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【INTERVIEW】「我々のターゲットはASPとEAI」――NTTソフトウェアで細谷常務に聞く

1999年12月27日 00時00分更新

文● 聞き手:編集部 中野潔、聞き手/文 編集部 小林伸也

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NTTソフトウェア(株)はこのほど、同社が運営するオンラインショッピングモール“BaySide”で、音楽配信サービスを正式に開始した。同社は電子商取引(EC)など、インターネットにフォーカスしたサービス事業に力を注いでおり、この他にもASP(Application Service Provider)事業や企業向けシステムインテグレーションなど、同社が持つソフトウェア技術を応用したさまざまな事業に取り組んでいる。ネットワーク社会におけるソフトウェアサービスを展開するNTTソフトウェアの戦略について、同社常務取締役の細谷僚一氏に話を聞いた。

NTTソフトウェア常務取締役の細谷僚一氏 NTTソフトウェア常務取締役の細谷僚一氏



ターゲットはASP

――貴社の戦略としてインターネットとASPという2つのキーワードを耳にします。ASPの概念について説明していただけますか?

「ASPというのは我々がターゲットにしているサービス概念で、アプリケーションサービスプロバイダーの略です。米国で今年、ASPインダストリーコンソーシアムという団体が設立されました。日本ではASPインダストリーコンソーシアムとASPビジネスコンソーシアムの2つの団体が活動を行っており、当社はその両方に参加しています」

「基本はプロバイダーの所にいろいろなアプリケーションを置き、それを共用で使いましょうということです。例えば企業でメールサーバーやウェブのホストサーバーを立ち上げるのは大変ですよね。それを全部プロバイダーに頼んでしまうというのが一番最初だった」

「それだけではASPとは呼べないかもしれませんが、米国では次に、ERP(Enterprise Resource Planning)ソフトを共用する動きが出ています。メンテナンスが大変だから、ERPをASPに置いてもらって共用で使おう、そのかわり安くしてもらおう。ベンダーにとっては、ERPのように高価なソフトを、中規模の企業にも導入してもらう切り札となるわけです」

「ですからASPやベンダー、ソフトメーカーの利害が一致して、いま米国でアウトソーシングという形で起きているのが、ASPという動きです。そこで、ネットワークの運用やホスティングが増えてくると考え、最近手掛けたのが“BaySide”です」

BaySideはデジタルコンテンツ市場への布石

――BaySideというと、オンラインショッピングモールですね。

「BaySideの狙いの1つは音楽配信です。単なるショッピングモールではなくて、セキュリティーや著作権管理とかワン・トゥー・ワン・マーケティングの機能を、エントリーレベルを低くして共有して使ってもらおうといったコンセプトでもあります。もともと我々は、中小規模のサイトに対しエントリーレベルを低くし、入ってきて儲かったらお金をいただきますよ、というモデルを1つの仮説にしています」

「音楽配信は一番技術が必要なもので、セキュリティー技術の実証になるということもありますし、音楽を最初にやって、それからデジタルコンテンツの管理や配信だとかを手掛けていく。電子透かしについては、NTT研究所が非常にすぐれた技術を持っていて、それを全部投入してこのモデルを作り、実証しようというわけです」

「アメリカの例を見ても、デジタルコンテンツ市場がすぐに立ち上がるだろうし、準備しておく必要があります。市場が立ち上がった時に、ものを出します、システムを構築します、ではなくて、このシステムをできるだけカスタマイズして、しかもパッケージだけではなく、システムそのものを使ってください、という形が増えるのでは、と考えたわけです」

「このシステムを立ち上げたら、3~4年前とは大違いで、申し込みや問い合わせが殺到し、2週間ぐらいで3桁に達するくらいでした。関西や名古屋の支店にも多くの問い合わせが来ました。以前とは完全に雰囲気が違っていますね。目論見がいい方に外れたわけですが。だから今は開発側の強化を一生懸命やっています」

企業システムもインターネットに移行する

「我々としては、今ベースとなるのはインターネットだということで、交換機から情報処理まで通信で培ってきた技術を生かし、インターネットのアプリケーションに力を入れてきました」

「BaySideはBtoC(企業から消費者へ)ですが、BtoB(企業から企業へ)の世界もあります。これも次第にASP的な動きになるでしょうが、CRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)があります。もう一方にSCM(Supply Chain Management)、データベースとデータウェアハウス、ERPですね。こういったソフトを企業の中心に置いて運用する、その構造が全部インターネットに移行すると見ています。そのトータルがASPということでしょう」

「これらの製品をお客にクイックに提供するために、製品ツール開発や運用をやっていこう。これがBtoBの世界での戦略で、非常に大きなウェイトを占めています」

――貴社がASPになるというより、業者にミドルウェアを提供するということですか。 ――貴社がASPになるというより、業者にミドルウェアを提供するということですか。


「そうです。ただ実績のないところにマーケットはありませんから、我々自身もある部分についてはASPもやっていきたいと思っています」

――どんな部分ですか。

「我々はある程度中小規模を狙うということで、1つはECですし、SCMなどを中小企業に出していくこともあるでしょう。今後、ある種のビジネスサイトのようなものは作りたいなと思っています。ただ我々が運用ビジネスで儲けるようになる、というよりは、ミドルウェアとそれに伴うコンサルティングをメーンにしていきたい」

NTTグループの資産が武器に

「商品展開では、アメリカの優れた製品やNTTの研究所で開発したものを組み合わせています。ERPには既存のものがありますから、新しいものを持ってくる気は必ずしもありません。従来のものとつなぐのが武器だと思っています。SCMにもエスタブリッシュされたものがありますので、それを使わせていただいて、我々はデータウェアハウス系とSFA、それにNTTが得意とするCRMを提供していきたい」

