このページの本文へ

“先導的アーカイブ映像制作支援事業 成果発表展示会”が開幕--どっちが“ホンモノ”の松の廊下?

1999年12月10日 00時00分更新

文● 編集部 伊藤咲子

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

ハイビジョンやマルチメディア映像の普及支援を目的に調査・研究やセミナーの開催といった事業を行なう(財)新映像産業推進センター(HVC)が主体となり10日、“先導的アーカイブ映像制作支援事業 成果発表展示会”が東京国立博物館で開幕した。この事業は、平成10年度('98年4月~'99年3月)の補正予算による通商産業省の情報関連対策の一環として、情報処理事業振興協会(IPA)を通じて、HVCが主体となって推進してきたもの。

もともと“アーカイブ(archive)”とは記録保管所という意味があり、現存する文化的資産や、既に劣化・消失してしまった文化的資産をデジタルデータで復元し、記録・保存するというプロジェクトで用いられている。今回は“ときのいろ にほんのかたち”を副題に、映像プロダクションやソフトウェアハウスなど20社が、日本の伝統芸能や建築物などをテーマにしたソフトを展示している。

ここでは、9日に開催されたイベント関係者および報道機関を対象とした先行会の様子をもとに、展示作品を一部紹介する。

9日に会場入口で行なわれたテープカット。中央は、文化庁長官の林田英樹氏
9日に会場入口で行なわれたテープカット。中央は、文化庁長官の林田英樹氏



会場全景。各社のデモ用の機材は、Windowsパソコンあり、『iMac』あり、『Onyx2』ありと、実にさまざま。機材は各会社の自己負担という
会場全景。各社のデモ用の機材は、Windowsパソコンあり、『iMac』あり、『Onyx2』ありと、実にさまざま。機材は各会社の自己負担という



“電子セット「幻の江戸城」”、年末の特番で公開予定

会場で人気を集めていたのが、(株)NHKエンタープライズの“電子セット「幻の江戸城」”。このソフトは、江戸時代の弘化年間(1844~1848)の江戸城をモデルにデータ化し、ハイビジョンサイズで再現したもの。電子セットとしての汎用性などを考え、この時代にはなかった天守閣がオマケとして付いている。展示会会場では、あらかじめ1本の映像作品としてまとめたデモを公開。掘重門からはじまる江戸城の内部を一通り、大画面で楽しむことができる。

“電子セット「幻の江戸城」”。江戸城を復元するにあたり、監修は、NHK大河ドラマの時代考証を担当する昭和女子大学の平井聖(きよし)教授が担当した “電子セット「幻の江戸城」”。江戸城を復元するにあたり、監修は、NHK大河ドラマの時代考証を担当する昭和女子大学の平井聖(きよし)教授が担当した



このソフトは、映画・TV番組に合わせた電子セットとして販売することを第1の目標としているため、建物自体のモデリング、レンダリングに力点が置かれている。作業過程の中でも、レンダリングは大きな山場で、スタッフは「ワークステーションにメモリーをはちきれんばかりに積んで山のように並べても、亀の歩みのレンダリング」というコメントを寄せている。

おなじみの松の廊下。浅野内匠頭の吉良上野介に対する刃傷事件(1701年)があったところ。金箔でかかれた雲海の中に、松や鳥、水面といったモチーフが浮かんでいる
おなじみの松の廊下。浅野内匠頭の吉良上野介に対する刃傷事件(1701年)があったところ。金箔でかかれた雲海の中に、松や鳥、水面といったモチーフが浮かんでいる



このソフトの制作スタッフは、現在放映されているNHK大河ドラマ『元禄繚乱』で使用されているCGの江戸城を作ったメンバーと同じ。'98年に本プロジェクトがスタートし、制作期間が大河ドラマ版よりも長いため、よりスケールアップしている。年末のNHKの大河ドラマ『元禄繚乱』の特別番組で、こちらのソフトの江戸城が早速使われる予定なので、興味のある方は見比べてほしい。

DNPとPHPも松の廊下を再現

展示会会場で、もう1つ松の廊下の再現を行なったソフトを紹介するブースがある。こちらは、先日ASCII24でも紹介した(株)PHP研究所と(株)大日本印刷(DNP)による映像ソフト『狩野派400年の歴史』。これは、高精細の静止画像やVR(バーチャルリアリティー)技術を使い、狩野派の作品約150点を紹介するもの。

歴史的建造物を3次元CGで再現するコーナーの中で、江戸城松の廊下など既に焼失したものも含め、5つの建造物を3DCGで再現している。


『狩野派400年の歴史』の松の廊下。ソフト全体の監修は、狩野派の研究を専門としている大阪大学名誉教授の武田恒夫氏が担当し、建築物に関する監修は神奈川大学教授の西和夫氏が担当した

松の廊下が2つ?

ここで、2つの松の廊下の襖絵部分を比べてみると、金箔の部分、松や鳥、水面といったモチーフの部分ともに、色味がかなり異なっていることに気付く。

NHK版の松の廊下は、完成後30~50年後の姿を想定したもの。東京国立博物館に現存する下絵をもとに、岩絵の具を使い日本画の専門家が襖絵部分を描画した。その絵を拡大してコンピューターに取り込み、CGソフトを使って、金地の部分をマスク処理。そして、金泥/金箔/砂子といった質感にあわせたテクスチャーを張りつけたというもの。

対してPHP・DNP版は、焼失した松の廊下の襖絵について、“現存していたらこのようなものでは”という姿を想定して再現したもの。現存する下絵を元に再現するというところまでは同じ。しかし、こちらは実寸の襖そのものを復元するように狩野派専門の絵師に作業を依頼。金地の部分についても実際の金箔を用い、襖を完成させた後、写真で撮影してデータ化し使用している。ちなみにこの襖の制作費は数百万で、PHP本社に大切に保管されているという。

なぜ、このように再現手法が分かれたかというと、NHK版は江戸城の電子セットとしてデータの汎用性に、PHP・DNP版は狩野派の作品のデータを残すことに主眼を置いているためだ。例えばNHK版の場合、電子セットとしてデータを使った場合、金箔部分にシェーダーやライトなど特殊効果を加え、表現を調節できるという利点があるという。

会場では、こうした歴史的資料に限らず、阪神・淡路大震災の映像、人体の内部、狂言師の野村万歳氏の演技、映画美術監督のスケッチによる戦後の日本といった多種多様のテーマで作られた作品が展示されている。今後、東京会場を皮切りに、続いて広島市の県立広島産業会館で12月14日~15日、そのほか京都市、福岡市、那覇市、仙台市、釧路市など、全国9ヵ所で年末年始を中心に開催される予定。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン