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【INTERVIEW】SME、インターネット音楽配信サービス“bitmusic”を開始--プロデューサーに聞くその全貌

1999年12月20日 00時00分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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本日正午、(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)は、国内アーティストによる新譜シングル曲を有料で配信するサービス“bitmusic”を開始した。同社では、SDMI(Secure Digital Music Initiative)に対応する有料音楽配信としては、世界で初めての試みとしている。

bitmusicを担当しているのは、今年9月1日に結成された“ダウンロードプロジェクト”というチームで、総責任者はSME専務取締役の盛田昌夫氏。年内にダウンロードサービスを開始するために、コンテンツ、システム、経理、契約など各担当部署で実務経験を積んだ即戦力となる人材が、合計20人集められたという。

ASCII24では、ダウンロードプロジェクトでコンテンツを担当するプロデューサーの加納糾(おさむ)氏と金丸潤氏にインタビュー、今後の展開も含め“bitmusic”の全貌について聞いた。



ダウンロードプロジェクト プロデューサーの加納糾(おさむ)氏(左)と、同じくダウンロードプロジェクト プロデューサーの金丸潤氏。bitmusicについてのアーティストや事務所側の反応は上々で、エントリーしたいという声も多かったという。ASCII24ではbitmusicについて、ミュージシャンの佐野元春氏にもインタビューを行なっているので、こちらもあわせて見て欲しい

--bitmusicがターゲットとしている層は?

加納「これから始めるダウンロード配信は、パッケージCDのビジネスに取って代わるものとは位置付けていません。パッケージから代表曲をピックアップしてダウンロードで売ることで、音楽にあまり興味がない方を、パッケージCDの市場に呼びこもうと考えています」

「ですから、社会に出て学生時代よりも音楽を聞く習慣がなくなった方や、レコード店に寄る時間のない方、CMでちょっと耳にして興味を持たれた方などを考えています。また、今回クレジット決済というハードルもありますので、20~30代の方にぜひ立ち寄っていただければと思います」

加納糾氏。太田裕美やカズンといったアーティストのプロデュースを過去に手掛けている。個人的には、何千枚というCDを所持しており、荒井由美やドナ・サマーなど、'70年代の音楽であれば洋邦問わず聞くという
加納糾氏。太田裕美やカズンといったアーティストのプロデュースを過去に手掛けている。個人的には、何千枚というCDを所持しており、荒井由美やドナ・サマーなど、'70年代の音楽であれば洋邦問わず聞くという



--真っ先に販売する対象を、邦楽の新譜にした理由は何でしょう?

加納「新しいビジネスをやるにあたっては、新譜のほうがインパクトが強いですし、イメージが良いでしょう。今回、販売の対象となっている音楽レーベルは、ソニーレコード、SMEレコード、エピックレコード、キューンレコード、SME Associated Recordsの5つです。邦楽の旧譜、洋楽については第2、第3段階の話ですね」

金丸「ユーザーからのニーズがあれば、こうした企画も方向性としてはあり得るでしょう」

--クラシックやジャズ、洋楽は?

金丸「現実、我々がやってきたジャンルではありません。クラシックはシングル曲自体がめったにないですし。今後、やるとしたら考えられるのが洋楽です。洋楽の担当者は、既にプロジェクトメンバーに入っています」

製作現場のプロとして、ATRAC3の印象


--1曲ダウンロードするのに17分かかる*というインフラの問題も、クラシックやジャズのサービスを始めるハードルになるのでは?


*33.6kbpsモデムで約4分の曲をダウンロードした場合

加納「ユーザーの音に対する嗜好の問題もあります。今回はATRAC(アトラック)3を音の圧縮技術として採用しました。ATRAC3は、人の耳に聞こえない部分をカットしているので、通常違和感ありません。ジャパニーズポップスの場合は、どちらかというと、歌の部分が聞こえやすくなっています」

金丸「一般のCDですと高音域、低音域も一通り入れるわけですが、ATRAC3は極力耳に残りやすい音域を集めたというか、ボーカルが際立つような感じです。クラシックの場合は、レンジが広いですから」

加納「クラシックの場合、レコードからCDになった時、“アナログにあったときの周波数がなくてよくない”というユーザーの声が多数寄せられました。そういったことを考えると、圧縮音源がユーザーが受け入れられるか、圧縮音源がクラシックにふさわしくないのかもしれません。ただ、今後考えていきたい課題ではあります」

金丸潤氏。これまで、α波ミュージックの立ち上げをはじめ、プロ野球の優勝記念CD、なつかしのTVドラマ主題歌集といった、トレンドになりそうな企画モノを中心に担当してきた。個人的には、'70年代のソウルミュージックを好んで聞くとか
金丸潤氏。これまで、α波ミュージックの立ち上げをはじめ、プロ野球の優勝記念CD、なつかしのTVドラマ主題歌集といった、トレンドになりそうな企画モノを中心に担当してきた。個人的には、'70年代のソウルミュージックを好んで聞くとか




--それではなぜ、圧縮方式でATRAC3を選んだのでしょう?


加納「MDの圧縮方式であるATRACは、定評がありました。さらに、ATRAC3は1/10圧縮ですが、ATRACの1/5圧縮に比べてもその音質に遜色がないということが、大きな理由です」

「圧縮方式によって音質は異なります。それは、どれがどのジャンルにふさわしいというのではなく、どれが好きかというところに行き着くようです」

--ATRAC3について、耳で聞いた特徴というのは?

