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【デジタル・パブリッシング・ウォッチ】Vol.002 CTPをフル活用した新雑誌“Effects”――エムディーエヌコーポレーション代表の猪股裕一氏に訊く

1999年10月12日 00時00分更新

文● text by 千葉英寿

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いよいよ今回は、これまでの印刷の工程を覆す“CTP(Computer To Plate)”をフルに活用した新雑誌“Effects”誌を創刊した(株)エムディーエヌコーポレーションの代表取締役社長・猪股裕一氏へのインタビューをお届けする。

“フルCTP雑誌”はなぜ生まれたのか?

CTPワークフローを実現することにより、広告や出版にはどのような影響が起こるのだろうか。商業印刷に向いた手法ながら、まだまだ具体例の見られないCTPワークフローを実践、制作をしている国内初の“フルCTP雑誌” 『Effects』誌。この発行人である(株)エムディエヌコーポレーションの猪股裕一氏に話を伺った(以下、段落末の句点を省略)。

エムディーエヌコーポレーション、猪股氏エムディーエヌコーポレーション、猪股氏



――世界的に見て、日本でのCTPの導入は進んでいるのでしょうか?

「昨年行なわれたDRUPA(注1)ではCTP一色でした。そうした流れにある中で、('99年)7月に行なったJPC(注2)の調査で、日本では印刷のデジタル化が思いのほか進んでいないことがわかりました。ワークフローを変えることで、コストを下げられるのですが。先進的な業態についていけていないのが、日本の印刷の現状です」

(注1)DRUPA:ドルッパ。ドイツ・デュッセルドルフ市で行なわれている世界的な印刷機器展示会 (注2)JPC:Japan Publishing Consortium。猪俣氏が理事長を務めるデジタル・パブリッシング関連の業界団体

――となると、日本の印刷会社でCTP制作ができるのは何社ぐらいなんでしょう。

「大手の印刷会社も含めて10社以内ではないですか?」

――そうした状況下で新雑誌『Effects』誌をCTPを使って制作しよう、と考えた経緯は?

「私たちが発行しているMdN(注3)の初号は、写植を使って制作しました。ところがこれはとても高かったのです。それから1度も写植はなしで、2号からはライノトロニック(注4)を使って、実験しながらフルDTPで制作したわけです」

「CTP制作については一部MdNでもやってみたことがありました。デジタル系の雑誌(『Effects』はCG、デジタルムービーの専門誌)でCTPをやる必要はあまりないのかもしれませんが、新雑誌なのでコストを下げたいということがありましたので」

(注3)MdN:エムディエヌ。『Macintosh Designers Netwaork』の略。デジタルデザイン専門誌の老舗的存在 (注4)ライノトロニック:Linotype社の世界初のイメージセッター

――やはりMdNとしては、まずウチがやらなきゃ、ということもあったのはないのでしょうか?

「そうですね。そう捉えていただいてもいいですよ(笑)」

おおよそ3割のコスト減!

――導入している印刷会社が少ないとなると、CTPでの制作を依頼した印刷会社はやはり大手だったのでしょうか?

「実際、最初に大手の印刷会社に見積もりをお願いしました。ところが‘CTPで制作したとしても、御社にお見積もりできる価格は(これまでの場合と)同じです’と言われました。実はこうしたことが日本のデジタル化を遅らせているんです」

「結局、大手の印刷所を経ずに先進的に新技術を取り入れている岐阜にある印刷会社で、大丸印刷というところにお願いしました。彼らの見積もりは、それなりにリーズナブルで論理的な価格でした」

(筆者註:CTPを使えば工程短縮とデジタル管理で多少なりともコスト減が見込めるはずだが、実際にはさまざまな弊害があって難しいのが現状ではある。しかし、大手ならばそれも可能なはずなのだが……)

――理論的な見積もり、とのことですが、実際にはどの程度のコスト減がはかれたのですか?

「印刷代だけですが、大手と比較して50:35ぐらいに圧縮できました。おおよそ3割減の見積もりですね」

――やればできるんですね(笑)。CTPを活用することで、これまでのやり方とは異なると思うのですが、実際にはどういった部分が変化しましたか?

