いを述べた。運営には年間で350万ドル(リクソン氏)という経費が掛かっているが、ベンチャーキャピタルや営利団体などとの競合が始まれば、さらに活動費用は増加するだろうと予測。山藤氏は、「今のところ、SNPのメンバーは無報酬でやっているが、お金をもらうことはいやらしいとボランティアが考えずに済むような意識の転換も必要」と述べた。

最後に、参加者から、資金がないことやコンピューターが苦手であること、国家レベルにまで一般シニアの声が届かないことについて質問が出たが、パネリストの2人は、それぞれの組織での活動内容に触れ、「シニア同士の助け合いで、コンピューターの使い方やプレゼンテーション能力などを身に着けること」、そして、メールなどのツールを使えば、誰でも行政に意志を伝えられること、米国は、そうした努力が変革につながってきたことを説明。日本でのシニアの積極的な活動に期待を寄せる発言で、ディスカッションを終えた。

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