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【NTTオープン・ラボ、第1期活動の最終報告会 Vol.3】新しい情報流通のありかたを考える――デジタル革命で果たすNPOの役割

1999年11月25日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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19日、東京・武蔵市のNTT武蔵野研究開発センターにおいて、“情報の流通と共有を促進する社会システム”と題した、NTTオープン・ラボ“第一期活動”の最終報告会があった。このシンポジウムは第1期活動の成果を報告したものである。本稿では、第1セッション3番目に登場した須藤修氏(東京大学社会情報研究所教授)らの発表をレポートする。

公的なセクターと民間セクターの中間で機能するNPO

須藤氏らの経済取引探求グループの主な目的は、インターネットの爆発的な普及によって形成されたネットワーク社会が、従来の経済システムにどのような影響を与え、社会を変化させるのかを分析することである。そして、パラダイムシフトによって変わる新経済システムのビジョンを明確にすることである。

前セッションのマルチメディアアーカイブ探求グループでは、桂英史氏らを中心として、“新しい情報流通のありかた”を考えた。新しい情報の入れ物として“MAO2000(Multimedia Archive Outlook2000)”という実験プロジェクトの報告もあった。情報流通のありかたを考察していくと、新しい社会経済システムの必要性に突き当たる。

まず、須藤氏は経済取引探求グループの活動について報告した。

「我々は、電子マネーや制度間競争における経済学、工学、法学、心理学などを中心に、デジタル経済を支える技術や制度について検討してきた。その結果として、ネットワークを基盤にした社会では、非営利組織であるNPO(NonProfitOrganization)が重要な担い手となっていくという結論に達した」と述べた。

NPOが果たす3つの機能

NPOは、従来の公的なセクター(Public Sector)と民間セクター(Private Sector)の中間にあるグレーゾーンに位置する。すなわち両方のセクターの要素を併せ持つセクターと言える。

須藤氏は、NPOが果たす機能には大別して3つあるという。1つ目は営利活動に近い領域。2つ目は公共的な活動に近い領域。3つ目は個人・文化的な活動に近い領域である。

1つ目の営利活動においては、ネットワークのノードとして働き、さまざまな利害を調整するコーディネーターとして機能する。その例として、ビジネスモデルを刷新したシリコンバレー・モデルの成功を挙げた。また2番目の公共的な活動としては、さまざまな活動を評価し、格付けを行なうTTP(Trusted Third Party)として“信頼できる第三者機関”になりうる、とした。米国ではBBB、北欧ではオンブズマンというように、市民参加による中立的な機関として活動し、市場の信頼性に貢献している。須藤氏は、これが国家の枠組みを超えたグロバールな公共圏を形成させる可能性があると期待を寄せている。3つ目はreputation創造型のNPOである。この例としては、グリーンピースなどのNPO活動や、Linuxなどのオープンソース型のモデルなどがある。

「このようなNPOの活動領域を拡大しながら雇用を創出するためには、従来と異なる新しい社会制度をデザインする必要がある」と述べたところで、京都大学経済学部助教授の出口弘氏に発表をバトンタッチした。

最大収益を目指す従来型の評価軸ではないメカニズム

出口氏は、具体的な制度デザインに関する話題を中心に話を進めた。

「従来の市場原理では、企業組織は収益の最大化を目標として活動してきた。しかし、そのような評価軸では収まりきらない非市場的な組織活動は、国家や政府が社会的に評価を下し、補助支援をする役割を果たしてきた」と述べた。

NPOやNGOは、従来の評価軸では正しく評価されない。出口氏は、情報ネットワーク社会においては、政府や国家による評価ではなく、より広範な社会評価を形成でき、その評価に基づいた支援をする制度やメカニズムの必要性を説いた。

ネットワーク上のオープンソース活動として、BSDやLinuxなどの高い評価を得た技術やプロジェクトに対して、人々はコミュニティーを形成し協力する。複数の評価軸が競い合いながら共進化していくことが、ネットワークでは“評価を保証するもの”となる。“ネットワーク評価を競い合うゲーム”に参加することで、従来の資本主義を越える新たな電子的公共圏が出現すると予測した。

電子クーポンは未来を変えるか?!

ここで出口氏は、収益最大化を目指す従来型の評価ではなく、ネットワーク上で信用評価を供与できるシステムの新しい考え方として、ユニークな“電子クーポン”の可能性を示唆した。ある意味では、従来の株式や債権も、企業発行貨幣としては機能しているが、これらは収益の最大化が評価軸になっている。電子クーポンでは、より広範な付加価値を評価できるように、組織が提供するサービスや財(担保として発行される)と交換でき、それらが交互に交換されるというものである。

たとえば、“国境なき医師団クーポン”や、“NASA木星に着陸船を飛ばそうクーポン”、“環境保護活動クーポン”などの多様な価値を含んだクーポンを想定し、ネットワーク評価を資源の配分に結びつけようと考えている。

出口氏は、このような組織発行貨幣が出現するまでの将来的なシナリオを描いた。まず、地域通貨や、組織が発行するクーポンの電子化が行なわれ、複数のシステムが混在するようになる。次に相互交換や共通化されたサービスが出現するようになり、電子クーポンのビジネスモデルが模索される。やがてクーポンのオープンループ化が進む。さらに電子クーポンの発行メカニズムが、より巨大なシステムに成長し、国家発行通貨よりも安定したシステムを形成していく……といったものだ。

かつての共産主義や社会主義は、資本主義と対峙する形で生まれてきたが、その基盤の脆弱さゆえに瓦解した。出口氏のシナリオどおりに社会が進むかどうかは分からない。しかし、瞬時に国境を越え、あらゆる価値観を変えてしまうネットワーク社会が、成熟した資本主義社会の中から出現したことは、これからの新しい経済システムを占う意味においても大変興味深く感じられた。

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