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【INTERVIEW】「ネットの世界では一人勝ちしようとするところは必ず失敗します」--リアルネットワークス、比嘉ジェームス社長に聞く

1999年12月17日 00時00分更新

文● 編集部 鹿毛正之

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リアルネットワークス(株)は、10月18日にダウンロード音楽サイトの“RealJukebox Guide”をオープンするなど、ポータルサイトをベースとした新しいビジネスモデルに踏み出しつつある。すでに米国では、テレビ局をはじめとした多くの企業が、“チャネルパートナー”として同社のサイトにおいてコンテンツ配信を行なっている。

ストリーミングツール市場では85パーセントのシェアを占めるという同社の、今後における戦略について、取締役社長を務める比嘉ジェームス氏に話を聞いた。今回のインタビューは、東京・中央区の東京国際フォーラムで開催された“RealNetworks Conference & Exhibition '99/Tokyo ”の会場にて収録した。

リアルネットワークス(株)が主催したカンファレンスには、1000人以上の来場者が詰め掛けた
リアルネットワークス(株)が主催したカンファレンスには、1000人以上の来場者が詰め掛けた



日本市場で650万人のユーザーを獲得

--日本におけるRealPlayerのユーザー数は650万人ということですが?

「これは登録ユーザーの数です。ツールをダウンロードして、メールアドレスを登録してくれた人だけの数です」

--RealPlayer G2に限ればどれくらいですか?

「この60パーセントくらいです。G2の発表以後、登録ユーザーが一気に増えました。米国での例ですが、先日RealPlayer 7を出した時、最初の1週間で400万ダウンロードを記録しました。RealAudio 1.0のときは、初日1143本だったわけですから、RealPlayer 7は3分足らずで達成したことになります」

リアルネットワークス(株)の比嘉ジェームス取締役社長
リアルネットワークス(株)の比嘉ジェームス取締役社長



--そのRealPlayer 7ですが、日本投入の時期は?

「来年半ばを予定しています。ソフトウェア自体の日本語対応は簡単です。ローカリゼーションするところもほとんどないですし。むしろ、チャネルとして用意する番組集めなどに時間が掛かるので、4月くらいでしょうか。こちらのほうがはるかに大変です」

--放送局などコンテンツを提供する企業とのネゴシエーションは進んでいるのですか?

「非常にうまくいっています。チャネルパートナーも、去年の4社から19社に増えています。今年に入ってから、ウェブストリーミングに対する理解度が高くなっています。RealGuideを2年前に立ち上げた時は、こちらから週に3回くらい「(コンテンツを)更新してください」とお願いしていたのですが、今では日々新しいのが入ってきています」

--ストリーミングについて、日本企業に説明する必要はもうなくなっているのですね?

「ストリーミングがどういうものかを説明することは、もうなくなっています。ただ、音楽配信に関しては、まだ説明が必要なことが多いですね」

--RealPresenterやRealServerの日本語化はどうなっていますか?

「RealServerについては、英語版のままで、すでにお使いいただいています。下手に日本語化するよりも、英語版のままのほうが使いやすいという意見も多いのです」

「それに対し、RealPresenterはプレゼンテーション用ツールということで日本語化が非常に重要ですから、こちらのほうは2000年の中頃になるのではないかと思います」

1つのツールであらゆる音楽ファイルを鑑賞可能

--10月18日には音楽ポータルサイトの“RealJukubox Guide”をオープンされました。ですが、このようなストリーミング系のサイトは、インターネット接続料金の高い日本では、あまり受け入れられないのではないでしょうか?

「私は逆に考えています。というのも、日本は確かに接続料金は高いですが、通信品質も高いのです。ISDNやOCNといった接続速度の速い高品質のサービスが普及しているので、大きなファイルを一気に落とすのには適している市場だと考えています」

RealJukubox Guide
RealJukubox Guide



--著作権法が改正されたことで、デジタル音楽ファイルをMP3にエンコードする行為に違法性が認められる可能性が出てきました。Real Jukeboxにはまさにこの機能が備わっているのですが、これに対する見解はいかがでしょうか?