――何千万人という(電話利用者の)口座があるわけですよね。

「そうです。例えば住所を電話で聞いて書き込むとか、何か言われたときの問い返しの仕方とか、これは全部、大変なノウハウなんですよ。例えば“しみず”といったらどの漢字でしょうか、といった内容でも聞き方があるんです。何々の字ですか、と聞く時に、変な聞き方をすると間違いばかり起きる。そういったノウハウを何十年分も積み重ねてますので、それを1つの武器にしてCRMを提供していく」

システムをスムーズにつなぐEAI

「しかしそれだけではお客に満足はしていただけないので、アメリカで非常に注目されているEAI(Enterprise Application Integration:アプリケーションの結合を自動化するもの)についても準備を進めています」

「これは基本的にはソフトウェアバスです。システムを接続する時には、システム間でインタラクションがありますから、個別につないでいました。しかもつなぐ時はファイルを渡す形で。ですからシステムをつなげばつなぐほど遅くなるし、手間はかかるし、1ヵ所のデータを更新したら他の全部の個所のデータを直さなければなくなる」

「これではまずい、ということで共通の交換用アーキテクチャーを決めてデータ交換を行なうのがEAIです。これは技術的には実現可能になっています。ソフト的に共通フォーマットで変換して、データのやりとりをする。その共通フォーマットのデータは、メッセージキューといって、メモリーの中で渡すこともできる。メッセージングの渡しができるとリアルタイムでいろいろなシステムが結合して動けるんです」

「EAIはアメリカでかなり伸びています。我々はそれを導入してインテグレーションして、顧客が新しく導入するシステムと旧来のシステムをつなげていくビジネスを展開していきます」

――ビジネスのオブジェクト化とは違うのでしょうか。
――ビジネスのオブジェクト化とは違うのでしょうか。

「最終的には似てきます。ビジネスのオブジェクト化は、従来のシステムを全部変えて、カプセル化してつなぐわけです。EAIではハブになる真ん中の部分だけ決めて、1個1個システムをつないでいく」

「従来のやり方だと、10個のモジュールがあって、それにインタラクションすると10×9で90のインタラクションを作らなければならない。だがEAIでは真ん中を決めておいて、それにモジュールをつなぐわけですから、10個のモジュールに10の変換だけで済むわけです。ERPやSCMの標準的なパッケージではハブがすでにできています。ただ日本では真ん中のシステムはホスト系で構築していたりするので、その場合はホストとの接続を作らなければいけませんが」

状況変化には米製品で素早く対応

――NTTグループの一員としてやってこられたことで培ってきたソフトウェアと、米国のソフトの輸入カスタマイズとの切り分けについて教えてください。

「例えば通信サービスがありますね。通信サービスの基本は料金です。いろいろなサービスが出てきているけれど、ほとんどは料金のバリエーションです。バリエーションというのは金額だけの意味ではなくて、例えば前払いにするのか後払いにするのか、電話を掛けた方が払うのか受けた方が払うのか、そういったものの組み合わせでして、サービスの90パーセント以上はこのバリエーションです。ISDNなど新技術もありますが、基本的には料金をどういう風にいただくかがサービスの本質なんです」

「それでインターネットも、昔は単なる従量制でしたが、アメリカではトラフィックに応じた取り方に加え、ECでショッピングをすると安くなったりといった、プロバイダーだけで閉じないような料金サービスが広がっています。そういった状況にクイックに対応できるシステムが日本にはないのが現状です」

「当社で扱っている米PORTAL社のソリューションパッケージ『Infranet』というのがこれを解決するシステムです。我々が作ってもいいのですが、タイムトゥーマーケットを考えると、アメリカの優れた製品を持ってきた方が有利です。NTT研究所の技術とともに、これは我々の目利きの力だと自負していますが、外からいいものを持ってきて日本で展開していくこともやっていきます」



大量アクセスに持ちこたえた『WebBASE』

――もちろん自前のソフトで対応することもあるのですよね?

「NTTの研究所が開発した製品にいいものがありまして、例えば『WebBASE』という製品はデータベースとウェブをつなぐものです。今でこそありふれていますが、最初に作った時は、データベースをウェブで、といった概念がなかった時だった。しかもオンライントランザクション機能も持っています」

「今でこそ、オークションやチケット予約がウェブで可能になりましたが、それでもまだアクセスが集中するとダウンすることもありますね。WebBASEは、他の製品に比べて3倍以上のヘビーデューティーをかけてもちゃんと動くという性能を持っています。これは実は、NTTの顧客受付とかで使われていたエンジンをウェブに持ち込んだんです」

「例えば2年ほど前、ある大きなコンサートの、インターネットでのチケット予約のシステム構築を我々が担当しました。最初の1時間で全体の90パーセント以上のトラヒックが集中したのですけど、ノーダウンで持ちこたえました。ノーダウンは当たり前じゃないかと思われますけど、実はこの世界でノーダウンというのはなかなか難しいことです」

「我々としては、自前で開発したWebBASEのような製品と、アメリカのいい製品を含めて、製品販売や製品をベースにしたインテグレーションを表に出してやっていこうと進めています」

――今後の課題や展望を聞かせてください。

「日本でちゃんと適応できるEAIの製品をなるべく早い時期に発表したいと思っています。それからもう1つは、ASP事業関連に力を入れていきたいと考えています」

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