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【“デジタル・ルネッサンス in けいはんな” vol.3】“感情”や“感性”をいかにコンピューターに取り込むか? 

1999年11月15日 00時00分更新

文● 野々下裕子

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10、11日に京都府相楽郡の“けいはんなプラザ”で開催された、アートとテクノロジーの融合をテーマにした国際会議“デジタル・ルネッサンス in けいはんな”のレポート。本稿では初日後半の講演を紹介する。

10日午後からは、ATRをはじめ、学研都市内の施設に用意された展示見学の時間が設けられ、その後、MIT人工知能研究所のロドニー・ブルックス所長による講演が行なわれた。

ロボットを人間とのインタラクションによって成長させる

“人間とロボットの相互作用と未来のロボットの社会における地位”というタイトルからも分かるように、ブルックス所長は、人工知能という側面からロボットの進化についての研究を続けている。

会場からの質問に答えるMIT人工知能研究所のロドニー・ブルックス所長
会場からの質問に答えるMIT人工知能研究所のロドニー・ブルックス所長



3年前からスタートしている“The COG Project”は、子供の成長をモデルにしたモジュールでプログラムを組み、年々進化してきた。最も新しいCOGは、9つの表情を持ち、それぞれの間の感情についても表現できるようになっている。将来的には上半身を加えて、肩をそびやかすといった身体表現もできるようにしていくという。

この研究で最もユニークな点は、ロボットを人間とのインタラクションによって成長させるというものである。たとえば、人はロボットに対して無意識に遊んでいることがある。ロボットはそれを情報として学び、成長につながる場合もあるのだ。

同研究所が行なっている“The COG Project”のロボットたち。人間の子供と同じように体験しながら、運動や環境を学習する機能を備えている
同研究所が行なっている“The COG Project”のロボットたち。人間の子供と同じように体験しながら、運動や環境を学習する機能を備えている



では、感情の学習についてはどうかといえば、ロボットがどう考えているかというよりも、どうすれば喜んでいるように見えるかが問題であるという。「感情の分析と表現の研究によって、ロボットの感情表現はcan(できる)とまではいかないが、seemやsimulateまではできるようになってきた」とブルックス所長は語る。

「しかし、数学的に解明できるからといって、それが本物とはいえない。また、本物が何かという問題も一方に出てくる。相手をどう見るかは観察者の問題であり、表現の研究対象としてのロボットは、人間の生活にも大きな影響をもたらしていくだろう」

将来的にはKANSEIが“悟り”というキーワードへと進化していく!?

休憩をはさんで、ATR知能映像研究所社長であり、工学エンジニアでもある中津良平氏による講演“感性コミュニケーションから悟りコミュニケーションへ”が行なわれた。“KANSEI=感性”というキーワードは工学ジャンルで世界的なブームであり、“KANSEI The Technology of Emotion”という学会がイタリアで開催されるまでになっているという。

「感性コミュニケーションの次は悟りコミュニケーションである」という大胆な仮説を提示した、ATR知能映像研究所社長の中津氏
「感性コミュニケーションの次は悟りコミュニケーションである」という大胆な仮説を提示した、ATR知能映像研究所社長の中津氏



中津氏はそのKANSEIが将来的には“悟り”というキーワードへと進化していくだろう、という仮説を提示した。「感性とは情報が脳にダイレクトに働き掛ける状態で、ロジックを停めてしまうものである。一方、悟りとは身体と精神が完全に融合した状態で、我々の意識下にある情報を守り、意識と無意識の両方で情報を得られるような状態にしてくれる」

中津氏は、本来のコミュニケーションが持つべき要素として“体感と共有”、“身体的体験と精神的体験”、“能動的な没入”の3つを挙げ、それらの具体的な例として、踊りに合わせて背景が変わったりキャラクターが登場する『インタラクティブダンス』や、カメラの前で踊ると万華鏡のような不思議な映像が展開される『lanascope』などを紹介した。さらに、バーチャルな森の中を歩くとオペラが流れるといった作品も研究中である。

中津氏が研究を進めている作品がビデオで紹介された。写真はその1つ『インタラクティブダンス』から
中津氏が研究を進めている作品がビデオで紹介された。写真はその1つ『インタラクティブダンス』から



「マルチメディア技術は単に利便性をもたらせるものではなく、悟りのような精神状態に我々を導いてくれるものであるのだ」と、中松氏は結論づけ講演を終えた。

GPSとISDN回線を使って、“アメリカズカップ”をCG化でバーチャル中継

初日は、INA国立視聴覚技術研究所のジルベール・デュテルトル氏が講演のトリを取った。

ヨーロッパ最大の規模を誇るデジタル映像のカンファレンス『イマジナ』を主催するNA国立視聴覚技術研究所のジルベール・デュテルトル氏。「今後もイマジナを、“CGの技術革命”を紹介する場にしていきたい」と語った
ヨーロッパ最大の規模を誇るデジタル映像のカンファレンス『イマジナ』を主催するNA国立視聴覚技術研究所のジルベール・デュテルトル氏。「今後もイマジナを、“CGの技術革命”を紹介する場にしていきたい」と語った



イマジナはヨーロッパ最大の規模を誇る、シーグラフと並んで有名なデジタル映像の国際会議。同研究所の主催によりモナコとパリを舞台に19年間にわたって毎年開催されてきた。そこで発表された数々の映像技術が、放送や映画の世界に生かされている。

講演ではその具体的な事例として、世界的なヨットレース“アメリカズカップ”を中継した際に使われた、最新の放送技術を紹介した。これは、従来の実写中継に加え、GPSとISDN回線によって得られた情報をSGIのコンピューターを使ってCG化し、バーチャル中継を行なったもの。分かりにくいルールを視覚的に解説すると同時に、海が荒れて視界不良でも状況が分かり、何よりもより正確な情報でスポーツ性も高められた。これらの技術は今後、F1やラリー中継などに応用されていくという。

イマジナで発表されたアメリカズ・カップの中継実験の画面。右が実際の画面で左がCGによるバーチャル画面。GPSとISDN回線を使って2秒毎に現地から正確な情報が送られ、さらに視点も自由自在になる。CGでは帆を張る瞬間などもリアルに再現されるイマジナで発表されたアメリカズ・カップの中継実験の画面。右が実際の画面で左がCGによるバーチャル画面。GPSとISDN回線を使って2秒毎に現地から正確な情報が送られ、さらに視点も自由自在になる。CGでは帆を張る瞬間などもリアルに再現される



INAでは、こうした技術をビジネス化するために“イノベーションビレッジ”という活動もしている。数々の実験や研究成果を発表するもので、イマジナもこうした活動から生まれた。さらにイマジナでは、毎年さまざまな分野でコンクールを行なっており、今年は30ヵ国から500を越える作品が応募された。

来年で20回目を迎える“イマジナ2000”は、1月31~2月2日はモナコを会場に、2月2日~4日はパリを会場に開催される。

会場では今年のイマジナでグランプリを取った作品の数々も紹介会場では今年のイマジナでグランプリを取った作品の数々も紹介

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