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可能性と課題の狭間で――“電子政府確立への最新事情”(後編)より

1999年12月16日 00時00分更新

文● 福冨忠和

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9日、東京国際フォーラムにおいて、日本経済新聞電子メディア局と(社)行政情報システム研究所の共催による“電子政府確立への最新事情”というセミナーが開催された。本稿では、特別講演とセッションの内容について報告する。

“本人確認手段の切り札”のICカード。2004年8月までに約5000万枚を配布する予定

基調講演“日本における電子政府の実現に向けて”の中で、東京工業大学の大山永昭氏は、電子政府を、サイバースペースに人間の活動が広がることに対応した、サイバー空間でもリアル空間と同じような社会活動が営まれるための要件とした。

東京工業大学の大山氏。“サイバースペースパスポート”であるICカードによって一括管理することを提唱
東京工業大学の大山氏。“サイバースペースパスポート”であるICカードによって一括管理することを提唱



そのために、病院、役所、税務署、銀行、商店など公共・民間分野にまたがり、法律で規定されたサービスや契約に関わる個人単位の共通基本情報を、“サイバースペースパスポート”であるICカードによって一括管理することを提唱している。これは、国民総背番号制と批判の多いまま改正案が成立した住民基本台帳改正法の中で浮上してきたICカード利用を、民生部門でも活用していく、という提案だといえる。

大山氏が考える“本人確認手段の切り札”であるICカードについては、2004年8月までに約5000万枚が配布されることが予想されており、これらをさらに広範囲に利用するためにNトークン方式による課金処理やいろいろな電子証明のベースとなるPKI(Public Key Infrastructure:公共鍵インフラ:公開鍵暗号方式の鍵の交換と管理のためのインフラ)づくりが開発ベースで進んでいるという。トークン方式とは、ICカードによるサービス享受のコストを処理するために、あらかじめ購入されたトークンをその都度、支払いに利用する、ニューヨークの地下鉄用トークンなどを雛形にした方式。

いずれにしても、これらの構想が実現するための大きな課題となるは、個人情報の保護の問題、カードからの情報交換時のセキュリティーの問題などだろう。この点については、総論でもあり、技術的側面が強いとの理由で、大山氏からは語られなかった。

2003年には“電子政府”の実現が達成されるめど

(社)行政システム研究所の百崎英氏は、政府の行政情報化推進基本計画に基づき、実際に推進されている行政情報化の動向と課題を概括した。

2001年末の“ワンストップサービスの整備方針に基づくオンライン化推進方策”によって、行政情報化は、(1)手続案内、申請様式などの情報提供、(2)申請・届出手続のオンライン化、(3)関連手続の一括処理、というステップで進められるという。

これらはすでに開発・運用・試行している登記情報提供のオンライン化、特許出願などのオンライン化、新世代統計システム、労働統計オンラインシステム、電気通信事業者の財務報告などの先進事例を元に、各省庁で具体化される。来年度の概算要求中のミレニアムプロジェクトがこの予算は畏敬となり、2003年の“電子政府”の実現が達成されるめどだという。

また、このほか、公共事業以外の政府調達に関連する手続を電子化することや(2001[平成12]年11月までに政府全体の行動計画を策定)、電子情報公開を実現するために各省庁のクリアリングシステム整備とオンラインによる開示請求などのシステム整備が行なわれているという。

さらに、これらに並行して、“霞ヶ関WAN”などを活用した文書管理システムや、地方公共団体や特殊法人までを結ぶさらに広域的な行政情報通信ネットワークシステム(ADMIX)も、ミレニアムプロジェクトの案件に含まれている。

