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電子商取引の普及の鍵は信頼の確立――“産業情報化シンポジウム”から

1999年10月29日 00時00分更新

文● 編集部 小林伸也

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“第15回産業情報化シンポジウム”が都内で開かれた。(財)日本情報処理協会と(株)日本経済新聞社が主催し、テーマは“電子商取引の環境整備と法的課題――安心して取引ができるための制度インフラの整備”。基調講演では、通産省機械情報産業局長の太田信一郎氏と、一橋大学大学院法学研究科教授の松本恒雄氏が、ECを取り巻く現状と課題について語った。



まず、通産省の太田氏が“新世紀を迎える電子商取引の現状と展望”と題して講演した。太田氏は電子商取引の国内市場規模について、今年の約9兆円から2003年には71兆円にまで伸びるとの予測を示した。うち8割がBtoB(企業間取引)で、資材の受発注などがインターネットを通じて行なわれるようになると見られている。また電子商取引の進展の影響などで、今後5年間に354万人の雇用が削減されるものの、新ビジネスによる雇用創出効果が上回り、差し引き13万人の雇用増が可能になるという。

「オープンなインターネットがECで大きな役割を演じている。閉じたネットワークは主流ではなくなるだろう」と語る太田局長 「オープンなインターネットがECで大きな役割を演じている。閉じたネットワークは主流ではなくなるだろう」と語る太田局長



また電子商取引の意義について、「紙ベースの手作業に比べ、作業、情報の流通とも大幅に効率化できる上、インターネットを利用することで新たな顧客の開拓も可能になる。米国のドットコムビジネスのような新産業も生まれるだろう」と語った。

政府は'94年、高度情報通信社会推進本部を設置し、その中の電子商取引等検討部会で、EC推進における課題や今後の取り組みについて検討してきた。民間主導・政府による環境整備・国際的な合意形成に向けたイニシアティブの発揮、を原則とし、通産省では民間から公募した提案の実用化に向け、開発費を予算化。ECの基盤整備に努めてきたという。

太田氏はEC普及への課題について、「電子署名、電子認証の法的位置付けを早急に整備する必要がある。従来の紙をベースにした契約と電子的な契約を、同じ信頼感を持って行なえるようにしなければ」と述べ、契約時の信用を確立することが鍵となる、とした。

「海外の業者とトラブルになった際、訴訟で解決するのは難しい。法廷外で紛争処理を行なう機関が重要になるだろう」と述べる松本教授 「海外の業者とトラブルになった際、訴訟で解決するのは難しい。法廷外で紛争処理を行なう機関が重要になるだろう」と述べる松本教授



続いて、一橋大学の松本氏が“電子商取引における法的課題”をテーマに、電子認証の法的問題を中心に講演を行なった。松本氏は、ECにおいて消費者は、相手が信頼できる相手なのか、個人情報は守られるのか、といった不安を抱いていると指摘。信頼性を高めるため、消費者協会といった第三者が、一定の審査に合格した業者に対し、“マル適マーク”をウェブに掲げることを認める試みなどを紹介した。

電子認証をめぐっては、法的には電子データによる契約成立の可否、電子データを文書と認めることの是非、といった点が問題となる。松本氏は、「日本では本来、契約の際に書面化せよと民法は定めておらず、ECにそのまま移行できそうに見える。ところが実際には慣習として、煩わしいほど押印を要求されてしまう」と指摘。その上で「電子署名においては、秘密鍵が盗まれない限り押印以上に無改ざん性が保証される。電子署名に押印と同じ効力を与えても問題はない」との見方を示した。

また認証をオーソライズする認証機関について、「安全氏や確実性が資格要件となり、最終的には上位機関、つまり国が責任を持つ必要があるだろう。また海外との取引の際には、国内とは商慣習が異なる機関による認証に法的効力をどの程度与えていいのかも問題になる」とした。

最後に松本氏は、「既存の法律の解釈と、ECを安心して行なうための制度作りはイコールにならない。現状では裁判になったらどうなる、といったことより、事前にはっきりさせておいたほうが取引もやりやすい。その意味でも早急な法整備が求められている」と締めくくった。

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