「ツール自体に違法性があるとは思いません。また、違法な使い方をする人は、ホンのごく一部だと思います。実際、ユーザーの99パーセントは、違法コピーなどしていないと思います。ビデオデッキなど新しいデバイスが普及する時には著作権が問題になるものですが、音楽のダウンロードについても、そういった過渡期にあると思っています」

「リアルネットワークスでは、“User's Experience”を提供することを目的としています。たとえば、Real Jukeboxを使っていただくことで、RealファイルでもMP3でも音楽ファイルなら何でも、1つのツールで楽しめるようになります。もちろん、動画ファイルも同様に楽しめます」

--Real Jukeboxが、無断で各ユーザーにIDを付与していたことが原因で集団訴訟されていますが、これについてはいかがですか?

「弊社としては、ユーザーに対して説明不足だったことを反省しています。ユーザーにメリットを提供するためだけにIDを利用し、ほかのことには流用しないということを、事前にちゃんと説明するべきでした」

「たとえば、アマゾン・ドット・コムのユーザーは、同社に対してクレジットカード番号のような非常に大事なプライベート情報を登録しています。これは、2回目からは番号をいちいち入力する必要がないというメリットを、ユーザーが理解しているからです」

「弊社でも、同様にユーザーに対してメリットを提供していくつもりです。ビジネスチャネルをよく見るユーザーには、ビジネスの情報を提供するといった、目的を持ったサービスを提供するといったことです」

リアルネットワークスのウェブサイトに接続すると、『Real Jukebox』のダウンロードを促す画面が表示される。基本機能だけならば無料で利用可能だ
リアルネットワークスのウェブサイトに接続すると、『Real Jukebox』のダウンロードを促す画面が表示される。基本機能だけならば無料で利用可能だ



収益の20パーセントはEコマースから

--御社のビジネスモデルについて教えてください。基本的に、Playerを無料で配り、ストリーミングサーバーを売ることで利益を出すという理解でいいのでしょうか?

「それは、弊社にとってはごく初期の古いビジネスモデルです。たしかに最初はそうでしたが、現在ではサーバーからの収益は全体の40パーセントに過ぎません」

「現在は、収益の40パーセントは、Real Player G2 Plusなど、有償ダウンロードからの売上が占めています。また、残りの20パーセントはEコマースによる売上です」

--どういったEコマースを実践しているのですか?

「たとえば、クレジットカード会社とパートナーを組んだキャンペーンがあります。ビジネスチャネルを見ているユーザーに対し、クレジットカードの新規申し込み案内を送信するといったものです。この場合、新規契約者が獲得できた場合に、1件あたりいくらという契約をカード会社と交わすというわけです」

「象徴的な事例としては、AOLの『インスタントメッセンジャー』が挙げられます。実は、RealPlayerを通してインスタントメッセンジャーをダウンロードしたユーザーは、AOLのウェブサイトからダウンロードしたユーザーよりも多かったんです。これには、AOLでもショックを受けていたようですね」

--ストリーミングファイルに限らず、ソフトのダウンロードにもRealPlayerは向いているということですね?

「Real Playerは、音楽や画像のストリーミングだけでなく、デリバリーもできるんです。ビットにできるものなら、ソフトでも画像でもサービスでも、なんでもデリバリーすることができます。つまり、我々は流通経路を持っているわけです。これは大きな強みですね」

「たとえば、RealPlayer G2 Plus日本語版については、最初の1週間で3000本を販売しました。これは、秋葉原でパッケージ販売を行なっても、なかなか達成できない数字です」

--これから、Eコマースの比率は上がっていくのでしょうか?

「全体としては大きくなりますが、比率としてはわかりません。Eコマースが伸びることによってサーバーの売上も伸び、サーバーが伸びることでEコマースも伸びていきます。互いに追っかけっこしながら伸びていくと考えています」

2000年のリリースを予定する『Real Web Glide』、CGのストリーミングが可能で、バーチャル店舗の構築にも向いている
2000年のリリースを予定する『Real Web Glide』、CGのストリーミングが可能で、バーチャル店舗の構築にも向いている



ヨーロッパよりも日本市場を重視

--'98年末にはマイクロソフトがリアルネットワークスの株式を放出し、株価が16ドルまで下がりました。今では160ドルまで上がっていますが、当時は危機感はありましたか?

「社内では特に危機感などはありませんでした。我々は10年先20年先を見据えてビジネスをしているので、ちょっと株が下がったり上がったりしたくらいでは、動じません。事実、4年前にRealPlayerのシェアは85パーセントでした。そして、今でも85パーセントを保っています」

「多くのインターネット系企業では、株式公開に目標をおいて、ミリオネアになることを夢見ていると思います。でも、弊社ではもっと先を見据えています。だから、株価のことはそんなに気にならないんです」

--リアルネットワークスでは、日本市場をどのように捉えているのでしょうか?

「米国についで二番目に重要な市場と認識しています。事実、ヨーロッパよりも先に、日本に現地法人を設立したほどです。会長のロブ・グレイザー自身、日本は大切な市場だといつも口にしています」

「外資系の企業では、「日本からの売上は小さいのだから、本社に対してあれこれ言うな」というところが多いでしょう。組織的にも、本社のセールス担当副社長の下に、日本法人がぶら下がっているというケースが多いですね」

「でもリアルネットワークスは違います。私は米本社のアジア担当副社長を兼ねていますので、権限も発言力も持っています。実際、リアルネットワークス(株)は、米本社からかなりのフリーハンドを与えられています」

--確かに外資系の場合、日本法人は本社の出先機関に過ぎないケースが見受けられます

「インターネット系の企業では、海外市場のことをよく知らないまま日本に進出してくるケースが多いですね。それに対し、リアルには国際的な大企業の出身者も多いですから、日本市場のこともよくわかっているんです」

「現在、日本法人は25人ほどの陣容です。全世界でも500人ほどですから、特に少ないということはありません。これからは倍々で増えていくと思っています。もっとも、1000人になったりはしないでしょうけどね(笑)」

「現在、Real Jukeboxの登録ユーザー数は、米国の1800万人に対し、日本はその10分の1ほどです。これも、日本におけるインターネット環境が整備されていくにつれ、差は縮まっていくでしょう。実際、伸び率は日本が上回っているんですよ」

2000年にはCGストリーミングの『Web Glide』を投入

--マクロメディアのFlashを統合するなど、他社の技術を導入することにも積極的なようですが?

「マクロメディアは重要なパートナーです。弊社ではストリーミングの技術は開発しますが、アニメーション再生など他の部分については、他社と協力していきます。弊社が儲かればマクロメディアも儲かり、マクロメディアが伸びれば弊社も伸びるという関係です」

「2000年前半のリリースを予定する『Real Web Glide』にも、Flashの技術を応用しています。Web Guideは、CGのストリーミングツールをしては、かつてない品質と速度を備えています」



『Real Web Glide』では、商品の概要を詳細なCGで確認することが可能。シリアルのパッケージに記載されている栄養諸元表まで、こんなにクリアに表示される
『Real Web Glide』では、商品の概要を詳細なCGで確認することが可能。シリアルのパッケージに記載されている栄養諸元表まで、こんなにクリアに表示される



--有望な技術を持ったベンチャー企業に出資したり、もしくは買収するという計画はありますか?

「ないということは言えませんよね(笑)。ただ、ケースバイケースですので、パートナーとして一緒にやっていくということです」

「パートナーという意味では、弊社はあらゆる企業とパートナーシップを組んでいきたいです。たとえば音楽サイトなら、音楽レーベルやCD量販店、あるいはソフトバンクさんが運営するダウンロードサイトなど、あらゆるところと組んでいきたいと考えています。ストリーミングに関しても、たとえば米ABCと組んだからといって、他のテレビ局とは手を組まないということはありません」

「インターネットの世界では、すべてを抱え込んで一人勝ちしようとするところは必ず失敗するんです。一社で独占しようとすることはできない分野なんです。ですから、弊社も他のパートナーと組むことで、お互いにメリットを享受しようと考えています」

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