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【年末特別企画OS対談Vol.1】「Windows 95/98ユーザーはWindows 2000にはそう簡単に移行しない」「Mac OSが本当に変わるのは2000年から」

1999年12月22日 00時00分更新

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年末特別企画対談OS編では、ASCII24上でOS関連のコラムを連載中の柴田文彦氏と塩田紳二氏をお迎えし、2000年以降のOS市場について語っていただいた。第1回は、2000年のOS市場における最大の関心事である『Windows 2000』と『Mac OS X』について。

仕事で使うマシンのOSにはある程度枯れたものを選びたい

編集部「まず、お2人が現在メインで使っていらっしゃるマシンのOSをお聞きしたいのですが」

柴田「いちばん長い時間使っているのは、Mac OS 7.5という古いやつ」

編集部「ええっ、どうしてですか」

柴田「原稿書くのには、それ以上必要ないから。文章書いてる限りにおいて、それ以上のものは必要ないので。僕、マシンのファンの音がものすごく嫌いで、ファンの音がプーンと鳴っていると全然原稿書く気がしないんです。HDDの音も同様にだめ。Mac OSだと RAMディスクがいまだに使えるんで、そこにATOKの辞書を入れておく。たまにキャッシュしていないフォントが出てきたときとか、ディスクにアクセスにいって回りだしちゃうから、そこでコマンドSを押して、それまでの結果をセーブして、また1分ぐらいたつとHDDが止まるという。別にMac OS 8でもいいんですけど、マシンが古いんです。PowerBook 190という、PowerPC以前のすごく古いマシンだから」

編集部「なぜそんな古いマシンを使ってるんですか?」

柴田「それ以上必要ないからですよ。それから、アプリケーションの評価をしたりするときは、Celeronで適当に組み立てたマシンを使っていて、それにWindows 98とBeOSを入れています。Linuxも入ってるんですけど、あまり使ってない。メールの送受信はWindows 98をメインにしてます。それはなぜかというと、いまの状態でいちばん使えるからですよね」

塩田「Macintoshは、メールソフトが少ないんですよね」

柴田「BeOSも少ないんですよ。コミュニケーションするとなると互換性が重要になってくるんで、Windowsになっちゃうんですね。それで、BeOSを使う仕事をするときには、OSをWindows 98からBeOSに切り替えて使ってます。あとMacintosh用の新しいツールを評価する時は、仕方がないからiMacを使うんです。メインのMac OS 7.5は、きっとマシンが壊れるまで使い続けるでしょう。文章書くのに何の不自由もないし」

柴田文彦氏プロフィール:某複写機メーカーエンジニアの職を辞し、現在は自称エンジニアリング・ライター。特にBeOSやMacintoshに造詣が深く、ASCII24上では、『柴田文彦のMostly BeOS』を連載中
柴田文彦氏プロフィール:某複写機メーカーエンジニアの職を辞し、現在は自称エンジニアリング・ライター。特にBeOSやMacintoshに造詣が深く、ASCII24上では、『柴田文彦のMostly BeOS』を連載中



編集部「塩田さんは?」

塩田「原稿書き用のマシンはWindows NT4.0です。何でNTかというと、原稿を書くときに、例えばウェブブラウザーのウインドーを30個とか40個とかガーッと開いても落ちないのはNTしかないんです。ニュース記事を書こうとしている時、過去の関連記事をひと月分ぐらいまとめて見ようとしたら、30個ウインドーを開かないといけないわけですよ。Windows 95や98に合わせて3個ぐらいしかウインドーを開かないようにするというやり方もあるんだけど、そういう制限を自分に課してまでやりたくない。それで30個開くとなると、結局NTしかないという状態になっちゃうんですよ。

