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“情報の流通と共有を促進する社会システム”デジタルが変える情報の価値と価格――NTTオープン・ラボ、第1期活動の最終報告会より

1999年11月22日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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19日、東京・武蔵市のNTT武蔵野研究開発センターにおいて、“情報の流通と共有を促進する社会システム”と題した、NTTオープン・ラボ“第1期活動”(以下、第1期)の最終報告会があった。

NTTは、新しい情報通信の概念を創出し、技術開発に反映させていくために、'97年1月に“NTTオープン・ラボ”を発足した。現在、マルチメディアと社会の関係、コンテンツの蓄積と利用、サイバー経済のルール、初等・中等・高等教育などの探求グループが活動をしている。このシンポジウムは、3年間にわたる第1期活動の成果を報告したものである。本稿では、第1セッション“デジタル社会における情報の価値と流通”という観点から、“メディアの受容と変容探求グループ”代表、リサーチプロフェッサーの黒崎政男氏(東京女子大教授)からの発表をレポートする。

探求の成果を取り上げて発表するリサーチプロフェッサーの黒崎氏探求の成果を取り上げて発表するリサーチプロフェッサーの黒崎氏



黒崎氏は、前期の研究において、“技術と社会”、“空間の再配置”をテーマに据え、現在進行しているデジタル情報革命と人間存在の関わりを、コンピューターサイエンス、デザイン、科学史、社会学、精神医学、哲学などの分野から解き明かそうと試みた。この成果は先頃、『情報の空間学』(NTT出版)という形でまとめられた。後期は“情報の価値と価格”に的を絞り、各界の識者を招いて活発な議論が交わされた。

『情報の空間学』(NTT出版)『情報の空間学』(NTT出版)



貨幣のレーゾンデートル

後半の探求では、2つの視点から探求を試みている。1つはテクニカル論。混乱している現状をどう調停し解決していくか。そして、2つ目は原理論。そもそも著作権とは何なのか。オリジナリティーとは何なのかという問題である。これについて黒崎氏は、後半の探求で議論した3者の内容を例に挙げて説明した。

情報の価値を考える前に、なぜ貨幣が貨幣たるのか? を考える必要があるという。貨幣は、金兌換性の時代は金に交換できるという権威が認定されていたために価値があった。しかし、それはバーチャルなものであって、他者が価値があるものと思うから存在理由がある。他者の無限の欲望の連鎖が金を金たらしめているとした。

岩井克人氏との議論において、「情報がモノという入れ物から開放されてしまったときに、貨幣経済の持っている根本的な不安定性が露呈してしまう。電子マネーの問題では、セキュリティーや技術中心に語られているが、その背後には同じような根本的問題をはらんでいる」と、電子マネーが貨幣経済の根幹を揺るがす問題について示唆した。

電脳社会において消失していく従来型経済システム

それではデジタル化によって“仮想空間におけるビジネス”はどのように変化するのだろうか? 情報の価値は、時間のタイムラグがそれを支えてきた。インターネットによって情報がリアルタイムに伝えられるようになり、ブームのスパンがどんどん短くなってきている。もはや今はブームが成立しない状況になっている。

デザイナーの戸田ツトム氏との議論では、「デジタルは相対的な複製ではなく、絶対的な複製である。それは環境の標準化と互換性を前提にしている。経済行為は標準化と異化のあいだで成立するものであり、異質性が消失したことによって、現代の電脳社会においては経済も消失していく」という問題を提起した。

テッド・ネルソン氏が提唱する“トランスクォーテーション”

デジタル社会においては、著作権そのものが変容していく。この問題に対し、テッド・ネルソン氏との対話を例に挙げた。テッド・ネルソン氏は、かつてハイパーテキストを提唱した人物として有名であるが、著作権問題では“トランスクォーテーション”という考えを提唱している。オリジナルとコピー、元著者と引用者との峻別を前提に、どんなものでも自由に引用できるかわりに、原文提供者は使用者に対してトランスクォートを許可するというもの。支払いシステムについては、現在新案特許出願中とのことだ。

しかし、元著者が明確な場合はそれでも問題はないが、グリム童話などの民衆から生まれてきた著作物などに対しては、そもそも元著者も分からないし、引用者と言えるのかどうかも分からない。著者やオリジナルを確定することは、そもそも不可能なのではないか? という問題に突き当たったという。

これ以外にも、著作権の発生について(福井憲彦氏)、映像権やイメージ権の問題(港千尋氏)、オリジナルとコピーの問題(森村泰昌氏)、“紙本位制から情報本位制”への移行による問題(津野海太郎氏)、課金システムの解決(森亨一氏、岩村充氏)など、多彩な顔ぶれを招き、活発な討論が行なわれたことを報告した。

最後に、黒崎氏はマーク・ポスター氏の『情報様式論』の引用し、「これまでの情報の対価は、情報そのものの内容について支払われるのではなく、それらに入るパッケージの値段であった。もし、情報が入れ物から分離されてしまったら、その値段はどうなってしまうのか。コピーライトのあり方はどうなるのか。これらの問題を解決するには、すべての情報を交換価値に変えていく方向で進みながら“情報の有り難み”を創出していくか、あるいは従来の経済原則が通用しなくなることを前提とした新しい社会経済システムを作って行く必要がある」と締めくくり、発表を終えた。

会場となったNTT武蔵野研究所開発センター本館。NTTオープン・ラボの研究成果も展示されている
会場となったNTT武蔵野研究所開発センター本館。NTTオープン・ラボの研究成果も展示されている

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