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【'99インターネットと教育フォーラムVol.2】生徒の発達に応じた情報教育のあり方を考える~教育実践の現場から

1999年11月30日 00時00分更新

文● 服部貴美子 

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本レポートでは、11月28日に開催された'99インターネットと教育フォーラムの目玉ともいえる、実践報告に焦点を絞ってお伝えする。

使わせる情報教育から考えさせる情報教育へ

まず、小学校、盲聾養護学校の部を代表して、3つの学校の事例が紹介された。

コーディネーターは、滋賀県大津市立瀬田小学校の石原一彦氏コーディネーターは、滋賀県大津市立瀬田小学校の石原一彦氏



埼玉県朝霞市立朝霞第六小学校では、校内LANのみで使用可能な“インターネットの入り口”というホームページを作成し、htmlやリンクの概念を理解させている。このページには、わざと“落とし穴”を設定してある。緊急ニュースを発端とするパニックやチェーンメールについて、掲示板への個人情報開示の影響、アンケートによる個人情報の流出、18歳未満禁止サイトへの対応などを実践的に学ばせるもの。

担当の宝迫芳人氏によると「半数近くの生徒がアンケートを送ってしまい、注意喚起の文章を読まぬまま、意味も分からずファイルをダウンロードする生徒が65パーセントもいた」という。また、そういった生徒たちの反応は、日ごろの授業への集中ぶりや、基本的な学習態度が身についているか否かと、同じような傾向が見られたそうだ。

一方、広島県熊野町立熊野第四小学校の榎崎安江氏は、特にメールエチケットに力を入れて指導している。「電話番号などは、簡単に記載しないこと、無駄な画像を送信しないこと、知らない人からのメールを簡単に開けないことなど、自身の体験談を交えながら話す」ほか、テキストにイラストを挿入して飽きさせないようにするなど、低年齢層ならではの工夫も必要のようだ。

また、養護学校の生徒たちのようにハンディキャップのある子供たちにとっては、パソコンの利用は将来の就職や社会参加に関わる、重要な要素になると考えられる。

沖縄県立森川養護学校の幸地英之氏は「インターネットがあれば、地理的なハンデも身体のハンデも克服できる」と力強く語った。パソコンを固定したり、ポイントパッドや文字電話などの補助器具を使うなど、障害に合わせた環境整備が必要だ。さらに、「メールに障害者であると書いたとたんに、返事がこなくなって、悲しい思いをした生徒がいた」という事例もあり、遺伝性のある障害を持つ生徒についてのプライバシー保護など、デリケートな問題も多い。

コーディネーターの滋賀県大津市立瀬田小学校の石原一彦氏は「学校のネットワーク接続を前に、まず倫理的な判断力や、科学的な思考力をつけさせ、“How to use”ではなく“How to think”を学べる情報教育にしていくことが課題であろう」と締めくくった。

“総合的な学習の時間”における郷土教育と情報モラル

昼休みの後、中学校の実践報告が行なわれた。コーディネーターは、三重県松阪市立中部中学校の長谷川元洋氏。

山形県小国町立白沼中学校では、'95年から実施している“職場体験学習”に、インターネットを取り入れている。まず、先輩が作成した職場体験学習の記録(校内ウェブ)を閲覧して、準備計画をたて、事業所に交渉、依頼をして取材を行なう。その成果を記録として校内ウェブに掲載する際に、著作権について考察させようという試みである。

担当の今琢生氏は「生徒に身近な問題――たとえば、カラオケやCD、キャラクターに関する著作権については印象が強いようだが、普段使う機会の少ない、コンピューターソフトやホームページに記載する際の配慮などについては、関心が低かった」と報告。「自分たちが集めた情報を大切にしたいという気持ちが、モラルの基本になるのでは?」と述べた。

コーディネーターの長谷川氏(左)と、白沼中学校の今氏
コーディネーターの長谷川氏(左)と、白沼中学校の今氏



続く、鹿児島県東町立鷹巣中学校では、“生徒情報倫理委員会”という会合を開くことで、生徒自身が自らのホームページを検閲している。

「生徒会活動の一貫として、情報活用委員会や、総合学習委員会などを設けることで、約80パーセントの生徒が日常生活の中で著作権などの情報モラルを意識するようになった」と、担当の辻慎一郎氏は胸を張る。

また、鹿児島県上屋久島町立宮浦中学校(永留貢氏担当)では、屋久島地区の4校によるテレビ会議を中心とした“環境文化村”構想――“屋久島プロジェクト”を実践研究中だ。インターネットと地域ネットを組み合わせることで島内の学校とのコミュニケーションが図かれるだけでなく、島外との交流を通じて郷土愛を再発見するなど、さまざまな効果を生み出している。

生徒の“自律”を育むと同時に、責任を認識させる

高校生になると、かなり事情が違ってくる。三重県立菰野高等学校の浦田治氏は、同校の生徒を対象に行なったアンケート結果を発表した。

それによると、携帯電話もしくはPHSを保有している生徒が7割を超えており、うち9割がメール機能を使用していた。このように、高校生たちは、教師をしのぐほど情報ツールに触れる機会を得ており、「高校生が関与したネット犯罪が増えてきた。プライバシー保護など、自分を守ることには敏感になっているが、加害者側に立ってしまうリスクも考えなければ……。ネットを知ったがために逮捕となっては、何のための情報教育なのか、分なくなってしまう」(浦田氏)。

北海道旭川凌雲高等学校の奥村稔氏は、「インターネットの教育利用は、実証実験の段階から実用実践の段階へと移りつつある」と述べ、知識の習得のみならず、自ら学ぶ生涯に渡って学習を続けることが大切だと強調した。

同校が取り組む“地域分散広域統合型自律学習”とは、高校生が自らの学びたいという意欲からインターネット上に集い合い、学校の枠にとらわれず、設定したテーマについて話し合える環境を、メーリングリストやビデオ会議といったテクノロジーを使って、生徒たち自身で作っていくもの。

実際には、学校行事でコンピューターが使えない時期があったり、大学受験を控えた生徒には時間的な余裕が作りにくいといった事情があって、学校間でのスケジュール調整が難しく、協調作業は思いのほか難航したようだ。

「プロセスを報告し合い情報を共有すること、実践成果の蓄積、世代交代による継承という当プロジェクトの流れの中で、卒業生も地域の人間として関わりを続けていくような構造が必要である」と語った。

義務教育を終えて、自分の自由な考えで行動できる年齢にも達している高校生たちには、情報教育に関して自律的に取り組ませ、情報利用者としての自己責任についても意識させる指導がポイントとなってくるのだろう。

高等学校の部のコーディネーターは、千葉県東金女子高等学校の高橋邦夫氏高等学校の部のコーディネーターは、千葉県東金女子高等学校の高橋邦夫氏

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