このページの本文へ

【第1回デジタルフロンティア京都開催 Vol.1】文化遺産のアーカイブ化を考える――

1999年12月24日 00時00分更新

文● Yuko Nexus6

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

ネットワーク社会が急速に発展するなか、自国や地域の文化財情報をデジタル化することで、新しい産業や文化の活性化に役立てようとする動きが各国で進められている。この“デジタルアーカイブ”について考えようとする催しが、文化資産の宝庫である京都市の京都市勧業会館みやこめっせで行なわれた。21、22日の両日にわたって開催されたイベントのうち、まず初日の内容についてレポートする。

関西地方にこの冬一番の寒波が襲来し冷え込んだ21日だが、朝9時半の開会式から会場はほぼ満員。まず桝本京都市長の挨拶が代理人によって読み上げられ開会した。京都市では'98年8月から商工会議所などが中心となりデジタルアーカイブ推進センターが発足している。

知的な文化財は“独占から共有へ”

今回はアーカイブ事業の進んでいる海外の実例紹介などを通じて“京都のアーカイブ化”について理解を深めてもらおうと、講演やシンポジウムのプログラムが組まれている。豊かな文化財と伝統産業を中小ベンチャーを含む地元の高度情報技術産業、大学、メディアなどと共同でいち早くデジタル化することで、沈滞する経済にカツを入れたい、というところだろうか。

まず東京大学の月尾嘉男氏が基調講演で「デジタルアーカイブとは何か?」を分かりやすく解説。“分散ネットワーク化”(ルーブルや大英博物館のコレクションをいながらにして楽しめる)、“総合的アーカイブの可能性”(文字や絵画だけでなく音や映像も対象に)“メディアによる優位性の消失”(マスメディアだけでなく、個人のマニアックなHPもアーカイブとして評価される)、“能動的アーカイブ”(検索機能、エージェント技術によって個人が自由に情報検索できる)など的確な例を示しつつ、キーワードを紹介していく。

月尾氏の基調講演。個人が作るマニアックなホームページを例にとり、「美術館、博物館、図書館といった公的組織による画一化されたアーカイブから、より多様なアーカイブの時代へすでに移行している」と示唆
月尾氏の基調講演。個人が作るマニアックなホームページを例にとり、「美術館、博物館、図書館といった公的組織による画一化されたアーカイブから、より多様なアーカイブの時代へすでに移行している」と示唆



特に本年10月、有償(2枚組10万円程度)のCD-ROMを販売していたエンサイクロペディア・ブリタニカがネットでの無償公開に踏み切ったことをあげ、知的な文化財は“独占から共有へ”が大きな流れであると強調。それに従い、もはや金の力は最高のパワーではなく、京都のような都市にとっては人を引きつける力こそが重要であること、そのためのアーカイブは単なる懐古趣味ではなく、アーカイブ化することで新しい文化の動きを作り出すことが目的である、と締めくくった。

“竜安寺とレオナルド”の関係性。デジタルアーカイブには脈絡化が必要

続いて基調講演を行なったマーストリヒト・マクルーハン研究所のキム・ベルトマン博士は数々のビデオ、スライドなどをスピーディに切り替え、同時通訳も追いつかない早口で両手を振り回し、まくしたてる。

'96年からG7のプロジェクト“マルチメディアアクセスの世界文化遺産プロジェクト”顧問も務めるベルトマン博士。膨大な映像資料を駆使した迫力ある講演を行なった
'96年からG7のプロジェクト“マルチメディアアクセスの世界文化遺産プロジェクト”顧問も務めるベルトマン博士。膨大な映像資料を駆使した迫力ある講演を行なった



映像資料はローマ時代の遺跡やエリザベス朝の建築に教会美術などなど。美術史を通じて世界の文化をツアーしていく内容だったが、めくるめくスピードについていけない聴衆も多かった。しかし歴史、哲学、ルネサンス美術などを学び、アメリカ、ヨーロッパの多くの大学で教鞭をとる博士の提言には深いものがある。

「昨日私は竜安寺の石庭を見に行きました。そしてこの美しい庭がレオナルド・ダ・ビンチの時代に作られたのだと知ってとても驚いたんです。デジタルアーカイブはそんな発見や驚きを人々に与えるものでなくてはなりません」

いままでのアーカイブ(図書館や美術館の分類)は、縦割りの歴史観(西洋史、日本史、中国史etc.)によるもの。これでは“竜安寺とレオナルド”といった発見は起こらない、とベルトマン博士は指摘する。絵画でもルネサンス美術、印象派、象徴主義……といった流派ごとに並べるだけでなく“橋を描いた絵”という検索項目で古今東西のいろんな絵をブラウズできたらどれだけ楽しいか? 「デジタルアーカイブには脈絡化が必要なのです、単にモノをデジタル化して並べればいいものではない」と結んだ。

“デジネットエキスポ京都'99”も同時開催

ここで昼食休憩が入る。講演会場の隣では同時開催の“デジネットエキスポ京都'99”が開かれている。

「新世紀を拓く最先端ハードから新鋭コンテンツまでを網羅するデジタルネットワーク・デジタルアーカイブの総合展示会」と銘打たれており、23の企業・団体が参加。NTT、京セラなど大手企業から地元のベンチャー、京都精華大、立命館大学など大学も参加、京都新聞、NHKなどメディアも出店しており、まるで京菓子の詰め合わせのように各種団体の展示がコンパクトにまとめられている印象。

手前、京都精華大、奥に立命館大の展示。学生が制作した作品の展示を行なった
手前、京都精華大、奥に立命館大の展示。学生が制作した作品の展示を行なった



源氏物語の世界をバーチャルに見せる(立命館大学アート・リサーチセンター)、美しい京都の映像を集めたCD-ROMやDVDの展示販売(京都デジタルアーカイブ推進機構、京都新聞社、NHKエンタープライズ21他)など、たしかに“デジタルアーカイブ”に取り組んでいる展示が多い。しかし個々の団体がバラバラに少しずつ“京都をデジタル化”するにとどまっている印象はぬぐえなかった。

会場内では優れたアーカイブ作品を上映する大画面シアターの他、CD-ROM、DVD作品をブラウズできるコーナーも。黒澤明の世界をデジタル化した“黒澤明デジタルミュージアム”、東京国立博物館による“法隆寺献納宝物デジタルアーカイブ”も出品されていた
会場内では優れたアーカイブ作品を上映する大画面シアターの他、CD-ROM、DVD作品をブラウズできるコーナーも。黒澤明の世界をデジタル化した“黒澤明デジタルミュージアム”、東京国立博物館による“法隆寺献納宝物デジタルアーカイブ”も出品されていた

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン