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【COMDEX/Fall'99 レポート 番外編】オープンソース『Linux』は本当にオープンか。注目が高まる一方で、心配事も

1999年11月17日 00時00分更新

文● テラメディア 宍戸周夫

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情報処理学会誌の編集に携わっていることでも知られるテラメディアの宍戸周夫氏に、“Linux Business EXPO”について寄稿してもらった。今年は“COMDEX/Fall‘99”に併設、すなわち、理論上、同格という扱いになっている(以下、敬称略。用字用語では、宍戸氏の流儀を一部残した)。

LinuxはWindowsの地位を脅かす存在として認知されたのか

COMDEXでLinuxが正式に認知されたのは、昨年の'98年。Sands Convention Centerの一角に“Linux Pavilion”というスペースが開設され、小さなブースが並んだ。しかし、今年はLinux生みの親であるライナス・トーバルスがキーノートスピーカーの一角に名を連ね、Linuxブースもメーン会場であるLasVegas Convention Center(LVCC)内へと昇格。その展示会“Linux Business EXPO”も、本体の“COMDEX/Fall‘99”に併設という扱いになっている。世界最大のコンピュータショーと呼ばれるCOMDEXで、Linuxは世界の標準OS、Windowsの地位を名実ともに脅かす存在として本当に認知されたのか。

“Linux Business EXPO”の入り口。今年は“COMDEX/Fall‘99”に併設、すなわち、理論上、同格
“Linux Business EXPO”の入り口。今年は“COMDEX/Fall‘99”に併設、すなわち、理論上、同格



マイクロソフトに戦いを挑むLinux

昨年のLinux Pavilionと異なり、今年まず目に付くのは、Linux Business EXPO内で各ブースが大きくなっているということだ。Red Hat、VA Linux、Caldera、そしてかつてWordPerfectを買収して一躍有名になったカナダ最大のソフトハウス、Corelなどの大きなブースがEXPO会場内に並ぶ。明らかに、Linuxを巡って大手資本が参入してきていることを表している。

“Linux Business EXPO”の会場。Red Hatのロゴが目立つ
“Linux Business EXPO”の会場。Red Hatのロゴが目立つ



キーノートでも、Linux専門のLinux Business EXPO Keynotesが別個に行なわれ、15日の初日にはRed Hatのロバート・ヤング、2日目にはCorelのマイケル・コープランド、そして3日目にはCalderaのラムソン・ラブ各CEOというLinux推進派が名を連ねている。もちろん、御大ともいうべきライナス・トーバルスは“COMDEX/Fall '99”自体の初日夜のキーノートを努めている。Linuxの隆盛は疑いようがない。

COMDEXでは、「最近、マイクロソフトのプライベートショーと化して来ている」という指摘が、さまざまな形でなされてきた。かつては何年に1度しか登場の機会のなかったビル・ゲイツが毎年キーノートを行なうようになり、メーン会場であるLVCC NorthHallの正面入り口はマイクロソフトが大きなスペースを占めるのが最近の傾向だった。こうしたマイクロソフトに対する破格の扱いに嫌気がさし、IBM、コンパック、富士通、アップルといった大手はCOMDEXに自社ブースを積極的に出展することを取りやめてしまった。このマイクロソフト一人勝ちのCOMDEXに、Linuxが正面から戦いを挑み始めたというのが今年のCOMDEXの最大の特徴といえる。

ビジネスに興味がある人たちのLinux

しかし、Linuxへの注目が高まるにつれ、心配事も出てきている。Linux BusinessEXPO会場は明らかに開発者、技術者という雰囲気の人であふれ、まだまだ一部マニアのOSという感を抱かせてしまうというのが第1点。EXPO会場に入るのにも個別の登録が必要で、COMDEX恒例のネームバッチにLinuxのマスコット、ペンギンのシールを貼らなければならない。マイクロソフト・ブースのNorth Hallの一角とは異なり、展示の方法にもどうしてもLinuxマナーがあるのだ。オープンソースという本来の姿とは違う、という感を抱かせてしまう。

VA LiNUX Systemsのブース
VA LiNUX Systemsのブース



Linux陣営の中でも勢力争いが始まっている。Red Hatは15日に、LinuxツールベンダーであるCygnus Solutionsを買収したばかり。ロバート・ヤングはキーノートの中で「合併はコンピューター関連のエンド・ツー・エンドのソリューションを統合することにある」と述べたが、明らかにLinux陣営の中で優位に立つ政策だ。ほかにも、近々、エンタープライズ分野におけるLinuxの移植で、大手コンピューターベンダーの資本参加も予定されている。Red HatとTrubo Linuxの機能の乖離(かいり)も気になるところ。

Red Hatのブース。この展示会開幕時を狙ったのか、15日に、LinuxツールベンダーであるCygnus Solutionsを買収したばかり
Red Hatのブース。この展示会開幕時を狙ったのか、15日に、LinuxツールベンダーであるCygnus Solutionsを買収したばかり



CorelのLinux分野への本格参入も、これからのLinuxに影響を与えそうだ。同社会長のコープランドは、カナダでは“アナザー・ビリオネアー”と呼ばれ、ビル・ゲイツと並び称される人物。ライナス・トーバルスが「ビジネスには興味がない」としてソースコードを公開したLinuxに、明らかにビジネスに興味のある人たちが群がり始めている。

“Enterprise Linux Solutions”を前面に押し出しているVA LiNUX Systems。Linuxをハードと一体にして売るのが得意。エンドユーザーが、ネットワークの中からソフトを集めてきて自分で組み上げる、といった使い方だけではなくなっているのだ
“Enterprise Linux Solutions”を前面に押し出しているVA LiNUX Systems。Linuxをハードと一体にして売るのが得意。エンドユーザーが、ネットワークの中からソフトを集めてきて自分で組み上げる、といった使い方だけではなくなっているのだ



当地で15日に行われたライナス・トーバルスのキーノートで、彼は「3年前には一生懸命オープンソースの利点を説明したが、あまり理解されなかった。しかし今は、オープンソースといえば、誰でもその利点を理解している」と語った。筆者も3年ほど前、まだ無名のライナス・トーバルスに日本でインタビューし、「なぜ、LinuxはフリーOSにしたのか」というような質問を投げ掛けた記憶がある。まだオープンソースという用語は一般的ではなかった。

今年のLinux関連展示は、メーン会場であるLasVegas Convention Center内へと昇格
今年のLinux関連展示は、メーン会場であるLasVegas Convention Center内へと昇格



その世界が3年で様変わりした。しかし、同様に3年後は分からないというのが今回のCOMDEXでの正直な印象である。

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