先の住民基本台帳法と、これらの行政情報化策を通じての課題は、大山氏も指摘するネットワーク上での本人認証の方法と、これに対応した民間部門を含む個人情報保護法の制定であるという。氏は、本人認証のために処理体系を住民コードに統一するという必要性をあげながら、「いわゆる国民総背番号制とは異なる」と主張する。
しかし、住民票以外に活用されることの懸念が法案成立時に強く表明されていた住基システムをもとに、今後の課題の上では“住基システムを活用した対国民サービス内容の拡大”、“住民票コードと他の分野における個人コードとのリンケージ”を挙げるなど、やや矛盾した視点も感じられないではない。セキュリティー技術やプライバシー保護の法制化の面での対策が明確にならないうちは、やや注意を要するようにも思える。

利便性の称揚だけでなく、課題や問題点を客観的に検証する現実的な視点が必要

このほか政府関係では、“情報化政策と電子政府への取組”と称して、通産省の木村雅昭氏が、EC(電子商取引)など産業部門での展開を含めた政府の対応と各国動向を説明した。具体的にはECOM(電子商取引実証推進協議会)、JECALS(企業間電子商取引推進機構)などによって進められているEC政策は、同時にAPEC、米国、ECなどの国際動向を睨みながら進行している。最終的には“世界最高のスーパー電子政府を目指す”情報化政策推進の結果、今後5年間での情報化と情報化以外による雇用創出と雇用削減の和は、プラス13万人増となるという。

また、法務省民事局の太田健治氏からは“商業登記所における電子認証業務について”と題された、商業登記業務の電子化の具体的なステップと課題が示された。この中でも電子署名、電子証明書などにともなう電子認証制度の必要性がうたわれたが、ここでもこれらの技術的な側面は語られなかった。

加えて、これらの政府動向に対応して、産業側の受け皿である東芝、オラクル、サン・マイクロシステムズ各社からプレゼンテーションが行なわれた。

(株)東芝 情報・社会システム社 官公システム事業部、官公情報システム技術第一部長の江口喜己男氏は、同社が提案する電子政府ソリューションについて語った
(株)東芝 情報・社会システム社 官公システム事業部、官公情報システム技術第一部長の江口喜己男氏は、同社が提案する電子政府ソリューションについて語った



日本オラクル(株)マーケティング統括本部システム製品統括部バイスプレジデントの佐藤聡俊氏。“電子政府に対するデータベースシステムの要件”を発表
日本オラクル(株)マーケティング統括本部システム製品統括部バイスプレジデントの佐藤聡俊氏。“電子政府に対するデータベースシステムの要件”を発表



サン・マイクロシステムズ、コンピューターシステムズ国際マーケット開発担当マネージャーのスティーブン・G・ハフ氏。“諸外国におけるSunの電子政府システム事例”を紹介
サン・マイクロシステムズ、コンピューターシステムズ国際マーケット開発担当マネージャーのスティーブン・G・ハフ氏。“諸外国におけるSunの電子政府システム事例”を紹介



中でももっとも興味深かったのは、米国政府のほか、オーストラリアニューサウスウェスト道路交通局、フロリダ州、ブラジリアの年金制度、チリ税務局、台湾内務省、韓国厚生省、タイ内務省、メキシコ連邦選挙管理委員会、カルフォルニア・サンタクララ郡、米国郵便局など、きわめて豊富な実績をあげて実例を紹介した、サンのスティーヴン・G・ハウ氏のものだった。

総じて言えるのは、先の“国民総背番号制”の不安など可能性の反面も課題も相克するこの流れの中で、具体的な対応策については、まだ明確でないのか、あえて濁らされているのか、いずれであるかのような印象も得た。

関連展示の方でも、“位置情報システム”、“リモート監視サービス”など、政府・民間で活用されるためには、検討部会で審議中の包括的な個人情報保護法の整備が不可欠と思われるものも少なくない。

いずれにせよ、この領域では、利便性の称揚だけでなく、課題や問題点を客観的に検証するような、現実的な視点がなければ、“電子政府”という言葉に伴うSF的な権力支配のイメージは、完全には払拭できないと思われた。

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