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人とデジタルとの新たな関係――“デジタルルネサンス~人に優しいデジタル社会”パネルディスカッションより(後編)

1999年11月05日 00時00分更新

文● 船木万里

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11月4日に行なわれた国際シンポジウム“人にやさしいデジタル社会”。最後の演目はパネルディスカッション。21世紀の情報化社会ではどのような技術が必要なのか? そして何が問題となるのか? などについて、意見がかわされた。

パネリストは、先に基調講演を行なった東京大学名誉教授、石井威望氏とMTVネットワークス・アジア社長のフランク・ブラウン氏に加え、文化服装学院教授の曽根美知江氏、東京大学先端科学技術研究センター教授の廣瀬通孝氏、NTTサイバーソリューション研究所マルチメディア端末プロジェクト担当部長、小川克彦氏。司会進行は、野村総合研究所社会基盤研究部、上席コンサルタントの松野豊氏が務めた。

司会進行を務める、野村総合研究所の松野氏司会進行を務める、野村総合研究所の松野氏



メディアとしてのファッション

まず、文化服装学院で教授を務める曽根氏が“ウェアラブルファッション”の企画開発について語った。

ウェアの素材について説明する、文化服装学院教授の曽根美知江氏ウェアの素材について説明する、文化服装学院教授の曽根美知江氏



「石井先生が突然、当学院にお見えになって、着ることができるパソコンを開発したい、とおっしゃって(笑)。パソコンの知識はほとんど持っていない私ですが、石井先生の構想をお聞きして、これは面白い試みになるのでは? と思いました」
 
学生たちに試作品を作らせてみたところ、最初はコンセプトもあいまいなままだったので、まるで“夢のような未来SFファッション”ができ上がってしまった。実用化を視野に入れた一歩先のデザインを考えなければ、と文化服装学院では、'98年に『未来ファッション研究所』を創設。本腰を入れて“ウェアラブルファッション”に取り組んでいる。

ファッション業界は、デザイン、素材開発、縫製、販売などが、徹底的に消費者のニーズを意識してシステマティックに展開されている。こうしたシステムを取り入れつつ、コンピューターと人間が融合するためのメディアとして、ウェアラブルファッションを開発していきたい、と曽根氏は語った。
 
また、こうした特殊なウェアは、デザインだけではなく人間の運動機能、生理機能を重視し、素材の選択にも注意を払う必要がある。石井氏の基調講演で披露されたウェアにも、電磁波防止フィルムを繊維にした新素材を開発して、身ごろ部分に利用するなど、隠れた工夫が凝らされているという。

「人は、服装によって自分を表現しています。服がコミュニケーションメディアの1つとなっているのです。また現代は、心地よいもの、美しいものがいつも求められ、日常に取り入れられている時代です。コンピューターも、そういう視点を持って開発に取り組んでいただきたいですね」

これから求められる情報流通機器とは?

次に指名されたNTTの小川氏は“TELECOM99”の様子をプロジェクターで説明しながら、まるで“ドラえもん”のように、あちこちのポケットからさまざまな最新機器を取り出して見せた。携帯電話はもちろん、NTTで開発中という腕時計型PHSや、自分がどこにいるかを知らせる位置情報発信カード、自分のコンピューターのデータを、どのパソコンからも閲覧できるというICカード……。ひと昔前ならSFマンガに出てきたような機器が、どんどん現実のものとなっている。

腕時計型PHSを披露する、NTTサイバーソリューション研究所の小川氏腕時計型PHSを披露する、NTTサイバーソリューション研究所の小川氏



こうした最新機器の説明の後、近未来の情報社会を予想した、NTT制作のプロモーションビデオが上映された。ときは2005年。京都の職人、東京の織り屋、フランスのデザイナーが自在にコンピューターを操って情報をやり取りし、1つの織物を完成させるというストーリー。音声入力、指紋認識、オンライン決済など、現在開発されている技術の実用化が、理想的な形で描かれている。

「情報機器の発達でどんどん世の中は便利になっていきます。しかし、何か違和感が残る。だいたい、ビデオの録画もできない人がいる世の中に、複雑な操作の必要な機器が求められているのでしょうか?」と、小川氏は疑問を投げかける。

プライバシーの問題から、小川氏自身は、位置情報発信カードをめったに利用しない。どこにいても追い掛けてこられるようだと、携帯電話の利用をためらう人もいる。こうしたユーザー側の“安心感”や“快適さ”という問題を考えながら、情報流通機器の開発に取り組まなければならない、と小川氏は語った。

情報と建築の等価性

廣瀬氏はバーチャル・リアリティーを専門に研究していが、現在問題なのは「体験者を横から見ていると、かっこう悪く思えることだ」という。大きなメガネをつけて、何もない空間に手をさまよわせるのは、確かに見栄えのいいものではない。一方、白い壁一面に映像を映し出すという、バーチャル・リアリティーのあり方も考えられる。部屋の空間全体がインターフェースとなっているわけだ。

