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甘い日本の情報管理体制。収集、分析、伝達における一元化の必要性――“第4回情報カンファランス”より(後編)

1999年10月27日 00時00分更新

文● 狭間太一郎

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21日、尚美学園の主催による“第4回情報カンファランス”が開催された。今回はアルスエレクトロニカ・センターと提携し、“INFOWAR”をテーマとして基調講演とパネルディスカッションが行なわれた。本稿では、基調講演3、4とパネルディスカッションの模様をお伝えする。

セキュリティーがないことを前提に

基調講演3では、インフォシーク取締役会長の伊藤穣一氏が登場した。伊藤氏は基調講演1、2の内容を受けて、インターネットを話題の中心とした講演を行なった。

伊藤穣一氏はシュトッカー氏、江畑氏の講演を受けて、両氏の公演を補完する話題を提供
伊藤穣一氏はシュトッカー氏、江畑氏の講演を受けて、両氏の公演を補完する話題を提供



「インターネットとは? という問いは、情報とは? という問いに等しい」と発言、「既存の情報がモノ中心の世界なのに対して、インターネットは動く情報、ノンリニア、カオスの世界であり、基本的なルールが違う」と述べた。
 
何が正しいかという価値判断では“アートの感覚”を提唱、経済原理にはずれる“Linux”がアルスエレクトロニカのネット部門の大賞を受賞したことを紹介した。そして、“アーティスト”=“美的センス”を持っている人の重要性を訴えた。
 
またハッカーの紹介では「セキュリティーは、本来セキュリティーがないことを前提に考えなければならない」と発言した。さらに「インターネットの世界は、国境を越えたボーダレスの世界であり、すべての国へ情報を発信している。国家間で法の範囲が異なるので、場合によっては法に引っ掛かってしまうようなこともある」と、法律が追い付いていかない現状を指摘した。

最後に、インターネットユーザーがオンラインゲームで膨大な時間をつぎ込んでいること、ネットワーク上でゲームが増殖していることを紹介、このようなネットワークの存在は「果たして人工生命なのか? コミュニティーなのか? インフォメーション・ウォーフェア(IW)なのか?」と、パネルディスカッションにつなげる発言をして講演を締めくくった。

情報管理体制の整備が最重要課題

続いて参議院議員畑恵氏による基調講演4が行なわれた。畑氏は日本の危機の本質を“インフォウォー”という観点から分析した。

畑恵氏は、日本の危機管理の立ち遅れを報告
畑恵氏は、日本の危機管理の立ち遅れを報告



「日本の国会議員、官僚たちは、情報共有化の有用性や情報セキュリティーの必要性について、認識が大きく欠如している」と指摘。具体例として「各省庁を結んでいる霞ヶ関WANでも、とかく省庁の利益優先のやり取りが中心になり大事な情報の共有がない。どうでもいいようなインターネットのやり取りばかりが行なわれている」と報告した。

「利便性と安全性のバランスを評価するシステム構築を早急にしなければならない」と訴える畑氏は、“適切な判断=内容の適切さ×スピード”という式を紹介。日本の課題として、インフォウォーで命となるスピード(対策・広報)の伝達体制が不備である点についても指摘した。

「情報管理体制の整備が最重要課題である」として、収集、分析、伝達における一元化の必要性を訴えた。現状では、いまだに日本は旧来型社会システムであり、「縦割り、前例主義、密室主義で、変化を忌避している」と厳しい評価を下した。

具体的対応としては、総理直属のタスクフォースを提案した。また、そのメンバーとして「元ハッカーや企業の情報部門責任者、情報通信の関係者など、フレキシブルなメンバーで構成するべき」と大胆な発言をした。

民間との協力体制強化、情報セキュリティーの法整備問題、個人情報保護法の早期制定など、畑氏の講演では日本の課題が山積していると痛感させられた。

政府の役割が減り、企業が力を増す

最後のパネルディスカッションは、基調講演に登場した講演者に加え、コーディネーターにアスキー取締役の西和彦氏、パネリストにジャーナリストの福冨忠和氏、日本大学大学院理工学研究科情報科学専攻教授の戸川隼人氏、尚美人間科学総合研究センター主任研究員の村井清二氏が参加して進められた。

パネルディスカッションでは、パネリストとして福冨氏、戸川氏、村井氏も参加。アスキーの西氏のコーディネートにより、密度の濃いディスカッションが行なわれた
パネルディスカッションでは、パネリストとして福冨氏、戸川氏、村井氏も参加。アスキーの西氏のコーディネートにより、密度の濃いディスカッションが行なわれた



福冨氏は、直接的な武力行使ではなく間接的にその地域を不安定にさせるような低強度紛争の増加や、ネットウォーで個人が国家の敵とされるような可能性があり、旧来とは違う情報統制が行なわれる危険性を訴えた。

ディスカッションにおいて、“政府の役割が減り、企業が力を増す”という視点では、各氏の意見は一致。コミュニティーの問題では、伊藤氏は「罰則は不参加、クローズドな体制で、オープンなネットへ接続しないことで防御する」という見解を披露した。

教育の問題では、江畑氏は「コミュニティーの中で価値観を統一できるのか? ましてやインターネットでは難しいのでは?」と、教育による解決に対して懐疑的な発言をした。
 
暗号の問題で日本の対応のまずさが指摘されるなど、議論は多岐に渡った。そのなかで日本、アメリカ、ヨーロッパのコミュニティーの在り方、文化の違いといった議論を受けて、聴衆から“グローバルとローカルの在り方”に対する質問が出た。畑氏は“国益のためのグローバリズム”を提案、司会の西氏は「グローバルなローカリズムと、ローカルなグローバリズムという形で、グローバルとローカルを共存させる」ことと、まとめた。
最後に“peaceを作るためのアーティストの役目”の重要性を再確認して、ディスカッションは終了した。

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