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【ビジョンプラス7 vol.2】“つかう/情報とインターフェース”と“つなぐ/ 情報と環境”――情報デザイン国際会議より

1999年10月19日 00時00分更新

文● 野々下裕子

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7日から多摩美術大学上野毛キャンパスで開催された、情報デザイン国際会議“ビジョンプラス7”の後半を紹介する。

7日から多摩美術大学上野毛キャンパスで開催された、情報デザイン国際会議“ビジョンプラス7”の後半を紹介する。2日目は“つかう/情報とインターフェース”をコンセプトテーマに、午前はアメリカのイリノイ工科大学とンターバル・リサーチ社、そしてオランダのフィリップス・デザインがセッションを行なった。午後は女性3人によるセッションということもあって、デザイン面でもかなり突っ込んだ内容となり、その中のいくつかは、初日のセッション内容とクロスするものとなった。

2日目午後は女性3人によるセッションが行なわれた。
2日目午後は女性3人によるセッションが行なわれた。



デザインのステップとプロセスを明確化することが重要

まず、サンフランシスコに本社を置くデザイン会社HOTのマリア・ジュディジ氏は、最近増えているサイトのデザインについて綿密なプロセスを紹介。

「どのプロセスを誰が担当するかを明確にし、なおかつ互いの仕事を尊重することが大切」と語った。これは、メタデザインのフレッヒ氏が言う“プロセス・デザイン”と通じるものがある。メタデザイン社でも、最近、サイトデザインを手がけることが増えており、バーチャルな世界とリアル世界のデザインを一致させていく上でも、プロセスが重要なキーポイントになっているのだろう。

デザインそのものの教育がまだまだ足りないと語るHOTのジュディジ氏
デザインそのものの教育がまだまだ足りないと語るHOTのジュディジ氏


また、日本で数々のインターフェースを手がけているソフトディバイスの田中泉氏も、同じく「プロダクトのためのステップが重要である」と述べた。具体的なものとして、現在、NTTデータと共同で研究開発中の“個人環境システムのインターフェースデザイン”といった事例を紹介した。

ソフトディバイスの田中氏はインターフェースデザインを制作する上でのプロセスを解説した。同氏は画面に映っているようなキューブ型のツールの研究開発にも携わっている
ソフトディバイスの田中氏はインターフェースデザインを制作する上でのプロセスを解説した。同氏は画面に映っているようなキューブ型のツールの研究開発にも携わっている



次にアドビ・システムズでローカライズドソフトのため、日本の市場リサーチを担当しているリン・シェード氏は、「東西の感覚の違いを社内で伝えることに苦労してきた」と語った。特に日本で求められるあいまいさの部分は伝えにくく、期待感を含めた潜在的なニーズを伝えられる何かが必要だろうとし、グローバルな製品を作る上での問題点を提示した。

このポイントは、やはり初日にサンダーズ氏が指摘したもので、デザインを行なう上でユーザーを理解することの重要さを改めて認識することになった。中でもジュディジ氏は「非現実な注文をするクライアントの教育こそが必要」とし、この意見は会場からも大いに賛同を得ていた。

日本の在住歴も長く日本語にも堪能なアドビ・システムズのシェード氏。それだけに文化を伝達する問題に悩まされている
日本の在住歴も長く日本語にも堪能なアドビ・システムズのシェード氏。それだけに文化を伝達する問題に悩まされている



情報デザインは、すべてのデザインのプラットフォームに

最終日は“つなぐ/ 情報と環境”がコンセプトテーマに取り挙げられた。3日間の中でも、最も多彩な組み合わせのセッションとなった。

午前は、東京大学の水越伸氏をモデレーターにデジタル・アイランドの関明彦氏、オンライン・ジャーナル『本とコンピュータ』編集デスクの仲俣暁生氏、Kame Designのヨアヒム・ミュラー・ランセ氏という顔合わせで、ややパラレル気味な内容でセッションが進行していった。

特にランセ氏は、来日してから撮り集めた地図や標識、看板などのスライドを見せながら、「公共デザインにとってオーディエンスを誰に設定するかが、一番重要なポイントとなる」と語った。

最終日の午前に行われたセッションの面々。左から東大の水越氏、本とコンピュータの仲俣氏、デジタル・アイランドの関氏、Kame Designのランセ氏
最終日の午前に行われたセッションの面々。左から東大の水越氏、本とコンピュータの仲俣氏、デジタル・アイランドの関氏、Kame Designのランセ氏