加納「レコード制作に携わるプロ中のプロから、性別も年齢も違う40人を集め、圧縮音源とCDの音をかけて、“どっちがどっち?”というイジワルな質問をしたことがあります。愚問だなとは思ったんですけど、結果、半々に割れました」

「そこで、参加者に聞きこみを行なったところ、“確かに違うなと思ったんだけれど、こっちの方が聞きやすい”とか、“こっちのほうが好きだから”という声でした。“携帯プレーヤーを使って雑踏の中で音楽を聴くには、なおさら、ボーカルが際立つ圧縮方式の方がいいのではないか”という声もありました。こうなると、良し悪しではなく、好き嫌いの問題かなと感じました。また、興味深いことに、圧縮音源側に手を上げた人は女の人や若い人が多かったですね」

--単純に、MP3と比べてどうでしょう?

加納「聞き比べてはみたのですが、パソコンのスピーカーで両者を聞いた分にはよく分からない。ポータブルデバイスでヘッドホンを使って聞かないとわからないくらいです。まだ今の時点で(12月7日)、SMEに携帯プレーヤーは届いていないのですけど。おそらく、ラジカセで聞くCDと、高品位のヘッドホンできくATRAC3では、後者の方がいいのではと推測します」

--MP3とATRAC3を比べた場合、音質よりも、著作権保護システムの方を重視して選んだのでしょうか?

加納「それもありますが、いろいろやってソニーの方がよかったから。もちろん、いい技術が出てくれば、今後採用していくつもりです」

1曲350円の理由

--1曲350円という価格設定の理由を教えてください

加納「データ配信ということで無形のものですが、CD、カセット、MD同様にパッケージ販売の一つの形態という位置付けでやっています。ですから、既存のパッケージと価格的な差がつけられない。パッケージの値段を曲数で割ったもの、プラス、著作権者に支払うパッケージと同等の額の印税分、この2点から割り出しました」

--単純に、レコードやCDをプレスするコスト、流通コスト、ジャケットや歌詞カードを製作するコストがいらないと思うのですが


加納「ハード的な部分では、レコード、カセット、CDといった既存の媒体間でも差は付けていません。また、“インタ-ネットだからお金がかからないんじゃないか”と思われがちですが、圧縮技術、電子透かし、ダウンロード配信のシステム内でそれぞれにライセンス料がかかります。それに、楽曲の単価が低いのでクレジットカードやプリペイド会社に支払う手数料*や、ユーザーサポートの費用なんかを合わせると、パッケージと同等もしくはそれ以上の手数料かかっているのです」

*bitmusicの決済方法は、クレジットカード(VISA/MASTER/JCB)、So-netが提供する事前登録ID制決済方式“Smash”、(株)ウェブマネーの小額電子決済用プリペイドカード“WebMoney”の3つ

--それでは、逆に採算が取れないのでは?

金丸「採算の問題というよりも、今回のサービスはパッケージに興味を持っていただくためのプロモーション的な位置付けでもありますから」

--プロモーションでしたら、もっと安い価格設定のほうがユーザーに喜ばれるのでは?

金丸「逆に、今後の展開として、本格的なビジネスとしての運用に転換した場合、そのときに値段を上げてしまったらユーザー側に抵抗が生まれるのではないでしょうか。先ほど加納が申しましたように、ダウンロード販売といっても価格付けは基本的にパッケージ料金と同じです。アーティストによって、価格の差がないというのも、そのためです」

--350円という価格帯ですと、レンタルCDショップと競合するかと思いますが

加納「競合はしません。貸し借りの手間を考えても。サービスの利用者の層が違うでしょうね」

--競合ということでは、先ほどの試算を考えると広告収入を見込んでということでしょうか、ソフトバンクグループがダウンロード配信について1曲100円という価格を打ち出しました。価格競争力としてはあちらのほうが勝っているわけですが、これに対する何か対抗策はありますか?

金丸「まだ詳細がわからないので何とも言えないのですが、コンテンツが競合するということはないでしょう」

--ソフトバンクがレコード会社を買収したら、強力なライバルになりませんか?

金丸「考えられますね」

気になる携帯電話やプレステ2への対応は……


--現在のところ、bitmusicのサービスはWindowsユーザーに限られていますが、Macintosh対応の予定は?

加納「来年内には対応したいと思っています」

--携帯電話を使った音楽配信は視野にいれていますか?

金丸「携帯やPHSを使ったダウンロード配信が可能になれば、サービスの対象となる年齢層も下がりますし、ダウンロード時間も短縮されるでしょう」

--(株)ソニー・コンピュータエンタテインメントの『プレイステーション2』とか、ゲームをダウンロードできるんでしたら、音楽データなんかも当然できるわけですよね

加納「現段階では何とも。もし実現したら、音楽が広がるきっかけにはなると思います」

--ミリオンセラークラスのアーティストの新譜の発売日には、瞬間的にもの凄いアクセスがくると思うのですけど、サーバーはどのくらいの負荷に耐えられるのでしょう?

加納「瞬間で、1万アクセスまで平気です。アクセスログとかは、どのくらいダウンロードされたかといった数字は、オープンにしません」

金丸「ダウンロードチャートみたいなものを考えている会社もあるようです。ただ、当面はSMEだけのコンテンツですから、レコード会社何社かが参入した後という、あくまで将来的な話でしょうが」

--新曲発売当日にサーバーダウンといったニュースが出たら、“これは1万以上いったな”と考えてもいいわけですよね


加納「きたら、ものすごく嬉しいです。パッケージでも1日に1万バックということはないですから」

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