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【“デジタル・ルネッサンス in けいはんな” vol.1】芸術・科学・技術の新たな交差点を考察する

1999年11月15日 00時00分更新

文● 野々下裕子

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アートとテクノロジーの融合をテーマにした国際会議“デジタル・ルネッサンス in けいはんな”が、10、11日の両日、関西文化学術研究都市(愛称:けいはんな都市)内にある“けいはんなプラザ”を会場にして開催された。

けいはんな都市は、21世紀のパイロットモデル都市を目指して、周囲の自然環境の保全や既成市街地と調和を図りながら建設を進めている。'94年に“まちびらき”が行われ、国際高等研究所、地球環境産業技術研究機構(RITE)といった研究施設をはじめ、大学院大学、美術館など73の文化学術研究施設が立地している。

関西文化学術研究都市内にある会場の“けいはんなプラザ”
関西文化学術研究都市内にある会場の“けいはんなプラザ”



今回のイベントは、(財)関西文化学術研究都市推進機構と(社)関西経済連合会が主催し、同都市内にある、(株)ATR知能映像通信研究所との共催によって実現した。ディレクター役を務めた土佐尚子氏は、このATRの客員研究員として、アートとテクノロジーを融合させた作品の数々を発表している人物である。国内に数ある学術研究都市の中で、唯一文化を名前に冠するけいはんな都市だが、こうしたアートを題材にした本格的な国際イベントは今回がはじめてだという。

人が使うことを前提とした、ヒューマンセンタードデザイン

初日のプログラムは、財団法人関西文化学術研究都市推進機構常務理事の島田重康氏によるあいさつのあと、マサチューセッツ工科大学高等視聴覚研究所(MIT's Center for Advanced Visual Studies=CAVS)のステファン・A・ベントン所長による講演でスタートした。

初日のまずはじめに、(財)関西文化学術研究都市推進機構の島田重康氏より「文化との交流を図る場にしていきたい」とあいさつがあった 初日のまずはじめに、(財)関西文化学術研究都市推進機構の島田重康氏より「文化との交流を図る場にしていきたい」とあいさつがあった



CAVSの5代目所長を務めるステファン・ベントン氏は、CAVSの位置づけとして科学、技術、芸術、製造に加えてデザインといった分野の掛け橋となっていくとしたCAVSの5代目所長を務めるステファン・ベントン氏は、CAVSの位置づけとして科学、技術、芸術、製造に加えてデザインといった分野の掛け橋となっていくとした



最前列に座るパネリストの面々についても、1人ずつ紹介があった
最前列に座るパネリストの面々についても、1人ずつ紹介があった



会場風景イメージ
会場風景イメージ



CAVSはMITの中で、ニコラス・ネグロポンテ氏が所長を務めるメディアラボラと同じ、アーキテクチャー&プランニングというカテゴリーに属するところである。ベントン所長自身もメディアラボ創設者の1人であり、ホログラフィー研究グループリーダーも務めるが、現在はCAVSの5代目所長として、さまざまな活動をしている。

触覚に反応するホログラフィー

研究内容は、レーザーグラフィック、ホログラフィー、キネティックアートなど多岐に渡っているが、最近では、ビジョンアート、データアート、デジタルアートといった新たな分野での研究が進められているそうだ。

中でもユニークなのは、インタラクティブ・ビデオ・ホログラフィーにHAPTIEというセンサリング機能を組み合わせた、触覚に反応するホログラフィー。弱視の人でも見られるというものだ。その他にも、建物の中を事前にバーチャルで体験させるなど、さまざまな応用が研究されている。もちろん、アートの表現としての研究も同時に行なわれている。

ベントン所長は“芸術・科学・技術の新たな交差点の考察”と題された講演の中でCAVSを紹介し、「中でも人と自然との間、人と人との間、自分自身の中という3つの関係において橋を築く役割がある」とした。

そのためにCAVSでは、「科学や芸術分野での専門家達と仕事をする」、「客員研究員とのコラボレーションを行なう」、「科学と技術と芸術を結びつける」という3つのルールを挙げている。そして、“CAVSフェロー”と呼ばれる各分野での専門家達と、積極的なコラボレーションを行なっている。MITのキャンパス内にはフォログラフ作品などを展示したMITの美術館があるが、その中にフェロー達の研究室も設けられているという。

ベントン所長は、「科学と技術と芸術が結びつき、さらに製造が加わることで、三角錐のような立体的なつながりが生まれた。そこにデザインという新しい要素が加わり、互いがさらに近づきあって、さまざまなものが生み出されている。そうした活動をうまく進めていくには、いくつかポイントがあるが、最も重要なのは人が使うことを前提とした、ヒューマンセンタードデザインという考え方である」と語り、これから新しいステップが始まるのだと、参加者らを激励した。

感情をどう認識し、表現していくか。観客の分身が深層心理を表現する『無意識の流れ』

続いて、今回のイベントの総合ディレクターを務める土佐尚子氏が、“先端技術で甦る共振感覚”と題した講演を行なった。ここでは、アートとテクノロジーの具体的な融合事例として、これまで土佐氏が手がけてきた研究や作品などが紹介された。

今回のイベントのコーディネート役を務める土佐尚子氏は、1人のアーティストとして、感性認識をテーマにした作品の数々を紹介した
今回のイベントのコーディネート役を務める土佐尚子氏は、1人のアーティストとして、感性認識をテーマにした作品の数々を紹介した



土佐氏は、CGで作られた赤ちゃんの顔が、対話者の声と動きに反応する『ニューロベイビー』という作品で、インタラクティブアートの第一人者の1人となった。以後、シーグラフやアルスエレクトロニカといった、国際的な芸術会議に新しい作品を次々と発表し続けている。

『ニューロベイビー』のバージョンアップ作品である『ニューロベイビーMIC』は、けいはんな都市内にある都市基盤整備公団・学研都市展示館内に常設されている『ニューロベイビー』のバージョンアップ作品である『ニューロベイビーMIC』は、けいはんな都市内にある都市基盤整備公団・学研都市展示館内に常設されている



たとえば、『インタラクティブポエム』は、対話者があるフレーズを詩のように読むと、その声の高低や強弱に対応したフレーズがコンピューターから返ってくるという、連歌の手法をベースにした作品だ。さらに、その技術を応用したインタラクティブシネマ『ロミオとジュリエット黄泉にて』では、観客が作品の中にバーチャルに入り込めるようにした。最新作の『無意識の流れ』では、心拍センサーや位置センサーを組み合わせ、観客の分身が深層心理を表現するといった手法を取り込んだ。
こうした一連の制作活動の中で、土佐氏が常に興味を持っているのは、感情をどう認識し、表現していくかという点である。たとえば『インタラクティブポエム』の場合、言葉と感情認識を同時にしたいという課題があった。そこに動きが加わったものがインタラクティブシネマであり、さらに掘り下げて無意識を表現したものが『無意識の流れ』である。

対話の相手も最初はコンピューターであったのが、最新作では、人間同士のコミュニケーションを取りあげたものになっている。「過去10年間の仕事を振り返ってみると、いつもコミュニケーションがテーマにあった。これからもコミュニケーションの新しい形をコード化し、作品としていきたい」と語る土佐氏の作品は、同イベントの展示作品として実際に体験できる形で紹介された。これらの作品を通じて参加者らは、芸術と科学の融合を実感できたことだろう。

※土佐氏の作品については【“デジタル・ルネッサンス in けいはんな” vol.2】の記事の中で具体的に紹介する。

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