その上で、ワープロが動いて、かな漢字変換できて、時にはExcelに数字入れてデータ分析してと考えると、現状NT4.0しか使いものになるOSがないんですよね。それで、メインの原稿書きマシンはNT4.0。そのほかにも、仕事なので、 LinuxやFreeBSD、Windows 95、98、2000は動かしているけど。何台かマシンがあるうち、これはOCNのサーバー専用、これはファイルサーバー専用、プリンターと兼用と、いくつかは専用サーバーになってる。それから、HDDを交換して、その時々によってLinuxにしたりWindows 2000にしたりというマシンが1、2台という感じですかね」

柴田「塩田さんはニュースを分析して書く内容のものが多いから、そうなるんでしょうね」

塩田「それにいまはウェブサイトに情報がある場合が多い。例えば製品の開発関連情報が全部ウェブで公開されているとか、PDFになっているとか。それを見ながらやろうとすると、結局、Windows 95、98はメモリーのリソースの問題でウインドーを開く数に制限が出てくるし、メモリーをいくら積んでもプログラムがいっぱい動くと非常に不安定になってくるところがあるんですよね。

NTでも、突然Netscape Navigatorが落ちるとか、Internet Explorerが落ちるとかというのはありますが、少なくともそのレベルがWindows 95、98よりも高いところにあるということですね。落ちにくいし、たとえIEが落ちてもそれだけで済むことが多い。Windows 95だと、IEが落ちた瞬間にウインドーすべてが動かなくなって、『せっかく5時間かけて書いたのに』というのがあるわけでしょう。それがないというのがいちばん大きいかな。

それから、なるべくそのマシンにはアプリケーションをインストールしないようにしてるんですよ。安定性を保つためにね。アプリケーションを入れたら入れるだけ、どんどんOSの安定感がなくなっていくというのは、多分どのOSにもあると思うんですよ。だから気はつけているけど、あるアプリケーションを入れたら、途端に調子が悪くなるというのは結構ありますね」

柴田「僕の場合はもっと割り切っていて、原稿を書くマシンはそれにしか使ってない。アプリケーションのレビューをする場合は、別のマシンで、画面だけ切り替えたりしながらやるんです」

塩田「そうね。少なくともアプリケーションの評価をする時は別のマシンで動かして、別のマシンで原稿を書くというスタイルでないと難しいときはある。ただ、ブラウザーとメールは原稿書きマシンと一緒でないと辛いときはあるかな」

柴田「多いですよね。多いけど、僕はやっぱり別(笑)。だから、プリントしちゃうんですよ。プリントアウトされた紙を周りに並べておいて。プリントすると、何か落ち着くんですよね(笑)」

塩田「うちはすぐ部屋が散らかるんで、紙を出して広げると場所がなくなっちゃうんだよね(笑)。だからどうしても画面で見たい。プリンターも使わないわけじゃなくて、例えば大きな原稿が一段落ついて、それをチェックするという時にちょっと広げるぐらい。あんまり印刷してると、結果的に自分の部屋にゴミを増やすだけになっちゃうんで(笑)」

編集部「お2人とも新しいOSはメインでは全然使わないということですか。メインで使っている人もいるようですが」

塩田「よほど度胸があるのかな(笑)。新しいOSの何が怖いかというと、新機能も入ってるけど、その反面、安定感が見えないというのと、トラブルからの回復方法がわからなくなるときがあるということ。例えば明日までに原稿上げなきゃいけないときに、原因不明でOSが落ちたら、どうしようもなくなってしまう」

柴田「新しいものをあえて使って、失敗しても武勇伝で済まされる人は使えばいいですけど、実際に締切り間近に書いてると、そんなこと言ったって誰も喜んでくれませんから。確実にやるしかないですね」

塩田「仕事に使うとなると、ちゃんとした安定感とか、すぐに回復できることとかが重要だね」

柴田「僕の7.5というのは極端ですけど、そういう仕事では、ある程度枯れたやつを使いたいんですよ」

塩田「NT4.0のServicePackを入れるのだって、ひと月、ふた月待ってからじゃないと怖くて入れられないもん。誰か入れたって聞いたら、『大丈夫?』って確認してからじゃないと。以前、ServicePack 2や3を入れた瞬間、立ち上がらなくなったっていう人もいたぐらいだから。やっぱり嫌でしょ、よくしようと思ってやったのに、夜中に『やんなきゃよかったなあ』と思うような状況は(笑)。

