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世界シェア2位のHDDから赤外線こたつまで--松下寿電子工業が工場見学会開催

1999年11月15日 00時00分更新

文● 編集部 小林伸也

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松下寿電子工業(株)は、今年11月で創立30周年を迎える。世界初の手ぶれ防止機構内蔵ビデオムービーを開発し、HDDの世界シェア第2位を占めるなど、高い技術力と生産力を持つ同社。だが松下グループの中にあって必ずしも世間一般に認知されているわけではない。同社はプレス向けに工場見学会を開き、デジタルAVからストレージ、医療器具分野にまたがる事業をPR。ここではその模様を紹介する。

見学会が開かれた松下寿電子工業の松山事業部
見学会が開かれた松下寿電子工業の松山事業部



飛躍のきっかけは“世界初の赤外線こたつ”

同社は本社を香川県高松市に置き、資本金は約79億円。従業員数約5300人、売上は4630億円('99年3月期)。四国全県に事業部と工場を持つ“四国の雄”だ。米国とアイルランド、インドネシア、シンガポールに合計5つの海外法人を持つ。

同社を創業したのは、松下電器産業(株)の副社長を務めた稲井隆義氏(故人)。故松下幸之助氏の運転手を務めたこともあり、幸之助氏を支える“大番頭”の1人だった。稲井氏は戦後間もないころ、香川県内に松下電器の下請け工場をつくった。これが松下寿の前身で、稲井氏は以後、四国での松下グループの拡大に力を注ぐ。

'60年設立の寿電工(株)は、稲井氏が考案した“世界初の赤外線こたつ”を'61年から生産、大ヒット製品となった。'64年に寿電機(株)を設立、'66年にカラーテレビの生産を開始。'67年にはテープレコーダー部門を分離独立させて寿録音機(株)が設立された。そして'69年、経営の効率化を図って3社が合併。松下寿電子工業が誕生した。

以後、ビデオデッキやビデオカメラの製造を手がけ、'80年代半ばには米クアンタム社と提携してHDDの生産を開始。現在、クアンタム社の製品として出回っているHDDはすべて松下寿製で、世界シェアでは17パーセント、第2位の位置を占めるまでに成長。CD/DVD-ROMドライブやスーパーディスク(LS-120)ドライブの開発/生産も手がけるなど、デジタル分野にもっとも力を注いでいる。その一方で医療器具分野にも参入。もちろん赤外線こたつの生産も続けており、同社の事業は多岐にわたっている。

デジタル分野へ注力--安価なスーパーディスクドライブも

工場見学会が開かれたのは、愛媛県川内町にある松山事業部。四国の名峰・石鎚山を望む静かな一帯だ。松山事業部は、テープレコーダーを生産していた寿録音機が前身で、現在はCD/DVD-ROMドライブやDDS(DAT Data Storage)ドライブ、スーパーディスクドライブといったデジタルストレージ機器に加え、血糖値センサーやファクトリーオートメーション機器を製造している。

同社の戦略を発表する濱口社長
同社の戦略を発表する濱口社長



見学に先立ち、同社社長の濱口幸彦氏が事業概要と今後の戦略について語った。濱口氏は、「HDD、DVD-ROMドライブとも世界シェア2位、ビデオデッキは北米シェア1位を占め、当社の製品は品質が高いと評価を頂いている。主な工場設備は自社開発している上、商品開発を通じてさまざまな技術を培っている。これらが積み重なって高いシェアにつながっている」と自信を見せた。

HDD事業については、「ここ1年半で単価が半分に下がっている。パソコンの価格が下がり、パフォーマンスより低価格という時代になってきた。'85年にHDD事業に参入した際、業界には80社がいたが、今では12社になっている。HDDの全体の数は伸びてはいるが、生き残りを賭けてすべてのメーカー間でし烈な競争が始まっている」とした。その上で、同社のHDD事業の強化策について、「国内工場での生産はハイエンドモデルにシフトし、海外工場はローエンド中心にしていく。自社製ヘッドの使用率を高めて部品コストを下げ、SCM*を導入してリードタイムを削減したい」とした。

