NTTコムウェアがChaiライセンスを取得
14日、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションウェア(株)(NTTコムウェア)は、日本ヒューレット・パッカード(株)(以下日本HP)が提供する組み込み機器用のJava互換環境“Chai(チャイ)”のライセンスを取得したと発表した。NTTコムウェアは、通信ネットワークや情報システムの構築を主に担当する、日本電信電話(株)(NTT)の100パーセント出資の子会社。今回のライセンス取得の発表により、今後NTTコムウェアでは“次世代モバイル系高機能情報サービス基盤”の開発にChaiが導入されることになる。具体的にはJavaの実行環境(Java VM互換のChai VM)を搭載した携帯電話や、その携帯電話とウェブサーバーを接続する技術などが開発される。これにより携帯電話にJavaアプレットのダウンロード機能を持たせることができ、たとえば電子財布機能などを実現できるようになる。エヌ・ティ・ティ・移動通信網(株)(NTTドコモ)などの携帯電話機メーカーとの話し合いも進んでいる模様だ。
Chaiは米ヒューレット・パッカード社が開発した、Java互換の組み込み機器用の実行・開発環境で、ネットワークやプラグ&プレー、各種ライブラリーなど複数のコンポーネントを持ち、その全体を“Chai Appliance Platform”と呼んでいる。提供されるコンポーネントは、実行環境であるChai VM(Virtual Machine)、XMLブラウザーの“Chai Farer”、“Chai Server”、“Chai Appliance Plug&Play”、“Chai e speak”などがある。
一般に知られているようにJavaはインターネット対応でプラットフォームを問わない言語として普及しているが、組み込み機器向けとしては実行速度が遅いこと、コードサイズが大きいことなどがデメリットとして挙げられており、米Insignia Solutions社の“Jeode”など、これらの問題点を独自の技術で改善したJava互換環境が各社から発表されているのが現状。Chaiもそのひとつにあたる。
HPのChai戦略を開発事業部長に聞く
また日本HPは同日、Chaiの開発者向けセミナー“Chai DAYS”を開催した。このセミナーは、ストックホルムやパリ、ロンドン、台北などでも開催されており、ここ東京でも多くのメーカーのエンジニアが参加した。このセミナーにあわせ来日した米HP社Chai開発事業部長(Embedded
Software Operation General Manager)のジム・ベル(Jim Bell)博士に同社のChai戦略について話を聞いた。話をうかがったChaiの開発担当マネージャであるジム・ベル博士。UNIXの標準化団体“Open Group”でも活躍した。 |
――今回のNTTコムウェアとの発表について。
Bell博士:世界的に有名なNTTのグループ会社であるNTTコムウェアとの提携は、携帯電話やPDA、既存の電話回線を接続する次世代のモバイルインフラの構築につながるものです。Chaiの利用によって、クオリティの高いサービスを実施できるようになるでしょう。BtoB(Buisiness
to Buissiness)やBtoC(Buissiness to Customer)など広くサービスが提供できるはずです。今回の提携によってHPとNTTコムウェアはマーケティングや技術提供など広い分野で共同で仕事をすることになります。
――Chaiのアドバンテージは?
Bell博士:ChaiはどんなマイクロプロセッサーやリアルタイムOS(ROS)とも組み合わせることができます。Chaiが提供するコンポーネントを使って自動車用のアプリケーション、テレビ用のアプリケーションなどさまざまな用途に応じた開発が可能です。またChai
VMはサン・マイクロシステムズのJava VMと完全な互換性を持っていますが、両者を比較するとChai
VMはJava VMに比べてパフォーマンスで20倍、コードサイズで10分の1、リアルタイム処理においては400倍もの性能差があります。多くのカスタマーがChai
VMを使いたがる理由はここにあるのです。
――Chaiではどんな機能が提供されるのでしょう?
Bell博士:HPが提供するのはChai VMのほかに、HTTPサーバソフトであるChai
Server、XMLブラウザーであるChai Farer、Windowsインターフェースを提供するChai
AWT(Abstract Windows Toolkit)、マイクロソフトなどが提唱する“ユニバーサル・プラグ&プレー”(UPnP)のChai版であるChai
Appliance Plug&Play、ネットワークマネージャーであるChai OpenView、そしてHPが提案するE-Serviceを実現するクライアントライブラリーであるChai
e Speakなどがあります。
――これらのコンポーネントは自由に組み合わせられるのですか?
Bell博士:はい。組み込む製品の用途に応じて最適なコンポーネントの取捨選択が可能です。ちなみにサン・マイクロシステムズはJavaのサブセットを認めていませんが、多くの開発者はそれに疑問を持っており、そうした理由でChaiを採用するケースもあります。また、サンの、標準化に対する姿勢についても疑問が持たれており、サンは最近もISO(国際標準化機構)やECMA(欧州コンピュータ工業会)への標準案を提出しませんでした。
――実際にはどれくらいのメモリーが必要なのですか?
Bell博士:Chai VMは250KB、ライブラリーを含めても500KBもあれば十分動きます。ただし実際にはアプリケーションのほうがずっと大きい。たとえばプリンターアプリケーションは2MBにもなるものがあります。しかしChaiでは“FreezeDry”という、アプリケーションコードのサイズを圧縮する技術を使うことができます。チリも積もれば山になると言いますが、メモリーサイズを小さくできることはそれだけコストを下げることにもつながります。以前は同じ機能でいかにメモリーを減らすかがポイントでしたが、最近はメモリーサイズを小さくするよりも同じサイズでできるだけ付加価値を詰め込むという傾向が強いようです。
――現状ではたくさんのメーカーがJava互換環境を開発していますが。
Bell氏:多くのJava互換のVM環境があって、パフォーマンスがいいもの、リアルタイム性能が高いものなど特徴もそれぞれですが、Chaiほど性能が高く、また多く機能を持つものはないと自負しています。一番の競争相手はどこかと言われれば、それはサン・マイクロシステムズですね!
――携帯電話や小型機器でいっぱいの日本市場をどうとらえていますか。
Bell氏:その意味では日本はもっとも魅力的な市場ですね。その次にヨーロッパ、特に北欧は携帯電話が普及していますから。台湾もまた有望な市場です。台湾では今週末にChai
DAYSを開催しますが、日本の2倍以上の参加者を見込んでいます。
――HPの新しい企業コンセプト“E-services”とChaiの関係は?
Bell氏:E-servicesはインテリジェントな機器が互いに通信をしあって新たなサービスを提供することを意味します。Chaiを搭載した機器では、クライアントライブラリーのChai
e speakを使って機器同士をつなぐことで、E-servicesを提供することができるようになります。
――今後のChaiの動向を教えてください。
Bell氏:先日(11月15日)もオラクルのインターネットプラットフォームである『Oracle8i
Lite』とChaiを統合する発表をしました。来年はもっと多くの新しい機能について発表されるでしょう。また、今後1週間のうちに新しいライセンスに関する発表が行なわれる予定です。