そうなるとやっぱり、慎重にならざるを得ない。いまは、バグフィックスというレベルでも機能がどんどん進んできてる。またカーネル自体がすぐ切り替わるというか、バージョンが上がっていくでしょう。それが何かのバグ潰しなんだろうけど、カーネルは変わらずに周りだけが進化していくという世界でもないからね」

塩田紳二氏プロフィール:某“家電の巨人”メーカーでパソコンの開発に携わった後、フリーライターとして独立。ASCII24上では、“塩田紳二のMicrosoft Espresso”、“塩田紳二のIntel Espresso”を連載中
塩田紳二氏プロフィール:某“家電の巨人”メーカーでパソコンの開発に携わった後、フリーライターとして独立。ASCII24上では、“塩田紳二のMicrosoft Espresso”、“塩田紳二のIntel Espresso”を連載中



既存のWindows 95/98ユーザーはWindows 2000には移行しない

編集部「それでは2000年以降に出荷されるOSについて。製品として確実に出そうなものは?」

塩田「2000年2月に確実に出るのはWindows 2000でしょう。今期で予算組んでいるところに対して、3月31日までには絶対製品を入れなくちゃいけないし。企業はまだしも、学校や役所関係は全部3月31日でしょう」

編集部「遅れる可能性は?」

塩田「マイクロソフトは会社としての締めが6月でしょう。だから、例えば5月の連休前といったタイミングだと、ほとんど営業時間がない。それを考えるとできるだけ早く出したいはずだよね」

柴田「学校や企業で導入するとなると、出荷後すぐみんなが一斉に導入、ということはできない。さっき言ったような例もあるし。だから2月とかに慌てて出しても、どうせ入れてもらえないんじゃないか、だったらいっそのこと4月を過ぎても平気かなという気もするけど」

塩田「Windows 2000と言っても、結局NT 4.0の後継でしかない。Windows 95、98ユーザーは、次にもう1回バージョンアップがあるから、とりあえず直接関係ない。そういう意味で、わりと大騒ぎしないで落ち着いちゃうような気がしますね」

柴田「みなさん、冷めてるかもしれないですね」

編集部「Windows 2000 Professionalはそこそこ売れるだろうと言われてますけど、Server3製品はそんなに数は出ないんじゃないでしょうか」

塩田「サーバー製品というのは、もともと数が出るもんじゃないし、特にWindows 2000 Advanced ServerとDatacenter Serverは、限られた企業でしか使わない。Datacenter Serverなんて、日本で何サイトかぐらいしか使える場所がないんじゃないかと思うんですよね。CPUを32個までサポートしますとか言われても、実際32個まで拡張できるハードがあるのか、あるいはそれに見合うメモリーを積めるマシンがあるのか、みたいなね」

柴田「メインフレームのOSみたいな感じですよね」

塩田「そう。マイクロソフトにしても、あの製品は看板みたいなもので、最高速のマシンでDataCenterServerを動作するとパフォーマンスがここまでよくなるとか、そういうことを言いたいためのものであって、これで儲けようというのではない。

だからメインは、いまNT4.0を使ってるユーザーがProfessionalにどれだけ移行するかでしょうね。確かに、いまはUSB対応の周辺機器とかが増えてきて、NTだと使えない物が多くなってるんだよね。そうすると、やっぱりちょっと苦しい。例えばマシンにPCカードを読ませたくても、PCカードドライブは簡単には接続できないとか、そういうところで困っている人はいるんで、NTからWindows 2000に移行して、Windows 95、98並みにある程度周辺装置が共有できるようになれば、少しは使いやすくなると思うけどね」

編集部「Windows 95や98を使っているビジネスユーザーも移行するんでしょうか」

塩田「しないでしょ。Windows NTとWindows 95、98って、見た目は似てるけど中身はまったく違うから。例えばコントロールパネルだけ見てもまったく違うでしょう。そうしたら対処できない。Windows 2000になったからって、完全に95、98と同じになるわけじゃないからね」

