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ビジネスカフェがセミナーを開催、米国のベンチャーおよびベンチャーキャピタルの現状を報告

1999年12月08日 00時00分更新

文● 若菜麻里

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米国カリフォルニアを拠点に日本のスタートアップベンチャーの支援活動をしているビジネスカフェは11月30日、起業家やその関係者向けに東京都内でセミナーを開催した。

講師は、米国・シリコンバレーを拠点に経営コンサルタントとして活躍するエマ・クロックフォード(Emma Crockford)氏と、日本興業銀行プロジェクトファイナンス部部長の秋山隆英氏。また、セミナーに先立ちビジネスカフェのディレクターを務める平川克美氏がビジネスカフェの近況を説明した。

ビジネスカフェは、スタートアップベンチャーを支援するNPO(非営利団体)スマートバレー・ジャパンが'99年1月に米国カリフォルニアに現地法人を設立した組織だ。米国進出を目指す日本企業を支援する。具体的には、現地情報の提供や、シリコンバレーでデスクや電話、会議室などを利用できる仮オフィスを提供している。

他人に育ててもらうようなアントレプレナーであってはいけない

平川氏は、「'99年6月に本格的な活動を開始してから、137団体および700~800人の個人がビジネスカフェを訪問した」と説明、同団体の活動が注目されていることを紹介した。また「来年からは、フェーズ2としてさらにビジネスカフェの活動を拡大したい」と今後の抱負を語った。

「来年のビジネスカフェはもっとダイナミックな活動を展開する」
「来年のビジネスカフェはもっとダイナミックな活動を展開する」



「サンノゼからサンフランシスコにいたるシリコンバレー地区の登場人物は、比較的年齢の若いアントレプレナー(起業家)と、ベンチャーキャピタリスト、また経営者にアドバイスするインキュベーター(コンサルタント含む)がいる。しかし、起業家というのは、会社経営について自分なりの面白さを知っていて、事業収益を得れば、その収益を次の新規事業に充てるという、いわば自分自身がインキュベーターだ。アントレプレナーというのは、既存のものに属したくない人であるはずで、第三者のインキュベーターに育てられるようではいけない。そういう意味では、インキュベーター的活動をするビジネスカフェには矛盾がある。しかし別の角度から見れば、われわれ自身もアントレプレナーだ」と語った。

シリコンバレーではスタートアップベンチャーを投資対象としてマネーゲーム化

エマ・クロックフォード氏は、“シリコンバレーバブルの現状”と題して講演を行なった。

クロックフォード氏は、日米での投資銀行業務を経て、米国大使館で商務官として勤務したのち、現在は国際的な戦略にのっとた経営コンサルタントとして活動している。また、ビジネスカフェのパートナーでもある。

「スタンフォード大学を中心としてシリコンバレーは、世界中から優秀な人材が集まっており、ベンチャーキャピタリストに大きく注目されている」
「スタンフォード大学を中心としてシリコンバレーは、世界中から優秀な人材が集まっており、ベンチャーキャピタリストに大きく注目されている」



クロックフォード氏によると、シリコンバレーは今、投資市場がマネーゲームと化し、バブル状態にあるという。

「シリコンバレースタイルのベンチャーに対する投資の仕方は、収益を見ながら、タイミングを見計らって程良い頃合いに売り飛ばすというやり方だ。どこに投資したら短期でキャピタルゲインを生むかという観点で投資する一種のマネーゲームになっている」

「歴史的には、マイクロソフトは14年かけて上場、アップルにしてもガレージからはじまり地道に実績を重ねて上場している。以前なら、IPO(株式公開)するために、起業人はクリスマスも正月もなくよく働いて、やっと上場にこぎつけた。それが今では、会社設立後、あっという間に赤字上場、ストックオプションが現金になりすました感覚で他企業買収などに使われている。ストックオプションで一獲千金を狙う若い人であふれ、“お金が労働の対価”という観念が薄れてきている」

「もちろん、バブルな企業や人ばかりでなく、昔ながら地道に経営をしている中小企業もいっぱいある。友人の1人で、Linuxの創設者のリーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏は、いろいろなベンチャーキャピタルからの申し出を断って、今はソフトウェアのエンジニアとして働いている。現在29歳で2歳と4歳の子供がいるが、奥さんが生活のために働く必要がなく、子育てができるお金があれば、十分だという考えを持っている。彼の考え方は、金、金の現在のバブルに見られない、すばらしいものがある」

