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【INTERVIEW】PS2にも採用された群衆/物理シミュレーションを提供--アニメーションサイエンス社 ランディー・ブローライト副社長に聞く

1999年10月18日 00時00分更新

文● インタビュー・構成:千葉英寿/インタビュー:喜多曜介

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米アニメーションサイエンス(Animation Science)社は、3Dテクノロジーに特化した技術を提供している企業だ。同社のテクノロジーは、次世代ゲーム機である『プレイステーション2』(以下PS2)向けゲームタイトルを開発するためのミドルウェアにも選定されている。

さらに、同社の“ウェブ・インタラクション・エンジン”は、米サンマイクロシステムズ社のJava 3D技術をサポートするものとして選ばれている。

同社の中核技術である群集シミュレーションの“Rampage(ランページ)”と、物理シミュレーションの“Outburst(アウトバースト)”は、PS2の開発コンセプトである“Emotion Synthesis(エモーションシンセシス)”を実現する上で、重要な技術になりうる。

今回は、同社の技術、および同社とSCEIの関係について、同社副社長のランディー・ブローライト(Randy Broweleit)氏とプロジェクト・マネージャーのケヴィン・チャング(Kevin Cheung)氏に話を聞いた。インタビュアーはフリーライターの千葉英寿。

PS2向けに、現行の技術を再構築

--アニメーションサイエンス社の活動について教えてください

「5年ほど前には、パーティクル(粒子)に特化したエフェクトの“エクストリーム・パーティクル”という技術を、3Dアニメーションツールの『SOFT IMAGE』にライセンスしていました。その当時はまだ、リアルタイムのレンダリングではありませんでした」

米アニメーションサイエンス社でプロジェクト・マネージャーを勤めるケヴィン・チャング氏(左)、副社長のランディー・ブローライト氏(右)
米アニメーションサイエンス社でプロジェクト・マネージャーを勤めるケヴィン・チャング氏(左)、副社長のランディー・ブローライト氏(右)



「それから、そのパーティクル物理シミュレーション技術を拡張し、それ自体の規格化を行ないました。さらにその企画を拡張して、キャラクター(オブジェクトのこと)の動きを制御する“クラウドシミュレーション(群衆シミュレーション)”に対しても応用できるようにしました。パーティクルをクラウドシミュレーションに広げていく段階で、リアルタイムに対応できるようにも改良を加えていきました」

--そういった技術を、今後はどのようなところで活かそうとお考えですか

「これまでは、この技術を応用できるのは、映画制作の領域でしかありませんでした。ところが、(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)が『プレイステーション2』(以下PS2)を2000年の3月4日に発売するということで、ゲームの分野でも環境が整ってきたというわけです」

「現在は、ゲームのプログラムを担当してきているケヴィン(・チャング氏)が、現行の技術をPS2向けに再構築しているところです。これまでの経験から言って、新しいゲーム機が立ち上がる時期というのは、ツールの開発者にとっていいタイミングです。ケヴィン自身、PS2立ち上げの初期段階から入れるような形でやりたいというのもあって、PS2の市場へ参入することを決めたのです」

--PS2に御社の技術が使われるということですが、SCEIからのオファーはいつごろあったのでしょうか?

「2~3年前から、SCEIとは話をしていました。すでに(初代)プレイステーションの時にSCEIに行き、ミドルウェアとしてどうかなどという話はしていましたが、プレイステーション自体が弊社の技術を活かせるようなフォーマットではないということで、具体的な話にはなりませんでした」

「その後も彼らとのラインは生かしておいて、SCEI側がミドルウェアの必要性を感じた時にはいつでも話し合いができるようにしておいたわけです」

ランディー・ブローライト氏は、同社のビジネス面を統括している人物。ゲーム業界に広い人脈を持つランディー・ブローライト氏は、同社のビジネス面を統括している人物。ゲーム業界に広い人脈を持つ



--アニメーションサイエンスの技術が、SCEIのPS2のコンセプトである“Emotion Synthesis”を築く上で、強いインパクトを与えたのでしょうか?