柴田「Windows 95が出たころ、企業が大量にプレインストールマシンごと導入したじゃないですか。そういうマシンだと結構リソース的に厳しい。HDDも厳しいし、メモリーも厳しい。それにWindows 2000を入れたらアップアップになっちゃう。だからいまだにWindows 95を使ってるところもたくさんあるわけだし」

塩田「まだ企業向けではWindows 95のほうが出てるでしょう。だいたい企業向けのマシンだとWindows 95にするか98にするか選べるようになっていて、まだWindows 95マシンのほうが数は出てるらしいよ。でもWindows 98にしたって、マイナーチェンジみたいなものだから、そんなに変わらないと思うんだけどね」

OSが古い技術を切り捨てるのは、古いマシンを使わせないようにするため

柴田「その辺はいつになった統合できるんですかね?」

塩田「たぶん2000年半ばから後半ぐらいに、いまMillenniumって呼ばれている、Windows 9xカーネルの後継OSが出るんですよ。それはまず何をするかというと、まずISAとかレガシーデバイスのサポートをやめる。DOSプログラムのサポートもやめるとか、かなりレガシーを切ったOSにして、それで周辺装置の対応状況やユーザーがどれだけ動くかで、次の製品にいけるかいけないかが決まると思うんですけどね。

要は、いまWindows NTやWindows 2000では、サポートされないデバイスやプログラムがあって、直接のアップグレードが不可能な状態になるわけですよね。それがどこまで減らせるかで、統合できるかできないかがわかると思うんです。逆に言えば、技術的なところはWindows 2000とかNT側のスペックを落としさえすれば移行はできるんでしょうけど、それじゃ意味がない。NT側の水準を保ったまま統合しようとすると、下のほうで、どれだけ移行不可能なものを2000年や2001年で切り捨てていけるかが鍵ですね」

柴田「要するに、OSがレガシーのサポートをやめるというのは、古いマシンを使わせないようにするという意味ですね」

塩田「そうですね。いま普通に売っているマシンというのは、結局まだISAバスが付いていて、シリアルの先に何かデバイスが付いてる。あるいはDOS時代に作ったプログラムがまだ動いているとか。あと周辺装置でも、例えばWindows 95、98用なんだけど、まだAutoexec.batを書き換えてドライバーを導入しているというものもある。そういうドライバーはWindows 2000では全然動かないものがあるんで、それをどれだけ減らせるかということだと思うんですよね」

柴田「それで試しに切り捨ててみて、ユーザーがちゃんとついてきたら自信を持ってWindows 2000と統合ということですか」

塩田「そう。いま10万円以下のマシンがいろいろ出てきているけど、特にコンパクトサイズの物だと、例えばISAバスがない、拡張もUSBだけ、というような仕様のものが出てきてる。ハードメーカーにそういうマシンも出させることで、要は新規の客もそっちへどんどん誘導しちゃうおうと。だけど一方、その横で昔ながらのマザーボードも売られているのが現状なので、どうなるかはわからないけど、割合をどんどん減らしていきたいということでしょう」

柴田「そうすると、統合ができそうな状態になったときには、すでにエンドユーザーのマシンはかなりリソース的に、メモリーもHDDも上がっているという状態になっているということですか」

塩田「ある程度そうなるでしょうね。せいぜいメモリーを追加するぐらいで済むとかね。メモリーは、下のマシンと上のマシンで全然違うメモリーを使うというわけでもないんで、メモリーが標準では64MBだけど 128MBまで増やせるかどうかが重要。128MBまで増やせないというのはかなり古いマザーボードしかないんでね。スペック的な問題は割と自然に上がっていくんでしょうけど、問題なのは古いタイプのハードウェアを、ユーザーが使い続けているかどうかなんですよね。