「日本では、'95年頃のインターネットのブームから、シリコンバレーが非常に注目されるようになった。そして、シリコンバレーのベンチャーに倣って、社内ベンチャーというのがまずできたが、社内とベンチャーという言葉はもともと相反するものだ。また、現地の社内ベンチャーは親会社の支援がないと、とたんにダメになる危険性がある。起業家育成という言葉があるが、起業家とは育成される者たちでないはず。ベンチャーキャピタリストは、ベンチャーが“ひよこ”の段階で、早期にその将来性を見極める目が必要だが、日本人にはそうした目利きがなかなかできない」

「今後日本がするべきことは、シリコンバレーのベンチャーの仕組みを学ぶのではなく、メンタリティーを学ぶべきだ。米国のベンチャービジネスは、実績にもとずいてリターンを出す。日本の起業風土は、実績よりもファミリーメンバーだから、お金を払うといった感覚だ」

「日本では、中小企業を活性化させるという政策が出ているようだが、ホンダやソニーも、以前はベンチャーだったわけで、いいビジネスモデルがある。起業家は、必ずしもシリコンバレーの真似をする必要はなく、日本とシリコンバレーそれぞれの良い点を併せて頑張ってもらいたい」と話し、今後の日本に期待するとして、講演を締めくくった。

日本で優良なベンチャーが育つにはまだ時間がかかる

秋山氏は、米国のベンチャーキャピタルの状況を具体的な数値をもとに報告した。秋山氏自身、'99年夏まで日本興行銀行のサンフランシスコ支店長として、ハイテク企業との取引やベンチャーへの投資といった営業活動を行なってきた。

「アメリカでは'97年に66万5000社のベンチャーが出現して、そのうち2691社がベンチャーキャピタルから出資を受けた」
「アメリカでは'97年に66万5000社のベンチャーが出現して、そのうち2691社がベンチャーキャピタルから出資を受けた」



「シリコンバレーの歴史は、'38年の米ヒューレット・パッカードの設立から始まる。ヒューレット・パッカードやサン・マイクロシステムズ、シスコシステムズ、オラクル、デル・コンピュータなどの企業は、みんな過去にベンチャーキャピタリストから資金を受けて成長してきた。その意味でベンチャーキャピタルの役割は大きい」

「アメリカでは'98年には、約3600社のベンチャーに総額160億ドル投資された。また今年の上半期だけで、2700社に120億ドル以上の投資と、たいへんな勢いで企業数も金額も増えている。投資額の地域別の割合を見ると、シリコンバレーに全体の約25パーセントの資金が集中している。次にマサチューセッツに10パーセント強、あとはテキサスやニューヨークなどだ。シリコンバレーがベンチャーのメッカであることが分かる。業種別では、インフォメーションテクノロジーが7割。あと2割が小売業関連。残りの1割がバイオテクノロジーや医療関係だ」

「ベンチャーキャピタルはリスク軽減のために分散投資を図っている。米国には600ほどのベンチャーキャピタルファンドが存在する。'90年代前半から優良なファンドは年率30~40パーセント、中には100パーセントを有に超えるリターンをあげているところもある。そうした状況をみて、新しいファンドが次々に設定され、バブル気味になっている感じがする」

「日本もスタートアップベンチャーへの投資資金は潜在的にたくさんある。しかし、スタートアップベンチャーを見極める目利きのできるベンチャーキャピタリストは少ないのではないか。優良なベンチャーを育てていくためには、制度を整えることも必要だが、個人個人の考え方やメンタリティーを変え、さらに教育も変えていく必要がある。結局は“人”というところに行き着くからだ。最近は起業家マインドのある若者が出てきているが、本当に変っていくためには、場合によっては20年、30年と時間が掛かるかもしれない」と、教育制度や教育内容の改革の必要性を訴えた。

セミナーの最後に、ビジネスカフェのチェアマンを務める伊東正明氏が挨拶をした。

「シリコンバレーで成功した人たちは、金儲けよりも、コミュニティーに貢献することに対して信念を持っている
「シリコンバレーで成功した人たちは、金儲けよりも、コミュニティーに貢献することに対して信念を持っている



「シリコンバレーで、みんなが頑張っているのは、“コンフィデンス”(確信、信念)があるから。ベンチャーは夢の実現に力を傾けるものだ。ビジネスカフェは、日本のベンチャー育成によくあるような口うるさいお袋でなく、厳しい父親的なインキュベーターとして、ベンチャーを支援していきたい」と、来場者にメッセージを投げた。

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