14日より、パシフィコ横浜において、インターネット技術の研究、開発、構築、運用などに関わる研究者やユーザーが一堂に会し議論するイベント“Internet
Week99”が開催されている。本稿では15日に行なわれたカンファレンス“Java
Conference”から、“Javaに関する技術・応用・表現大賞'99”の受賞作品と受賞者の講演を報告する。
“Javaに関する技術・応用・表現大賞'99”は、WWWのアプレット記述言語として広く普及しているJavaのさらなる普及と発展、オブジェクト指向技術の向上を促進するために設けられたもの。本大賞には、技術、応用、表現の3部門があり、それぞれに大賞が選ばれ、受賞者に賞金50万円が授与された。
【技術部門の大賞】――FJ(仮称)
まず、技術部門の大賞では、(株)東芝のFJ(仮称)が選ばれた。FJとは、JavaアプリケーションのGUIのみを実行時にサーバーから分離し、クライアント側からの遠隔操作を可能にするツール。プロトタイプの画面デモ |
GUIをアプレットとして、データ処理をサーバーに分離して開発する場合、アプレットとサーバー間でプロトコル設計や通信処理の実装が複雑になってしまうという欠点があった。
GUIのみを実行時にサーバーから分離する――つまり“GUIを飛ばす”というアイデアなら、遠隔地にある高性能サーバーのリソースを使う場合や、オフィスで利用している環境をそのまま使えるようになる。
同じような考え方として、X端末を使ってウィンドー単位でGUIを飛ばす方法がある。しかし、この方法だと、プラットフォームがUNIXに限定されるし、Xウィンドウ表示ツールをインストールしなければならない。また、低レベルの描画でもAPIごとに通信する必要がある。
さらに、デスクトップ全体を飛ばすツールの場合は、プラットフォームに依存しないでブラウザーで操作できるが、デスクトップ全体の画像イメージを転送しなければならず、通信量が大きくなってしまう。そこで、東芝のFJ開発チームは、「開発にあたって、プラットフォームに依存せず、通信料の少ないツールを考えた」という
。
FJの実装を担当した東芝の村松氏 |
技術的な課題として、実装方法と、実用レベルの性能を実現する方法を検討した。実装方法はGUIライブラリーを置き換えることで、高速化はSocket上に直接独自プロトコルを実装することで、通信量の過多は通信プロトコルの独自圧縮を用いることで対策を講じた。
この結果、グラフィック性能はクライアント側のマシン性能に依存してしまうので際立った変化はなかったが、プロセッサー性能はサーバー側とほぼ同じ性能を発揮できた。このシステムを適用すれば、GUIの操作はクライアントマシンで行なってもサーバー側の高いプロセッサー性能を利用できることが検証できた。応用範囲は広く、アプリケーションサービス、システム開発の効率アップ、遠隔監視・管理などに適用できる。
発表したFJ(仮称)はプロトタイプだが、需要があればすぐにでも製品化できるそうだ。
【表現部門大賞】3次元お絵描きアプレット“Teddy”
表現部門の大賞は、東京大学大学院情報工学専攻の五十嵐健夫氏が開発した3次元お絵描きアプレット“Teddy”が選ばれた。3次元お絵描きアプレット“Teddy” |
“Teddy”は、デイスプレー付きのタブレットやマウスを利用し、初心者でも簡単に3Dモデルを生成できるJavaアプレット。輪郭を描くだけで、対応する3Dモデルを生成し、手書き風のレンダリングで表示する。生成された3Dモデルは視点を変えて見ることができる。
また、モデリングの編集も簡単にできる。突起生成、切断、ベンド、スムージング(面を取り除いて角のない滑らかな突起をつくる)などの編集モードを用意している。動作環境は、Windows
95/98/NT上で、かつIE4.0 以上のブラウザー。
五十嵐氏は、「3Dグラフィックスは普及したが、実際に3Dグラフィックスに挑戦しようとしても使い難いものが多かった。一般の人でも、紙にお絵描きする感覚で3Dを簡単に制作できるようにしたかった」と、開発の動機について説明した。
“Teddy”の開発者、五十嵐氏。現在、『Teddy2』を開発している |
また、Javaで開発した理由として、コーディングが早くできること、アプレットとして公開して自由に使ってもらえること、開発環境が無料であることなどのメリットを挙げた。
今後の展開として、五十嵐氏が研究しているのは、キャラクターアニメーションへの応用である。Teddy
の新しいバージョンの『Teddy2』は、カーネギーメロン大学が開発しているアニメーション作成ソフト“Alice
99”とともに配布されている。
『Teddy2』。“簡単に3Dアニメーションが制作できる |
Alice 99のパッケージをダウンロードしてインストールすると、 3次元モデルを作成し、色を塗って、さらにアニメーションを作れる。メニューからフォワード、レフト、ライトといったコマンドを選ぶだけで、即座に作成した3Dモデルが動作する。
これは、Teddyで突起生成時に制作した際に階層構造を付与することで実現しているという。
【応用部門大賞】ビジュアルチャットシステム『Murmur』
応用部門大賞は、(有)サンズの遠藤太郎氏が開発したビジュアルチャットシステム『Murmur』が選ばれた。Murmurは、ウィンドーの中の好きな場所に、付箋(ふせん)を貼るようにして発言できるビジュアルチャットシステム。
ビジュアルチャットシステム『Murmur』。漫画のフキダシのようにチャットできる |
従来のスクロール型のチャット表示と異なり、人間が持つ空間認識能力を会話に応用できるようにしている。ある発言者の発言に対し、自分の発言を近くに置くことで、関連性を視覚的に表わせる。
また、CGIを利用したチャットシステムでは、サーバーごとにCGIプロセスを起動するため、メモリーや回線を圧迫し、サーバー側に負担を掛けることがある。Murmurはウェブと独立したプロセスで動作するため、ウェブサーバーに負担を掛けずチャットできるという特徴がある。
遠藤氏は、開発のポイントとして、「いかに機能を減らして参加者を増やすか」と考えたという。そのため、チャットアプレットの容量は32KBしかない。また、ユーザーがどのようなブラウザーでも使用できるように、IE3.0やNetscape3.0から動作するようコーディングしている。
サンズの遠藤氏。「どんなブラウザーでも動かせるように工夫を凝らした」 |
実際には使用ユーザーは7割ぐらいがIE5.0を使用し、そのほかのブラウザーを利用しているユーザーは3割程度。しかし、マーケティングの段階で、たとえ使用ブラウザーのの数が少なくても、すべてのユーザーを取り込んでいくというコンセプトで開発したという。
そういった努力が“Murmur”のユーザーに支持され、ユーザー自らが面白い遊びやアイデアをどんどん出してくるようになった。たとえば、ビカチュウなどの“Murmur”の絵文字辞書をサイトにアップしたり、ポストペットパークで開催しているクイズパーク横断スーパークイズの回答欄にも応用されている。
また、ウェブの画廊に“Murmur”を利用する企画も進めている。絵をみて、その感想などをコメントとして残せるような展覧会を年内中に開催しようと考えているという。