要するにISAのコネクターがついてたとしても、そこにボードがささっていなければ問題がないので、そっちをできれば捨てさせたいということだと思うんですよ。メーカーにそういうものがない製品を作れということをやっているけれど、新しいOSを使って、時間をかけて捨てていくということ。

OSが新しくなるごとに、サポートされないハードウェアは少しずつ出てきてるから、今度はMillenniumでそれがさらに増えて、一般的なユーザーは、周辺装置はUSBでつなぐという方向に移行するんじゃないか。その後統合する時に、前から使っているマシンについては、申し訳ないけどこれは動かないという言い方になるんじゃないかと思う。

結局、出回っているWindowsマシンの数が多いから、1パーセントといっても絶対数だとものすごい数になるんで、あまりパーセンテージではものを考えられないでしょうね。確かWindowsマシンて、世界で1億台近くあるんでしょ? そうすると1億台の1パーセント。人数にしてみればものすごい数になる」

編集部「100万人を切り捨てるのか、という話になりますよね」

塩田「MacintoshでCPUが変わったときはどうでしたか?」

柴田「いやあ、いまだに僕も古いマシンを使ってるくらいですから(笑)。ただ、Mac OSがどんどん切り捨てていくのはこれからなんです。もうすでに、PowerPCじゃないと動かないとか、OS 9は互換機だめとかなってますが、そのうちG3以上しかだめとかというようになるんじゃないですかね。だから同じように、どんどん切り捨てていってます。

でも、昔のマシンは昔のOSで使っていればいいわけで、それを使っちゃいかんというわけではないですから。米国人て、けっこう古いマシン使ってるじゃないですか。Windows 3.1を使っている人もいるし、 DOSで使っている人もいるだろうし。そういう人はアップグレードしたいと思わないから古いマシンを使ってるわけだから、別にいいんじゃないですかね、切り捨てても」

編集部「そのうちiMacだと動きません、とか言われちゃうんでしょうか?」

柴田「まあiMacは出たときからG3ですし、まだしばらく、そうですね、あと2、3回は大丈夫です(笑)」

アップルはWindows 95が登場するまであぐらをかいていた

編集部「最近、Mac OSのバージョンアップのサイクルが、以前に比べて早くなってないですか?」

柴田「そうですね、早く脱却しようとしているんじゃないでしょうか。ジョブズが帰って来たときに、『俺が会社を出たときと、全然変わってねえじゃねえか』と思ったと思うんですよ。いままで何してたんだ、という感じで、早く変えたいという動きが出てきた。

ところがまだ大して変わってないんです。多分2000年から変わり始めるんじゃないですかね。それがうまくいけば、2000年以降はガラッと違う品揃えになるんじゃないでしょうか。いまのところ、初代マックのファインダーと、いまのMac OS 8や9のファインダーと比べても、半分以上は同じじゃないかと思うくらい。ごちゃごちゃ付け足しただけという感じで」

塩田「何で変わんなかったんですかね? 仮想記憶とかメモリー保護とかって、内部があんまり進化しないままずっときてるじゃないですか。時間的にはずいぶんあったわけでしょう」

柴田「アップルがいちばんお金があった時期に、変な方向に走ってたんですよ。見栄えがしてユーザーの気を引くような、潰れちゃった技術ってものすごくたくさんある。思い出すところでは、QuickDrawGX。これはオブジェクト指向のグラフィックルーチンで、全部オブジェクト指向にしてプリンターまでもっていくというもので。でもその技術をアプリケーションがサポートしていなければ、それはまったく意味がないわけですよ。僕が覚えている限りでは、それをサポートした製品は3つぐらいしか出なくて、それであっという間に消えてしまいました。

ほかにも、いまにしてみればいい技術なんですけど、当時インターネットの波に取り残されたAOCEというのがありました。Mac OS 9にも使われたキーチェーンというのが利用できて、1回ログインしておくと、次から次へといろいろなところにアクセスできて、通信機能も“NIFTY”やFAXなどを統合的に1つのツールで全部扱えるなど、非常にいいものだったんだけど、全然時代とかみ合ってなくて、インターネットの波に押し流されるように消えてしまった。いろいろあるんですよ、そういう失敗が。

