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第3回iMedioサロン――“アメリカのベンチャーにみる日本のネットビジネスの可能性”

1999年12月13日 00時00分更新

文● 服部貴美子 

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“iMedio(イメディオ)”は、大阪市が、マルチメディア産業の振興拠点として設立した創造、情報化支援施設。創業間もないベンチャー企業に、より快適な仕事環境を提供するとともに、セミナーや勉強会などの活動を続けている。

今年の8月から開催しているiMedioサロンは、今回で3回目。さる12月10日、ネットイヤーグループのCEO小池聡氏を講師に迎え、“成功するネットビジネスとは?”をテーマに講演が行なわれた。会場は大阪市住之江区のWTCビル内にある、ソフト産業プラザ MADO プレゼンテーションルーム。


講演に先立ち、iMedio所長の富永順三氏から挨拶があった

司会は、(財)イメージ情報科学研究所の小松久美子氏司会は、(財)イメージ情報科学研究所の小松久美子氏


'90年代初頭までのシリコンアレー

大学卒業後、電通とGEの合弁会社の駐在員として、ニューヨークに渡った小池氏は、「シリコンアレーでマルチメディア企業の躍進を目の当たりにして、目からウロコが落ちた。GEはインターネットの起源である軍事に強く、'95年ごろにはインターネットの専門部隊を持つほど取り組みが早かったし、日本でバブルが崩壊して駐在員が減ってきたことで、若い自分でも自由に仕事ができたのがラッキーだった」と当時を振り返った。


講師の小池氏は'59年生まれで今年40歳
講師の小池氏は'59年生まれで今年40歳


大学時代に“学生ベンチャー”ブームにのってマーケティング関連の会社を設立し、広告代理店を通じて大手企業の商品開発やプロモーションを手伝っていた。「意識調査などの分析に使ったのが、パソコンとの出会い」だったというが、当時のアメリカでは、すでに芸術家たちが絵筆やトンカチをマウスに握り替え、マルチメディア産業を興していたのである。

'90年代はじめのアメリカでは、マルチメディア関連会社が急増する一方、マネジメントがずさんなところは、次々に潰れていった。それを教訓に、地に足のついた起業をしようという仲間が集まったのが、'94年にスタートした“ニューヨーク・ニューメディア・アソシエーション”だ。今でこそメンバーが4000人を超え、数多くのナスダック上場企業を抱える有名な組織だが、最初は弁護士、会計士、起業家ら数十人が集まって、情報共有を行なう小さなネットワークだった。

「オンラインだけでなく、オフでのフェース・トゥー・フェースの付き合いの中で、アイデアを持った人間とウォール・ストリートの人間が結びついて会社を作るなど、活動内容が徐々に底上げされていった」

日米の起業のバックグラウンドの違い

やがて、ネットビジネスのインキュベートに特化した会社を作りたいと思うようになった小池氏は、訪米中の社長に直談判し、'96年に“ネットイヤー”を設立。

ネットイヤーのポリシーは、資金は出すが、株式保有は49パーセント以下に抑えること。日本本社からは「なぜ会社を作った上に、半分以上の株を渡すのか?」と批判されたが、マジョリティーをオーナーたちに持たせたり、ストックオプションに備えることで、彼らのモチベーションをキープできると考えたのだ。


それまで、日本でインキュベーションというと、箱(オフィススペース)を貸すというイメージしかなかったが、小池氏は、ビル・グロスの“idea lab”のように、 自らビジネスを創り出すプロ集団の会社――“SIPS”という、新しい業態を作ろうとしていた
それまで、日本でインキュベーションというと、箱(オフィススペース)を貸すというイメージしかなかったが、小池氏は、ビル・グロスの“idea lab”のように、 自らビジネスを創り出すプロ集団の会社――“SIPS”という、新しい業態を作ろうとしていた


日本では最低資本金額が高く、起業へのハードルは高い。普通株と優先株を使い分けて、資本政策にバリエーションを持たせることもできない。小池氏は、「アメリカでは、これから価値を生み出すアイデアに対してのインテレクチュアルキャピタル(知的資本価値)を評価する仕組みがあったのに対して、日本のマーケットバリューは、ファイナンシャルキャピタル(財務資本価値)のみだった」と両者の違いを指摘した。

やがて、電通グループの株式上場に向けて、事業の見直しが始まったのを機に、'98年に現地のベンチャーキャピタルからも資金調達をし、MBO(マネジメント・バイ・アウト)で会社を買い取ることに。その年の11月に資本金約50万ドルで“マイルネット”という新会社を立ち上げた。

約1ヵ月後に、Exciteから6500万ドルで買収提案があった(後Exciteがアットホームの買収されたため凍結)ことについて「もともと、ビジネスプランとしては、大手ポータルに株式を買い上げてもらうつもりだった」と説明。日本の企業買収のようなネガティブなイメージではなく、大資本の下で、自分たちがやりたいことを大胆にできるようになる……アメリカでは、ごく普通のステップアップ法なのだという。


ニュービジネスメッセへの参加とビットバレーの誕生

小池氏が、アメリカでの経験と日本市場についての知識を統合して、日本でもネットビジネスを立ち上げようと思ったのは、今年に入ってからだった。「2月に“ニュービジネス・メッセ”に参加しました。“インディゴ”や“電脳隊”といった面白い会社もありましたが、FCや地方の村興し的なものが多くガッカリした」という。さらに、「日本では、有限会社の最低資本金300万円を集めたところで、オフィスすら借りれられないという厳しい起業環境。食べていくために、請負仕事を始めて“なんでもウェブ屋さん”になている」現状を知り、アイデアにフォーカスできない日本のベンチャーの行く末を懸念したようだ。

そこで、「まずは、ネットベンチャー全体の底上げをするためにスペシャリストたちの情報共有のコミュニティーが必要だ」と考えて作ったのが、ビットバレーである。すでにMLには3000人以上が登録しており、ネットエイジの西川氏や、ETICの宮城氏らの協力も得て、日本のネットベンチャーのメッカとしての認知が高まっている。

「日本にも、優秀な人たちがたくさん埋もれている。MBAを取ったら、ボーナスをもらってから、元旦から……と区切りをつけたがる人が多いが、思いたったら、その日が元旦という気持ちが欲しい」とベンチャー予備軍にはっぱをかける一方、「起業はたやすいものではない。マザーズなど、ハードルの低い市場も誕生したが、ビジネスモデル全体の中で必要な赤字だけが評価につながるという意識を忘れないで欲しい」と、マスコミの加熱報道に躍らされないようにと、注意を促した。

最後に、「成功のカギは早くやること、見た目は同じでも他人がやっていないことをやること。日本には、iモードや携帯電話のように、アメリカにはない分野もあるので、むしろチャンス!」と日本のネットベンチャーへの期待を語り、講演を終えた。


起業家だけでなく、ベンチャーキャピタルや税理士、社労士といった“ベンチャー支援者”たちも参加していた
起業家だけでなく、ベンチャーキャピタルや税理士、社労士といった“ベンチャー支援者”たちも参加していた


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