「最も象徴的なことは校正紙がないことです。日本での印刷は校正紙に合わせてやっています。CTPには校正紙というものがないので、印刷側には信じるものがないわけです。今のワークフローでは、日本の印刷屋さんで校正紙なしでできるところは少ないのが、現実です」

――制作コストを下げたことで、雑誌自体の価格に影響は出るのでしょうか?

「残念ですが、それはありません。というのは、日本における雑誌づくりというものは、制作コストよりも、いかに読者に受けるネタを提供し、クライアントに受ける方向性を打ち出せるかで、刷部数も決まってくるからです。広告のファクターが大きいこともあります」

MdN編集部にて。同フロアに立ち上がったばかりの“Effects”編集部もある
MdN編集部にて。同フロアに立ち上がったばかりの“Effects”編集部もある



何を持ってお互いを信じるのか?

――CTP制作を行なってみて、どういうところに問題点、課題点があったのでしょうか?

「今回、制作する上での体制が、デザイナーは外部デザイナーで渋谷・並木橋、編集部は市谷、印刷に至っては岐阜というわけで、ばらばらの場所でそれぞれの作業をしたわけです。雑誌の印刷をやっていた人には限りなく不安な状況でした。そうした中でどうしても確認しきれない状況ということはありました」
 
「編集自体に時間的もあまり余裕がなかったので、最終入稿を終えたところでバタンキューで、印刷前のチェックのために岐阜に行く、というのはできなかったんです。それに朝明けてすぐに新幹線で駆けつけてもそのころには印刷が半分以上進行している、というスケジュールでしたから、結局は先方を信じるということになりました」

「具体例としては、画像まわりに入れたはずのラインが印刷されていなかった、ということがありました。かなり細かな点でしたので、QuarkXPress上では、チェックするのが不可能な部分でした。これを解決するには、編集、デザイン側の事前チェックの際に使用するカラープリントの精度を上げるとか、DDCP(注5)で校正してみるということがあげられます」
 
「何を持ってお互いを信じるのか。そこにはプロファイルなど色管理の問題をはじめ、いくつも解決していかなければいけない規則ごとがありそうです」

編集部注:プロファイル=カラーの画像データを出力機器に与えたとき、(データにおける)どの色が出力時にどう発色するかという出力機器の機種ごとの属性データ (注5)DDCP:Direct Digital Color Prooferの略。より印刷に近い色を再現するカラープリンター。CTPには欠かせない色校正システムといえる

――CTPが普及することでどのような影響が出てくるのでしょうか?

「まず、フィルムがいらなくなるということがありますね。それに色の問題がクローズアップされますから、カラープリンターの精度が上がる、カラープロファイルが良くなるということが考えられますね」
 
「しかし、まだまだ色が合わないなどカラーマッチングの問題、フォントの問題など心配ごとはたくさんあります。色については、デザイナーは本当に色合わせをやっているのか、ということも問題になってきます。これはたぶんに業界的な課題ということになりますが」

編集部注:カラーマッチング=最終的に思った色に発色するように、カラー画像データのカラー指定値を調整したり、変換したりすること。あるカラー画像データを印刷したら、ある色に発色したとする。しかし、その画像データをCRTやカラープリンターにそのまま出力すると、印刷とはかなり違う色味が出る。それをもとに、色のチェックをしても意味がない。画像データが印刷したときと同じよう発色するように、CRT出力時やカラープリンター出力時にデータ変換を施す(その変換後のデータを出力する)といった処理が、カラーマッチングの1つの典型例である

猪股氏によればCTPワークフローにおける大きな課題は色にあるようだ。それは印刷側での問題でもあるが、もっとも重要なのはその色をデザインしている側であるデザイナーがきちんと理解し、色合わせをしているのか、ということになる。たしかにモニターと印刷、つまりRGBとCMYKという根元的な問題がそこにはあるが、これを解決するためにツールはさまざまなものがすでに存在している。今後は色が分かるデザイナー、という当たり前のようなことが求められてくるようになるのかもしれない。

編集部注:CRTでは、Red、Green、Blueの光の3原色をもに色を作り、印刷では、Cyan、Magenta、Yellowの絵の具の3原色と、Blackをもとに色を作る

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