一応お金のあった時期だからこそ失敗できたわけですが、そういう時期にOS本体に関しては、『Mac OSは素晴らしいもの』とあぐらをかいていた。失敗したのはWindows 95が出る前の話なんですけど、OS本体を進化させることよりも、別のところにお金を使っていて、結局Windows 95が出てしばらく経ってみたら、Macintoshの変なところにお金使ったものは全部なくなってしまって、あぐらかいていたものがそのまま残ってしまった、という状況だと思います。仮想記憶だって一応できるんですけどあまりにもひどい」

塩田「“仮想記憶はオフにして使ってください”というメッセージが出るってよく聞くけど(笑)」

柴田「そう。立ち上げると、“何らかの仮想記憶が動いています、オフにしてください”と出るアプリがあります。『ええっ?』って感じですね(笑)」

塩田「あとは会社として技術リーダーが不在だったんですかね」

柴田「そうですね。それはスカリーの時代にはっきりしていて、全然技術を知らないのにスカリーが自分でCTO(チーフテクノロジーオフィサー)になっちゃって。そういうことしてるからこんなになっちゃう」

塩田「そうね。DOSのときにすごく苦労していて、Windows 3.0になるまで、WindowsはDOSのプログラムの1つみたいなものだったんですよね。それが3.0で急に、16ビット、32ビットOSの基本的な部分を作り込んだ。Windows 3.0、3.1、95というのは、割と順当にきて、95のあたりで、基本的なスタイルとして完成して、例えばアプリケーションはそんなにメモリーの容量を考えなくても大丈夫になったとか、ある程度制限のないプログラミングができるようになった、というところが大きいかな。そして、そうなった時には、ライバルはいなかったという」

柴田「マイクロソフトは、表面上はMacintoshに近づこうと努力していたように見えていても、実はそれはほんの一面に過ぎなくて、水面下のほうでは、ちゃんとしたOSになるように、ものすごく努力していたと思うんです。そのへんの努力をアップルはまったくやっていなかったと言うしかないですね。だから表面を真似されたから、お株を奪われちゃってシェアを取られた、ということじゃないと思うんです。アップルはそう言うかもしれないけどね。まともなOSにするための努力をまったくやっていなかったと、最近つくづく感じますよ」

編集部「いまそれにようやく気が付いて努力し始めたと?」

柴田「でもいまお金ある時代じゃないですから。それでなかなか苦労してて、ジョブズが帰って来たときも、何と一緒に帰って来たかというと、ネクストのOS“NEXTSTEP”を持ってきた。ジョブズが帰ってきたのは3年くらい前だと思うんですが、その時に、もう来年ぐらいからはそのOSでいく、みたいな感じになってたんですけど、全然、いまだにいってない。

Mac OS Xという呼び名になってからもう1年以上経ちますけど、まだ全然出てない。Mac OS X Serverは出たけど、Mac OS X Serverを使っている人は一般ユーザーには見られないし。Mac OS Xは2000年に出てくるはずなんですけどね。ちょっと前までは全然お金がなくて、開発者をバンバン切って虫の息でやっていたわけです。

表面的にはiMacやiBookを出してますけど、別に新しいものは何もないわけですし、工場も別にアップルが作っているんじゃなくて、台湾で作っているわけですから。新アーキテクチャーとか言ってもAGPを取り入れてるだけで、何、いまごろっていう感じ(笑)。技術者が本当にいない中で、四苦八苦しながらやってるんですよ。

でも、それが2000年に出れば少しはまともなOSになると思いますよ。まあ、さぼろうと思ってさぼっていたわけじゃなくていろいろな理由があったんです。その1つが、アプリケーションの互換性を重視しているということ。