「多分そういうことはないと思います。SCEIは、映画で用いられる感情表現などをゲームに取り入れることをずっと夢見ていていましたので、それが契機になっていると思います」

「アニメーションサイエンスがPS2の開発に寄与できるのは、パーティクルに対する物理シミュレーション技術といった“ルールベースアニメーション”の分野です。いわゆる自然現象に従った動きを表現する部分ですね。あとは、“クラウドアニメーション”、つまり群衆の動きといった部分です」

--SCEIでは、群衆シーンのリアルタイム制御に関して“キャラクタインテリジェンス”と言う言葉を使っているんですが、これには御社の技術が使われているのでしょうか?

「それはわかりません。SCEIが3月に発表したコメントを読む限りでは、私たちが“Rampage”と呼んでいるクラウドシミュレーションの技術に似ていると思いました」

--それでは、御社の技術がPS2の標準的な開発ツールに組み込まれているということでしょうか?

「いいえ、あくまで“ミドルウェア”として入っているものであって、開発キットには入っていません。ミドルウェアとは、PS2向けゲームの開発者を助けるという意味で、SCEIがパートナーとして選んだ会社のソフトウェア技術をそう呼んでいるのです。ですから、SCEIが公式のアナウンスを行なう時には、当然、弊社の名前も出てきます。そういう形でプロモーションしてくれるのは非常にありがたいことです」

「私たちはこれまで、弊社の技術をソリューションとして提供するビジネススタイルでやってきました。契約を交わした会社に対しては、ソリューションの提供とサポートを個別に行なってきたのです。そのため、Rampageと『Outburst』についても、具体的な商品名を付けたのは最近になってからです」

--PS2のデモ映像で鳥の集団が飛んでいくシーンがありますが、御社の技術が使われているのでしょうか?


「あれは、私たちの技術ではないですね。ただ、あのような感じの群衆シーンを作るには、Rampageが向いていると思います」

持参したノートパソコンで、Rampageのデモ映像を披露するブローライト氏
持参したノートパソコンで、Rampageのデモ映像を披露するブローライト氏



--では、現状ではPS2上で御社の技術が動いているところを見ることはできないのですか?

「いいえ、すでに開発が進んでいるところがあります。東京のあるオフィスでやっています。先日の東京ゲームショーでも『XFire』(エレクトロニック・アーツ・スクウェア(株)が開発中のタイトル)というシューティングゲームで使われていました。まだ一部しかプレイできない状態だったのですが、ゲーム中で薬夾が飛ぶ軌道や、その動きはなどは全部そうです。また、水の表面の波紋にも使ってくると思います」

「他にも、壁に弾が当たってはじけたり、壁は壁でも質感や材質によってはじけ方が違ったりする様子を、RampageとOutburstで再現しています。現在はまだ開発の初期段階なので、使っているのは薬夾の動きだけですが」

--今後、御社技術が使われるタイトルには何がありますか?

「この場では言えないのですが、すでに何社かと話を進めています」

--これから日本でのビジネスも増えていくと思いますが、日本における代理店がない現状についてはどうお考えですか?


「日本にオフィスを設立するよりは、しっかりしたビジネスを行なっているところとパートナーシップを組みたいと考えています。ビジネスがうまくいくようであれば。自分たちの力でオフィスを開くようなこともあると思いますが」

--具体的にオフィスを開設する話はありますか?


「ないですね。プランはありますけどまだタイミングが」

--商社などに代理店になってもらうことは考えていますか?

「それは難しいと思います。これまでの私個人の経験から言うと、その商社にゲームの知識を持った人がいないと難しいと思います。どんなにお金を持っていても、よいオフィスを持っていても、ゲームを理解してくれるところでなければならないと考えています」

--SCEIの関係者が、“いずれは開発環境をオープンソース化したい”ということを話していたのですが、それはご存知ですか?


「いえ、特に聞いていません。その話とは関係なく私たちの間でも、オープンソースについては当然議論はしています。ですが、すぐにどうこうというのはありません」

--SCEIは5年後くらいに、“リアルタイム・デジタル・エンタテインメント”というコンセプトで、ゲームと映画が融合したようなものを実現したいと言っています。この方向性は御社の目指すところとは近いものなのでしょうか?


