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【COMDEX/Japan '99 レポート Vol.1】「インターネットは電話を超える存在になる」--米E*TRADE社クリストス・コツァコス会長基調講演

1999年11月09日 00時00分更新

文● 編集部 鹿毛正之

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9日、COMDEX/Japan '99が、4日間の日程で千葉県・幕張メッセにおいて開幕した。初日に開催された基調講演には、オンライン証券会社の先駆けとして知られる、米E*TRADEグループの会長兼CEOであるクリストス・コツァコス(Christos Cotsakos)氏が登場した。

全米で220万世帯がオンラインで株を取引

コツァコス氏は、'96年に創業した米E*TRADE社を“パイオニア=先駆者”であると紹介。当時は同社を含めてわずか3社のみがオンラインによる証券取引を行なっていたとのことだ。

米E*TRADEグループのクリストス・コツァコス会長兼CEO
米E*TRADEグループのクリストス・コツァコス会長兼CEO



現在、米国ではすでにオンラインによる証券取引が一般化しており、220万を超える世帯がオンラインで株式の売買を行なっているという。それに伴い、証券会社が受け取るコミッション(手数料)は年々減少の傾向にあり、'96年には年に300ドル支払っていたものが、現在ではわずか20ドルあまりへと大幅に減少しているという数字を紹介した。

E*TRADE社では、ブランドによる認知を重要視しており、ケーブルテレビやテレビネットワークにおいて多額の宣伝費を掛けているという。それが功を奏し、同社の一般に対する認知度は30パーセント超と、同業他社が10パーセントに満たない数字しか挙げていない中、大きな知名度を維持しているという。

米国におけるオンライン取引の現状について、コツァコス氏は2000万世帯がオンラインバンキングを含むオンライン取引を行なっており、その口座数(オンラインアカウント)は4000万口座に上るという数字を挙げた。また、オンラインによる取引の総額は、年間3兆ドル(約315兆円)にもなるという。

E*TRADE社が持つ取引口座は、創業時の'96年では5万7000口座だったが、現在では155万口座以上に増加しているという。また、取引の回数(トランザクション)は年間1700万回に達し、この1年で147パーセントという大幅増を記録しているとのことだ。また、'99会計年度における取引株式の総額は110億ドル(約1兆1500億円)になるという。

3日間のシステムダウンが大きな教訓に

このように順風満帆の経営を見せるE*TRADE社だが、'97年には大きなトラブルに遭遇したことも紹介した。当時、大幅なソフトウェアの入れ替えを行なったところ、同社のシステムが3日間に渡ってダウンし、一切の取引を行なうことができなかったというトラブルだ。当時、米国の経済ニュースでは連日E*TRADE社のシステムダウンが報じられ、大きなダメージを被ったという。

以来、同社ではソフトウェアのアップデートに1億ドル(約105億円)以上を費やし、システムの安定化に万全を期しているという。また、このトラブル時の対応がよかったため、必要以上のイメージダウンを被ることもなく済んだことを教訓として挙げた。

大きなアクションで聴衆にアピールするコツァコス氏
大きなアクションで聴衆にアピールするコツァコス氏



オンラインによる株式取引は日本でも盛んになってきており、E*TRADE社にとっても米国内における競争相手は少なくない。この点についてコツァコス氏は、同社が21世紀に向けた新たなシステムを構築していると紹介。パソコン/インターネットのみならず、ポータブルデバイスや電話機など、あらゆるデバイスに対応した“マルチ・サービス・ネットワーク”を目指しているのだという。

資産形成を一括して担うサービスを提供

また、取引の内容も株式にとどまらず、証券投資やハウジングローン、学資ローンなど様々な金融商品を組み合わせた“複雑化された投資”を、まるごとオンラインに移行していく予定だと語った。2000年中には新たなサービスへの移行を完了し、資産形成を始めとして、購買チェック、TO DOリストやTO BUYリストの提供、オンラインチャットを利用した対面アドバイスなど、総合的な金融サービスを提供していくことになるという。

これらのサービスを提供するために、向こう6ヵ月に渡って世界的で高速なATMバックボーンを構築し、NTサーバーをベースとしたバックエンドのサービスを充実させていくという。

最後にコツァコス氏は、「インターネットはコミュニケーションの中核として、電話を超える存在となる」とし、インターネットを媒介としたオンライン取引がますます発展していくことを強調した。

いびつな金融市場を打開するビッグバン

コツァコス氏に引き続いて基調講演に登場したのは、ソフトバンク・ファイナンス(株)の代表取締役社長を務める北尾吉孝氏。E*TRADEの日本版となるイートレード証券(株)の仕掛け人でもある北尾氏は、証券ビッグバンを迎えた日本の金融市場における現状と将来の見通しについて、自説を披露した。

ソフトバンク・ファイナンス(株)の北尾吉孝代表取締役社長、「金融は本来、自由を求めるものである」
ソフトバンク・ファイナンス(株)の北尾吉孝代表取締役社長、「金融は本来、自由を求めるものである」



北尾氏は、規制に守られた日本の金融システムが“いびつ”な形であると指摘。間接金融への偏重や資本市場の未発達さを例に挙げ、ビッグバン(規制緩和)とIT革命が新たな金融秩序を生み出すであろうと語った。また、日本でも近いうちに、業界の垣根を越えた金融再編成が行なわれるだろうという見通しを披露した。

金融業の本質について、北尾氏は「金融業とは本来、情報産業(IT産業)である」と説明。ITが持つ特性として低コスト、リアルタイム、マルチメディア、インタラクティブ、グローバルの5つを挙げ、これらの特性が金融事業を大きく変化させると語った。

また、インターネットが金融業界にもたらすものとしては、(1)消費者や投資家へのパワーシフト、(2)新しい市場の創設、(3)価格破壊、の3つを挙げた。

このうち新しい市場に関しては、商品の比較市場や個人向けの社債市場といった市場が立ち上がるという予測を披露。価格破壊については、10月1日の証券取引手数料の自由化以降、株式の取り扱い手数料が、大手証券会社で30パーセント弱、オンライン証券会社では70パーセント以上の値下げを見せていることを紹介した。そのうえで、以前は取引手数料が安い業者はそれなりのサービスしか提供していなかったが、現在では手数料が安い上にサービスも充実するようになったと指摘。これらの変化は競争の激化によって生まれてきたと語った。

今後については、日本でも未公開株の取引市場が発展するだろうと語り、未公開株の流通・発行市場が、日本プライベート・エクイティ・マーケット(株)を母体として創設されるという予定を披露し、講演を締めくくった。

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