東京大学先端科学技術研究センター教授の廣瀬通孝氏東京大学先端科学技術研究センター教授の廣瀬通孝氏



ここ10年で、コンピューターの世界は大きく変化してきた。'80年代、単位はK(キロバイト)だった。'90年代に入りM(メガバイト)、そして2000年にはG(ギガバイト)へと移行している。この量的変化は、もはや質的変化といっても過言ではない。技術革新により、機器はどんどん小さく、安価になってきた。以前は人がコンピューターのある場所へ行っていたが、モバイルコンピューターの実現により、コンピューターは人についていくものへと変わろうとしている。

コンテンツの発生する場所が重要である、という考え方から、廣瀬氏は“EXPO2005”において“領域型パビリオン”を企画している。パビリオンといえば、これまでは建築物であったが、環境としてのパビリオンを考えるという、まったく新しい試みだ。

「このごろは、情報流通と建築が大きくクロスオーバーしはじめています。情報と建築の等価性といいますか、特別な建築物がなくても、情報流通を行なえば、どんな場にもなりうるという考え方ですね。野原であっても、モバイル機器を持った人間が集まれば、そこはコミュニティーセンターに変貌する。そういう“場”の要素を考えていきたいと思っています」

廣瀬氏は、部屋全体がインターフェースとなった『バーチャルルーム』を紹介
廣瀬氏は、部屋全体がインターフェースとなった『バーチャルルーム』を紹介



情報流通によって広がる新しいコミュニティーへの期待

ブラウン氏は、隣席の小川氏が次々に取り出す最新機器を、真剣にチェックしていた様子だ。

「日本が技術を駆使して、このような素晴らしい製品を生み出していることは驚きです。世界でもこの分野ではトップクラスでしょう」と、強い興味を示した。  

MTVネットワークス・アジア社長のフランク・ブラウン氏MTVネットワークス・アジア社長のフランク・ブラウン氏



デジタル化という技術は、ものごとを細分化するために重要なファクターの1つだ。現在、それぞれの国は物理的共同体にすぎない。これまでは自分の近くにいる人と友人になるという選択肢しかなかったが、今後インターネット技術によって世界中の人々と対話できれば、新しいコミュニティーをつくることも可能になる。
 
技術革新により、世界的に見て貧富の差が拡大するという懸念もあるが、逆にアフリカや南米など、第三世界と呼ばれた国々に、新たなチャンスを与えるきっかけになるともいえる。「当社のケーブルテレビは、後から導入された国のほうがすばやく、効率的に敷設できました。後追いのメリットも大きいと思います」とブラウン氏は語り、情報流通社会による、世界的規模での生活の向上に期待を寄せた。

21世紀の社会に必要なもの

「デジタル技術による情報流通は、今後の社会にどういう影響を及ぼしていくとお思いでしょうか? また今後何が問題となるのでしょうか?」と、最後に松野氏が各氏へ問い掛けた。

なごやかにデジタル社会について語り合うパネリスト
なごやかにデジタル社会について語り合うパネリスト



「文明の見方として、現在“海洋史観”が注目されていますね。海と民族の関わりを通して文明を考えていく方法論ですが、私は、21世紀の新しい海洋はインターネットではないかと考えています」と、まず石井氏が答え、この新しい海を自在に渡り歩けるネットジェネレーション(情報行動に長けた新しい世代)に期待している、と語った。

「情報機器の利用における当面の大きな問題は、エネルギーです」と答えた小川氏は、モバイルパソコンのために大きな電池パックを持ち歩く。

「メールや電話で打ち合わせが済んでしまうなら、なぜオフィスが必要なのでしょうか。モバイル機器が発達すれば、今後はオフィスや学校が消えるという可能性もあります」と廣瀬氏。

小川氏は、「私は週に1回くらいしか出社しないんです。どこにいてもモバイルで仕事はできるし、連絡もメールと電話で済ませます」

これに対し、曽根氏は「コンピューターを利用したコミュニケーションも便利ですが、やはり集まらなければお話にならない、というコミュニケーションもあるのではないでしょうか」と反論した。

石井氏は、「確かに、face to faceで話し合う“場”は必要なのかも知れません。この『場』の作用が重要であるという認識は高く、新生児と母親の“場”における相互作用などを対象に、現在研究が進められています。インターネットにおける“場”も新たな存在として考えられています」と“場”の重要性を語った。

東京大学名誉教授の石井氏東京大学名誉教授の石井氏



各氏の立場、分野は異なるが、結局、デジタル情報の流通により“個別化”が進む社会で、マスプロダクションによる安価な機器を利用しながらも、全てをデジタルに依存することなく、本来のコミュニケーションの“場”を考えるべきだ、という結論に達した。

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