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【MediaTech1999 レポート】「2000年以降のデジタル千年は、“映像”と“バーチャル”で進む」--基調講演/パネルディスカッション

1999年11月17日 00時00分更新

文● 美縞 ゆみ子

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福岡県北九州市の北九州国際会議場において、最先端メディアに関するイベント“MediaTech1999”が、11月16日と17日の2日間に渡って開催されている。主催は(財)九州ヒューマンメディア創造センター(HMC)。北九州市や福岡県、北九州商工会議所といった自治体/公共団体が共催・後援するという、地域密着型のイベントだ。

今回は、初日に行なわれた基調講演、およびパネルディスカッションの様子をレポートする。

コンピューターとは“友だち”でありたい

 基調講演には、ascii24の連載コラムでもお馴染みの、マサチューセッツ工科大学(MIT)客員教授を務める中村伊知哉氏が登壇した。テーマは“放送と通信の融合が生む新しいメディア”。

講演に入るとすぐ、会場では中村氏が出演するビデオが放映された。CGを盛り込んだ映像と音で訴えてくる画面に、参加者は数分間釘付けとなっていた。

基調講演の講師を務めた中村伊知哉氏。ascii24の連載コラムでも高い支持率を得ている
基調講演の講師を務めた中村伊知哉氏。ascii24の連載コラムでも高い支持率を得ている



ビデオが終わると、中村氏はまず渡米した理由をこう語った。「デジタルの先進国アメリカに、日本の文化や社会の素晴らしいところを紹介し、世界に情報を発信する。つまり輸入よりも輸出をしたいのです」--。

それに続き、コンピューターとの関わりについて、「一緒に笑ったり、泣いたりする“友だち”として対等に付き合いたい。が、今のところは指示を待つ“子ども”であったり、質問に答える“教師”であったりで、未だに自分の思い通りにはならないもの」という認識を披露した。

次に、デジタルの発達による利点は、“便利である”“繋がることで平和になる”“金儲けができる”だと指摘。これらの利点の中にある問題点としては、次の3点を挙げた。
・便利になったが、日本人は進化を意識しすぎて、くつろぐことが減っている。無駄がなくなってきている
・ネットワークで繋がることで生まれる新しい対立がある
・無料のパソコン、OS、ブラウザーがある中、どこで稼ぐか

この中で“金儲け”という課題について、中村氏は2010年のビジネスではコンテンツの比重が上がると予測した。このコンテンツについては、「エンターテイメントや報道番組ではなく、サイバー取引が大きくなると思います。つまり医師への診察料や買い物の支払いをインターネットで行なうようになる、ということです」と言及した。

強いところをさらに伸ばすことが重要

地方が抱える問題に話が移ると、「東京集中というのが一時期問題となっていましたが、これは外から見るとメリットがあると言えます。東京を弱めることは、日本にとって損でしょう」という自説を披露。さらに、「では地方はどうすればいいか? ネットワークは世界のどことでも繋がるという利点を活かして、外国との繋がりを考えていかないとダメでしょう」と、ネットワークの重要性を指摘した。

そして、“日本はどう生きたいのか?”という問題に対しては、「“日本は”を、“北九州は”“自分は”との言葉に置き換えてもよいが、パッションの問題です。日本は弱いところをどう追いつくかには熱心だが、強いところをどう伸ばすかに関心がない」と、日本の特性について言及した。

講演中、演台から離れて熱弁を振るう中村氏
講演中、演台から離れて熱弁を振るう中村氏



その上で映画業界を例に挙げ、「世界で高い評価を受けている日本映画は、日本の土着的な部分に光を当てたものであり、その中に普遍性を持っていると見られている。日本にはハリウッドの表現に対抗するものがあるとも言われています」と、土着性の重要性を指摘した。

また、テレビ放送に関しても言及し、「日本の映像の大半はテレビです。テレビのデジタル化とは、チャンネル数が増え、映像が綺麗になり、そしてパソコンと繋がって新しいサービスが受けられるということ。この3つは同時に進むべきであるのに、日本では最後のサービスの面が遅れがちなのです」と、的確に問題点を挙げてみせた。

これらの点を踏まえて、今後の政策については“通信と放送の融合”がテーマであり、ポイントはデジタルテレビをいかに早く進めるか? に掛かっていると述べた。

これからの1000年は“映像”と“バーチャル”

中村氏の話は文化論にまで及んだ。「サラリーマン企業が増えると、文化を支えられない。元気な若い人たちが頑張らねば」と、現状に甘んじる危険性を指摘。さらに、文化論は1000年(ミレニアム)単位のスケールにまで及び、「アナログ千年は“文字、言語”で発展してきたが、2000年以降のデジタル千年は、“映像”と“バーチャル”で進むでしょう。それが偶然同時に起こっているのです」との現状分析を行なった。

最後に中村氏は、将来の展望について「ネットワーク上の表現は子供が作るもの。子どもにはバーチャル社会で新しいもの作らせ、やりたいことをやらさえる。それをどこまで大人が許せるかが課題です」と、次代を担う子どもたちに期待している姿勢を見せ、「デジタル千年の姿は、子どもには見えているけれど、私にはまだ見えていません」と現在の心情を吐露した。

新たな提言が次々に飛び出したパネルディスカッション

 引き続き、“最新メディアと最新テクノロジーが生むサービス、産業、そして市場”というテーマで、パネルディスカッションが行なわれた。

パネルディスカッションのコーディネーターを務めたのは、メディアデザインプロデューサーで、(有)大原事務所代表の大原伸一氏。パネリストには中村伊知哉氏をはじめ、通産省にて機械情報産業局の新映像産業室長を務める江藤学氏、(株)IT'S社長の久保田達也氏、九州芸術工科大学助教授でHMC評議員の坂井滋和氏が登場した。

パネルディスカッションには多彩な顔ぶれが揃った。会場となった北九州国際会議場は、かなり大きなキャパシティーを持つ会場だ
パネルディスカッションには多彩な顔ぶれが揃った。会場となった北九州国際会議場は、かなり大きなキャパシティーを持つ会場だ



まず、地元福岡在住の坂井氏は、「いろいろなものがスピードを加速し、生産性を追求してお金持ちになるという流れがある。作家として、クオリティーを上げることを目標としているので、自分には漠然とした不安がありますね」との発言があった。

それに続き久保田氏は、「美味いだんご屋がネットショップに開店すると儲かるが、マズいだんご屋は儲からない。アナログでの業界がダメだからインターネットへ走っても、ダメなのだ」と、デジタル分野への安易な進出を批判。それを受け江藤氏は、「久保田氏の指摘通り、間違っている人が多い。またボランティア経済の問題もある。無料なら人が来るが、有料では誰も来ない。産業をどう作っていくかが課題です」と、デジタル分野の問題点を指摘した。

司会の大原氏からは、「米国では新しい経済の後続を作ろうという動きがあります。日本でも民間テレビは無料ですが、広告費として(年間)1人4000円から1万円は負担している計算となります。それが産業として見るにはどうするかが問題です」と、ビジネスモデルに関する問題提起が行なわれた。

その言葉を受けて、久保田氏は「学生に向けて」と断りを入れた上で、自身が作成した米国バイク横断記録のサイトを披露し、「お金目当てに動かないまでも、何か自己表現が出来れば商売になる」と、自説を力強く語った。

中村氏は、「久保田氏のように、インターネットでしか出来ない、繋がることで出来る表現というものがあります。ゲームは表現の爆発期はまだ迎えておらず、これからだと思います。そしてインターネットの爆発は、生まれながらネットワークがあったという世代の人が爆発しなくてはならないでしょう」と、次世代に対する期待を込めた発言を行なった。

本質論に関しては、パネラー全員が同時に頷く場面もしばしば見られた
本質論に関しては、パネラー全員が同時に頷く場面もしばしば見られた



次世代を担う若者については、坂井氏が「これはイケルという若者は確かに出てきています。 学生との話の中で、“情報伝達、つまりメールなどには潤いがない。この部分を何とかしなくては、心優しい人はついてこない。プレゼントを渡すときにリボンや包装紙で包むように、情報を包装しよう”--。つまりインフォメーションラッピングという考えが出てきています」と、実際に学生と触れ合う大学教授ならではの発言を行なった。

これらの意見に対して、大原氏が総括の意味で、「情報の技術は伝え方によって、変わってくるかもしれませんね。今あることからどう乗り越えるか、どう活性化するかはテーマとして大きいのでは?」と、現状の活性化が重要であることを指摘。

さらに、中村氏が前述の久保田氏の言葉を引き合いに出し、「つまり、“美味いだんご屋”が本質なのです。 インターネット企業が儲かっているかと言えば、そうでもない」と、EC(電子商取引)の現状を鋭く分析。そのうえで、「どう売るか? どう見せるか? が、今のウェブサイトだが、次の段階に上がる時がくるのではないかと思います」と、現在のネットショップを例にしてこう語った。

「事前の打ち合わせや時間配分は全くしていませんよ」とにこやかに語ってくれた、コーディネーターの大原氏
「事前の打ち合わせや時間配分は全くしていませんよ」とにこやかに語ってくれた、コーディネーターの大原氏



この後、話題は企業に向けたものに変わり、久保田氏は、「自分の会社のディスクロージャーが出来なくては危険。キャッシュフローに税制が変わる中、投資家を集めるにも、現金で自分の会社の評価を出さねばなりません。これは単純な世界の評価です」と、従来のストック中心からフロー中心の経営が重視されるようになった現状を紹介。この状況に対しては、「人、物、金、情報をどうまわすか。そしてクリエイティブなビジネスを心がける。これだけ頭に入れておけばオーケーです」と、具体的な処方箋を聴衆に対して提示した。

江藤氏からは、「“自分はこうだ”とさらけ出すことで、信頼を勝ち得る時代になったということですね。ウェブサイトで自分はどういうヤツか常に見てもらえるようにしなくては、新しい市場は開けないのです」と、情報公開(ディスクロージャー)の重要性を追認した。

さらに、坂井氏は教育者の立場から、「個人の表現は大学で教えてきましたが、“企業の表現”は経験がありません」と前置きした上で、「個人の価値観は多様化し、経済・金融は価値観の統一化・グローバルスタンダードが図られるという大変な時代になってきましたね」と、デジタル時代を迎えた経済の変化について言及した。

会場に詰め掛けた聴衆には企業人が多かったためか、このディスカッションでは会場全体に緊迫した雰囲気が漂っていた。現実問題に密着したテーマであるだけに、真摯に聞き入る聴衆の姿は印象的であった。

この後、北九州のイメージや北九州が今後歩むべき道についてのアドバイスが各パネラーから語られ、1時間半を越えるディスカッションが終了した。途中で退座する人はほとんどなく、地元人には大きな刺激になったようだ。

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