「SCEIのプランとは別に、アニメーションサイエンスでも“ウェブ・インタラクション・エンジン”という、ウェブ上でアニメーションサイエンスの技術を使うエンジンを開発しています」

「私たちの技術の中で重要なのは、リアルタイム性というところだと思うのです。ゲームの中でもリアルタイム性が必要だし、インターネットにもリアルタイム性が必要だと思います。ですから、今後アニメーションサイエンスが打ち出していくキーワードは“リアルタイム”ということになると思います」

「ルールベースアニメーション(物理法則に則ったアニメーション)は、データの転送量が普通のアニメーションより少なくて済みます。ですから、帯域幅が少なくても効果的なアニメーションがインターネットで送信できるのです」

「そういった意味で、アニメーションサイエンスが持つ技術は魅力的なのではと思います。SCEIとは現時点では具体的な話はないですね」

--一般のCGソフトでRampageなどの技術を使うことはできますか?

「『3D STUDIO MAX』『LIGHT WAVE』『SOFT IMAGE』などで利用可能です。ただ先ほどもお話したように、私たちはソリューションカンパニーですから、ビジネスモデルとしてリテールは行ないません。テクニカルライセンスを結んで、技術を提供するということになります。特に、ゲーム制作の分野ではツールのカスタマイズが重要なので、RampageやOutburstを単体で販売しても難しいと思います」

--PS2以外のエンタテインメントマシンに、御社の技術を導入するいう話はありますか?


「ケーブルテレビやセットトップボックスに入る可能性はあります。ドリームキャストについては、パーティクルを処理するパワーが少ないので、導入は難しいでしょう。ドルフィン(任天堂の次世代機)については、まだ詳しいことがわかっていませんので、なんとも言えませんね」

8000人の動きをシミュレートした実績

引き続き、同社の技術者であるケヴィン・チャング氏に、RampageやOutburstに関する技術的な話を聞いた。インタビュアーは、CGクリエーターの喜多曜介氏

--PS2では、何人の群衆を秒間60フレームで再生可能なんでしょうか?

「PS2では、おおよそ1000人から3000人です。Rampage自身の性能という意味では、物理メモリーの制約で上限が決まります」

「我々は、フランスで開催されたサッカーのワールドカップにおいて、8000人の群衆がスタジアム内でどのように動くかというシミュレーションを、IBMのワークステーションで計算しました。つまり、最低でも8000人をリアルタイムで動かすことができるということになりますね」

ケヴィン・チャング氏は同社のプロジェクト・マネージャーを務めており、技術面での中心的な存在だケヴィン・チャング氏は同社のプロジェクト・マネージャーを務めており、技術面での中心的な存在だ



--そのシミュレーションにおいて、群衆の個々に対して知恵やIQ、感情といったパラメーターを与えることができますか? そうすれば、ワールドカップの会場で事件が起こったときに、群集がどのように行動するかをシミュレートできると思うのですが

「多分、Rampageならそういうことが可能です。ですがパラメーターを1つ1つのパーティクルに対して設定するとなると、8000通りのパラメーターが必要なので物理的に無理だと思いますが(笑)。理論的にはもちろん可能です」

--将来的には、グラフィックアクセラレーターのように、クラウドアクセラレーターみたいなハードウェアが出る可能性はあるのでしょうか?

「できるかもしれないですね。CPUに負担が掛かっているのなら、チップ化するというのが通常の流れです」

「PS2の場合は“Emotional Engine”という基本的な演算チップが載ってますので、それに物理計算を任せればよいという形になっています。我々に課せられているのは、そのチップに対して物理ライブラリーの最適化を行なっていくことだと思います」

--群衆の行動心理はどのように生成されるのですか?


「基本的に、すべて数式ベースです。どれくらい近づいたらどっちの方向に動くか、という数式が用意されており、それぞれのオブジェクトに適用されることで動きが発生します」

「数式は基本的に1つだけなんですが、パラメーターを追加/変更していくことでバリエーションは増えていきます。適用する関数が1つでも、変数(パラメーター)によって答えがまったく違ってくるということです」

--ライトの光などに反応させることはできるのでしょうか? 例えば、ゴキブリなら光から逃げるだろうし、蛾なら寄っていくと思います


「そういった場合、どのような反応をするかのパラメーターを変えます。Ramapageでは、ゲームメーカーが要求するパラメーターを自由に追加したり拡張することも可能です」

「我々の作ったデモ映像には、実在の街並みを参考に作った空間に人物キャラクターを配置し、その中で動かすというデモがあります。ここでは、各キャラクターに他のキャラクターとの距離を保つようにする、というパラメーターを与え、互いに心地よい距離を保たせているわけです」