このセッションで最も反響があったのは、関氏の紹介した子供向け統合型ブラウザー『Monjya Kids』だ。このソフトは、関氏の拠点とするマレーシアをはじめとした東南アジア地域で頒布されており、その中の『Monjya city』で子供たちはめいめいの世界観を楽しんでいる。子供向けの、しかも多くの文化圏が交錯するアジア圏でも通用するコンテンツの存在に、会場からも質問が殺到した。このように、「グローバル化する一方で、デジタルの中にも民族性が芽生えつつある」と関氏は語る。

さらにこのセッションでは、グラフィックや工業、建築からITにまでデザインの話題が広がり、水越氏は最後に「あらゆるところでデザインという言葉が使われる今、情報デザインというのはすべてのデザインのプラットフォームとして位置づけられるものになるかもしれない」と結んだ。

情報デザインを取り巻く社会の在り方をも考える――“関係のマッピング”

午後は、“関係のマッピング”として、多摩美大の堀内正弘助教授をモデレーターに、さらに話題が拡がった。

最終日の午後のモデレーター役を務めた堀内助教授。「最後のセッションではコンテンツのウェットな部分を取り挙げていきたい」
最終日の午後のモデレーター役を務めた堀内助教授。「最後のセッションではコンテンツのウェットな部分を取り挙げていきたい」



まず、筑波大学の若林幹夫助教授が、地図の役割について語り、次いで環境問題を扱うモダン・ワールド・デザインのウエンディー・ブラウアー氏は、自らが参画している『グリーンマップ』プロジェクトを紹介。自分たちの住む街の機能をアイコン化した情報マップを通じて、世界のリアリティーを実感してもらおうという試み。若林助教授の話と合わせて、地図が持つ情報デザインの要素を再確認することとなった。

モダン・ワールド・デザイン社のブラウアー氏は、京都をはじめ、日本のさまざまな地域で『グリーンマップ』プロジェクトを進めている
モダン・ワールド・デザイン社のブラウアー氏は、京都をはじめ、日本のさまざまな地域で『グリーンマップ』プロジェクトを進めている



市民銀行の片岡勝氏からは、市民バンクの提案する『エコマネー』が紹介された。これは、金銭による報酬の代わりにエコマネーを使い、第三世界ショップなどといった場所で、現地と直接“フェアトレード”を行おうという仕組みである。

市民銀行の片岡氏が提案する『エコマネー』の話は、情報デザインとはいちばんかけ離れていたが、一番印象に残るプレゼンテーションであった
市民銀行の片岡氏が提案する『エコマネー』の話は、情報デザインとはいちばんかけ離れていたが、一番印象に残るプレゼンテーションであった



時代が必要とするサービスを事業化していくという片岡氏の姿勢と力強い発言は、デザインとは直接関係はないが、情報デザインを取り巻く社会の在り方として、新鮮な驚きを参加者にもたらした。

特にテーマである“関係のマッピング”という意味では、これから全く新しい世界観や関係づくりというマッピングができつつあることを感じさせ、“ビジョンプラス”そのものにも、新しい視点を持ち込んだといえる。

拡散と多くの問題提議を残したまま“ビジョンプラス7”は3日間の幕を閉じた。しかし、ここでの出会いや発見が、明日の情報デザインのあり方に大きな影響をもたらしたのはまちがいないと言えそうだ。

“ビジョンプラス7”の中日に行なわれた記者会見。画面中央は実行委員長の多摩美大の須永剛司教授
“ビジョンプラス7”の中日に行なわれた記者会見。画面中央は実行委員長の多摩美大の須永剛司教授



“ビジョンプラス”を主催しているIIDのピーター・シムリンガー氏。終了後のインタビューで「今回のビジョンプラス7はこれまでのものとまったく異なる形態となった」と語った
“ビジョンプラス”を主催しているIIDのピーター・シムリンガー氏。終了後のインタビューで「今回のビジョンプラス7はこれまでのものとまったく異なる形態となった」と語った



“ビジョンプラス7”のもう1人の実行委員長である多摩美大のアンドレアス・シュナイダー教授。コーディネートに通訳にと、会期中は須永教授と一緒に会場をめまぐるしく走り回っていた
“ビジョンプラス7”のもう1人の実行委員長である多摩美大のアンドレアス・シュナイダー教授。コーディネートに通訳にと、会期中は須永教授と一緒に会場をめまぐるしく走り回っていた

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