マイクロソフトみたいに、サードパーティーも元気があって、新しいOSが出てきたら我先に争って、新しいOSのためにアプリケーションを開発してくれるようなところがアップルにはもういないんです。だから、サードパーティーはみんな四苦八苦しながらやっていて、あんまりOSを変えられちゃうと開発に困る。

だから、サードパーティーから変えるなという圧力があると思うんです。それで、例えば仮想記憶にしろ、グラフィックアーキテクチャーにしろ、プリンターのプリンティングアーキテクチャーにしろ、開発力がなかったり、いろいろな理由で変えられていないんで、この時期に本当に変えられるかというのはいまだに疑問なんです。表面的には売上が伸びていても、内情は苦しいんじゃないかと思います。僕はかなり心配ですね」

編集部「Mac OS Xて、来年出るんですよね?」

柴田「そのはずですけどね」

塩田「Mac OS 9.5とか出たりして(笑)」

柴田「Mac OS 9だって、別に最初は出るって言ってなかったんですよ。当初は8.xからいきなりXになると。『そんなこと言って、もしXが出ないと“OS 9”になっちゃって、マイクロウェアのOS9と紛らわしいぜ~』とか冗談言ってたら、本当に出ちゃって(笑)、マイクロウェアに訴えられて(笑)」

編集部「X Serverはすんなり出ましたね。でも対応した周辺機器が少なくて、使うに使えないユーザーが多いとか」

塩田「周辺機器はプラットフォームが売れていないとサードパーティーがつかない。それで周辺装置がなかなか出なくて、例えばバックアップを取りたい時にデバイスがないとなったら、そういうOSは使いたくない、という悪循環に必ず陥るんだよね。

そうすると、OSメーカーが全部そろえなくちゃいけなくて、すると今度はメーカーの中でソフトをどんどん作らなければいけないっていう状態になる。だからたぶんオープンソースにして、“誰か書いてくれる”という甘い期待をしてるんじゃないのかなという気はするけどね(笑)。どうしても必要な人は書くんだろうけど、ただ、OSそのものに魅力がないと、だれも寄って来ないっていうのはあるよ」

柴田「そうそう。ボランティアって言っても、別に人のためにやって喜んでるわけじゃなくて、自分で必要だからやって、その結果をただ単に公開してるだけじゃないですか。自分がドライブする必要のないものは、やりませんから、誰も使ってないようなドライバーを書く人なんかいませんよ(笑)」

塩田「オープンにして成功しなかったプロジェクトもいっぱいあるわけだから、必ずしもオープンにしたからといってよくなるわけじゃない。やっぱりそれなりの魅力を備えていないことには、オープンソースといった形ででのプラットフォームの繁栄というか、OSの繁栄はあり得ないでしょう」

柴田「それに、オープンといっても、プラットフォームはどれでもいいよって言っているわけじゃないですからね、アップルは。固定した自分のクローズドのプラットフォームしか動かないと言っていて、それで儲けようとしているわけですから、たぶん今後は、ますますタイトな方向にいくでしょうね。そうすると全然一般的にならない。オープンソースを使っているボランティアは当然としても、サードパーティーは商売にならないといけないわけですから困るでしょう」

塩田「全部ソースコードを公開して、やりたいやつはPCにでも移植しろ、というレベルのものと違うからね」

柴田「iMacが出たから、USB周辺機器がある程度花開いたという事実はあるでしょうけど、あれもクローズにしたからそうなったんでしょうし、レガシー切ったからそうなったんでしょうけど、それはiMacの世界だけでの話ですからね。ほかには広まっていかないし、OSの開発を推し進めるような力にはならないですよね。USB周辺機器はプラットフォームじゃないから。1万円の外付け型リムーバブルドライブを出しているようなところは、ほとんど儲けがないでしょう。儲かるのはアップルだけですよ」

(Vol.2に続く)

【関連記事】
【年末特別企画OS対談 Vol.2】「アップルは関連製品すべてを自社で揃えてしまうかも」「サーバーとしてみた場合、Windows NTとLinuxなら現状はLinuxのほうに分がある」
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/
1999/1224/topi03.html

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