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湘南新産業創出フォーラムレポート、“新産業創出の条件”についてのパネルディスカッション

1999年12月20日 00時00分更新

文● 森洋子

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湘南新産業創出コンソーシアムは9日、神奈川県藤沢市の藤沢産業センターにおいて“第1回湘南新産業創出フォーラム”を開催した。当日は、約160名の聴衆が参加した。

11月19日に発足した同コンソーシアムは、湘南地域が持つ優れた条件を基礎にして、日本を代表する新産業の集積地を形成することを目指したもの。藤沢市/藤沢市産業振興財団/藤沢商工会議所/慶應義塾大学など、産学公の関係者が中心となって設立された。

藤沢産業センターで開催された“湘南新産業創出フォーラム”
藤沢産業センターで開催された“湘南新産業創出フォーラム”



「現状維持に留まっては資金は生まれない」--ディー・ブレイン出縄氏

9日のフォーラムでは、“湘南ベンチャーが日本を伸ばす”をテーマに、(株)ディー・ブレインで代表取締役社長を務める出縄良人氏が基調講演を行なった。

ディー・ブレインではベンチャー企業の事業成長をサポートしており、アウトソーシング型のコンサルティングを行なっている。'97年にはディー・ブレイン証券(株)を設立し、中小企業支援を目的とした未公開株式市場の“VIMEX”を創設したことでも知られている。

基調講演を行なった(株)ディー・ブレインの出縄良人代表取締役基調講演を行なった(株)ディー・ブレインの出縄良人代表取締役



出縄氏は、株式公開で資金集め行なう米国のベンチャー企業に対して、アイデアとやる気があっても株式公開までに時間がかかるいう日本の現状を指摘。その上で、株式公開による資金調達を可能とするシステム作りに取り組んでいるVIMEX(ヴァイメックス)について説明した。

出縄氏は、「東証マザーズやナスダック・ジャパンの創設で、企業が証券会社を選択する現代において、これからは企業が投資家に説明をして理解してもらわなければならない」とし、そのための情報公開や経営マネージメントを、VIMEXがアウトソーシングとして行なっていると述べた。

また、企業は多少リスクがあっても成長思考を保つことが重要であり、現状維持に留まっては資金は生まれないと語り、基調講演を締めくくった。

「学生と年配者が共同で事業活動を展開していくためには、相互の信頼関係が必要」

続いて行なわれたパネルディスカッションは、“新産業創出の条件”がテーマ。コーディネーターには慶応義塾大学教授の中島洋氏、またパネリストとして同大学教授の花田光世氏、助教授の鈴木寛氏、ディー・ブレインの出縄良人氏、(株)IMD代表取締役の峯尾淳一氏が参加した。

IMDの峯尾氏は、同社でインターネットや携帯電話向けに情報収集/提供システムの開発などを行なっている。峯尾氏は藤沢で6年間の大学時代を過ごしており、その経験から藤沢の利点を語った。

IMD代表取締役の峯尾淳一氏
IMD代表取締役の峯尾淳一氏



花田教授は、地域のニーズに合ったシニアビジネスなど、セルフエンプロイド(自営業)型ベンチャーの必要性を説いた。「藤沢市には、東京で経営幹部として働き、定年を迎えた人が多くいる。彼らを田舎に帰らせてしまうのではなく、藤沢で暮らしていこうというインセンティブになるメカニズムを作ることが大事」と花田氏は語った。

また、そのための情報教育やコミュニティーサイトの構築、経営者や経営幹部がボランティアで中小ベンチャーのコンサルティングを行なうプログラムの実現などを提案した。

花田教授は来年度、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)においてキャリアリソースセンターを設立する。流動化時代に自分自身でどのように自分のキャリアを作っていくかに関してのサポートメカニズムを作ることがその目的であり、第三機関としてのサポートメカニズムを目指す。このセンターは学生だけで成り立つものではないため、市民の協力を得たいと付け加えた。

慶応義塾大学教授の花田光世氏
慶応義塾大学教授の花田光世氏



これに対して鈴木寛助教授は通産省での経験を踏まえ、環境と制度が整った後に重要となる、よい人材とよいチームの必要性を挙げた。その上で、「藤沢市は産業のバランスはとれているが、それぞれの交流が不足しており、それをマッチングする人材が必要」という印象を述べた。具体的には中小企業が新たに人を雇う際に必要な賃金の一部や、人材確保のためのコンサルティング費用、人材教育費用の一部を負担するシステムなどを提案した。

また鈴木助教授は、若者は新しいものを生み出す技術やマーケティングが得意なのに対し、オペレーションや経営管理は苦手だと指摘し、その分野で経験を持っている人材が生きるということを示した。

さらに、「学生と年配者が共同で事業活動を展開していくためには、相互の信頼関係が必要となる」と指摘。そのための準備として、「企業を起こす前段階に、アフターファイブや週末を利用して学生と企業人が交流を図ることで、リスクが軽減できるのではないか」と述べ、新産業を起こすための“リソース”の必要性を強調した。

慶応義塾大学助教授の鈴木寛氏
慶応義塾大学助教授の鈴木寛氏



ディー・ブレインの出縄氏は、「ベンチャーキャピタルの観点から、若い人と高齢者が一緒にやる段階において、評価と育成が大切」と指摘。その手段として、「藤沢に人材のデータベースを作って、資金と人材の両面からビジネスを進めていく魅力を高め、仕事そのものが生まれてくるという環境を用意するのはどうか。この地域の税金や経済を引き上げることになるだろう」と語った。

新産業創出のためには、地域住民自身の支えが不可欠である。これに関して花田氏が、大学をオープンにすることで企業人も勉強できるように施設を開放することを提案。出縄氏はベンチャーキャピタルの視点から、市民自身が投資することで“暖かい資金”につながると語った。

コーディネーターを務めた、慶応義塾大学教授の中島洋氏コーディネーターを務めた、慶応義塾大学教授の中島洋氏



最後に、藤沢市が国に先がけて新産業のバイヤーとなることや、電子政府を構築することなどで全国の市町村をリードする存在となること、また税金を低くすることなどで人材と資金の集まる環境を作ることを今後の展望としてまとめ、第1回フォーラムは締めくくられた。

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