*サプライチェーンマネジメント:資材調達から製造、販売に至る一連の過程をコンピューター管理し、在庫や配送に関わるコストを最小限に抑える経営手法

またCD/DVD-ROMドライブ事業については、「普及タイプのCD-ROMドライブはインドネシアで生産を行ない、国内はDVD-ROMドライブなど付加価値の高い製品を主に生産する。2001年には、かつて保持していた20パーセント以上のシェアを奪回したい」と意気込んだ。

「製品単価の下落で苦しい状況だが、需要の増大が見込まれる分野であり、ここを越えれば光が見えてくる」と語る濱口社長
「製品単価の下落で苦しい状況だが、需要の増大が見込まれる分野であり、ここを越えれば光が見えてくる」と語る濱口社長



また中期的な取り組みとしては、同社のコアビジネスを“デジタルストレージ”“デジタルイメージング”“デバイス”“メディカルセンサー”の4つとし、2000年までに生産拠点の集約とコストダウン、年俸制導入などの人事改革を実施。2001年から2003年までの期間では、内外ベンチャーとの提携による新事業、“ハード&ソフト事業”への参入を目標として掲げ、「4つのコアビジネスに効率良く投資していきたい」と語った。

また具体的な製品のリリース予定について、「スーパーディスクドライブでは、部品数を65パーセント削減した戦略モデルを来年発売する。またスーパーディスクドライブを内蔵したデジタルカメラも発売を予定している。テレビ番組を録画できるハードディスクレコーダー開発/生産し、松下電器の米国法人が北米で販売を開始するだろう。その際、サービス面でシリコンバレーのベンチャー企業と提携する」とした。

部品から生産設備も自社生産してコスト削減

続いて行なわれた松山工場の見学では、DVD-ROMドライブや血糖値センサーの生産ラインが紹介された。

DVD-ROMドライブの生産は、一部を除きほぼ自動化されている。写真は検査工程で、CD/DVD-ROM、CD-R/RWメディアなど8種類のディスクを検査機が次々にセット、読み取り性能をチェックしていく
DVD-ROMドライブの生産は、一部を除きほぼ自動化されている。写真は検査工程で、CD/DVD-ROM、CD-R/RWメディアなど8種類のディスクを検査機が次々にセット、読み取り性能をチェックしていく



大規模な工場ながら、従業員の姿は意外に少ない。生産ラインの自動化が進んでいるためで、例えばDVD-ROMドライブのピックアップ調整はCD-ROMドライブの4倍の精度が必要とのことで、機械による検査/調整が不可欠になっているという。

ファクトリーオートメーション機器の製作現場。プリント基板にレーザーを当てて得た3次元画像を基に、基板上の部品の実装状況を調べる『IPK-V2』といった機器を製作している
ファクトリーオートメーション機器の製作現場。プリント基板にレーザーを当てて得た3次元画像を基に、基板上の部品の実装状況を調べる『IPK-V2』といった機器を製作している



同社のコスト削減のカギは、部品や機械設備の“内製化”、つまり自社開発だ。自ら機械設備を開発することで、機械を生産ラインに最適化することができ、設備投資も低く抑えられる。同社の設備生産性は、グループ内でも際だった高さだという。

同社の'99年9月中間期決算では、売上高で前年同期比約20パーセント、経常利益で約86パーセントの減となった。円高傾向に加え、HDDをはじめとするデジタル関連製品で単価の下落が続き、苦しい舵取りが続く松下寿。高い開発力と生産性でグループをリードしてきた同社が、今後どのような展開を見せるのか。内製化に代表されるコスト削減を徹底しつつ、世間を驚かせてきた発想力を生かしてHDDに続く新規分野にどう乗り出していくのか、注目したい。

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