この町並みは、同社がオフィスを置くサニーベール市の風景を再現している。各人物には、それぞれパラメーターが与えられており、個々の判断で動きを決定している
この町並みは、同社がオフィスを置くサニーベール市の風景を再現している。各人物には、それぞれパラメーターが与えられており、個々の判断で動きを決定している



「このデモでは、オブジェクトやキャラクターをSOFT IMAGEで作成しています。それをRampageにインポートして動きを与え、その後SOFT IMAGEに戻してレンダリングをするという手法で作られています。このデモ画像ぐらいのコンテンツならば、Rampageに慣れていれば、1人のオペレーターが1~2週間で作ることができます」

「群衆化して動くことをフロッキングといいます。群衆がある一定のスプラインに沿って、その中で近づいたり離れたりしながら進んでいくのがフロッキングです。群衆の中にタイヤが転がっていったらみんなは離れて避けますが、また集まって一つの集団を形成するということも可能です」

フロッキングの例、スポーツカーが恐竜の群れに向かって走っていく
フロッキングの例、スポーツカーが恐竜の群れに向かって走っていく



恐竜の脇をすり抜けるスポーツカー、恐竜にはスポーツカーを追いかけるようなパラメーターを与えられている
恐竜の脇をすり抜けるスポーツカー、恐竜にはスポーツカーを追いかけるようなパラメーターを与えられている



恐竜の群れとスポーツカーが錯綜しているところ。恐竜一匹ずつの動きをプログラミングすることなく、自然な動きを再現している
恐竜の群れとスポーツカーが錯綜しているところ。恐竜一匹ずつの動きをプログラミングすることなく、自然な動きを再現している



--個々のキャラクターは一つのパーティクルで表現されていますが、人々が互いに乗っかったり、押し合ったりということはできますか?

「いいえ、今のシステムでは人の動きは全て平面上で行なわれています。丘を乗り越えたりすることはできますが、他のオブジェクトの上に乗ることはできないんです。しかし、Rampage自体は非常に拡張性があるので、ゆくゆくは可能になるでしょう。現時点でも、人が倒れたらその上に乗っかるという動きはできます」

--服とか髪のシミュレーションはやっていますか?


「髪の毛のゆらぎや動き、服にも応用することが可能です」

--Outburstではどのようなことができるのですか?

「例えば、木の生えているところでは風の吹き方も変わりますから、風の強さや向きなどが与える影響も計算できます。また、薪が燃えるデモがあるのですが、ここでは火元からの距離によって、パーティクルの長さや色、透明度を変えています。このデモでは、40~50の少ないパーティクルで炎をリアルに表現できるのです」

炎の物理シミュレーション映像。わずか40~50のパーティクルで表現されている
炎の物理シミュレーション映像。わずか40~50のパーティクルで表現されている



「石が壁にぶつかって砕けるシーンを何度か繰り返すと、破片が別のパーティクルになって壁にくっつくというシーンを作り出したりすることもできます。変数を与えることにより、毎回同じ動きをさせたり、反対に動きをちょっとずつ変えることが可能なのです」

「映画の場合は撮影の都合上、毎回のシミュレーションで同じものを作らないといけません。しかし、何回もプレイできるゲームでは、毎回同じ動きではつまらなくなってしまいます。だから、ちょっとずつ違うものを生成することができるようにしてあるのです。こうした動きを、Rampageはリアルタイムで生成します」

「これまで、こうした物理シミュレーションが必要なときは、デザイナーがプログラマーに頼んで全部作ってもらっていました。それが、Rampageを利用することでCGアーティストとデザイナーの2人いればよくなるのです。RampageはSDKで提供されますから、パラメーターをプログラマーに渡せば、プログラマーは彼らの思うとおりのビヘイビア(振る舞い)を再現することができるわけです」

「PS2では、そういった部分が大変有効になると思います。やはり、物理演算をしないとゲームとして成り立たないですからね」

・インタビュー協力:皆川武氏(tmina@hh.iij4u.or.jp)
アニメーションサイエンス社の日本におけるコーディネーター。同社とSCEIとの間に立ち、日本企業とのコミュニケーションやビジネスナビゲートの調整役を務めている。

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