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IDC Japan、IT産業の近未来を解説するフォーラム“Directions '99 Tokyo”を開催

1999年10月04日 00時00分更新

文● 編集部 鹿毛正之

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IDC Japanの略称で知られるインターナショナルデーターコーポレイションジャパン(株)は1日、東京・港区の赤坂プリンスホテルに250名の参加者を集め、“Directions(ダイレクション) '99 Tokyo”を開催した。これは、IT業界専門の調査会社であるIDC Japanが、IT市場における方向性や市場の予測を解説するというフォーラム。米IDCから多くの講師陣を迎え、合計で14のセッションが開催された。

セッションでは3つのトラックが設けられ、それぞれ“世界のIT市場”“日本のIT市場”“半導体産業”をテーマに、最新の調査結果から分析された市場予測がレクチャーされた。本稿では、基調講演および一部セッションの内容を紹介する。

2003年、IT投資額は1000兆円規模に

フォーラムの冒頭、同社代表取締役の武藤健司氏が、“未来市場へのアプローチ”と題したスピーチを行なった。

IDC Japanの代表取締役を務める武藤健司氏
IDC Japanの代表取締役を務める武藤健司氏



武藤氏は、成長著しい米国の経済モデルを“ニューエコノミー:新しい経済モデル”と位置付け、ITをベースとした経済が人・物・金を効率的に動かすモデルとして機能しているという分析を紹介した。ニューエコノミーにおいては、業務上の様々なトランザクション(手続き)が省力化され、経済活動の効率化が推進されることで、物流の再構築が起こるという。

こういった経済効率化のシステムを構築するため、ニューエコミーに対する投資は年々増大し、'98年には全世界で2110億ドル(23兆円弱)だった投資額が、2003年には15兆5000億ドル(約1680兆円)へと急激に増大するという見通しを語った。

“B to B取引”がIT経済を引っ張る

続いて、米IDCにてグローバルリサーチ担当の上級副社長を務めるフィリップ・ド・マシャック(Philippe de Marcillac)氏が、“Where is The IT Market Going? IT Oppotunities in Review”(ITマーケットはどこへ向かうのか?)と題した基調講演を行なった。

「日本のベンダーは世界市場に目を向けるべき」と語る、マシャック上級副社長
「日本のベンダーは世界市場に目を向けるべき」と語る、マシャック上級副社長



マシャック氏はまず、アジア太平洋地区における経済危機と回復について、ここ1年ほどの状況を解説。続いて、インターネット経済の成長ぶりに言及した。

マシャック氏によれば、現在のインターネット経済では、“B to B取引”(ビジネス・トゥ・ビジネス)が牽引役を担っているという。インターネット経済の初期段階では、企業から消費者へという取引の流れ(B to C=ビジネス・トゥ・コンシューマー)が中心だったが、今ではB to Bが市場規模でB to Cを追い抜いているという。

また、世界的にIT分野への投資は伸張していくが、日本は世界平均に比べて低い成長率を記録するという観測を見せた。ただし、日本におけるIT投資が産業界の要請に見合う規模に追いつくのであれば、21世紀において日本が再び経済分野での覇権を握る可能性もあるだろうと語った。

「インターネット担当の役員は楽観的」

基調講演の2人目として登壇したのは、米IDCのeビジネスリサーチ担当副社長であるショーン・カルドー(Sean Kaldor)氏。“Success Strategics for the New Internet Economy”と題し、eビジネスに焦点を当てたスピーチを行なった。

「現在、もっともeビジネスに進出している分野はバンキング・証券だ」と語るカルドー氏
「現在、もっともeビジネスに進出している分野はバンキング・証券だ」と語るカルドー氏



カルドー氏は、これからの4年間はeビジネスの分野に過酷な競争の時代が訪れると指摘。'98年には400億ドル(約4兆3000億円)だった全世界の市場規模が、2003年には9000億ドル(100兆円弱)にまで成長するという見通しを披露した。

また、米国を例に挙げ、eビジネスを利用するインターネットユーザーの事例を紹介した。それによると、米国では世帯数の3分の1にインターネットが普及しており、その内の半数以上がオンライン通販などのeビジネスを体験しているという。また、インターネットユーザーの半数以上は女性で、そのため女性をターゲットにしたサイトが隆盛を保っていると分析した。

加えて、現在すでにインターネットユーザーの半数以上が米国外に居住しており、インターネットが米国主導型だった時代はすでに過去になったと断言。2003年には米国以外のユーザーが3分の2を占めるとの予測を見せた。

ビジネス分野におけるeビジネスについては、各企業において、eビジネス担当副社長などの肩書きを持つ“インターネットエグゼクティブ(役員)”が増えてきていると指摘。これらのインターネットエグゼクティブは、従来のエグゼクティブと比較して、“リスクを恐れず、創造的で、楽観的で、新らし物好き”な傾向があるという調査結果が出ているという。この傾向が、企業のIT投資を増大させる隠れた要因になっているとのことだ。

フリーPCからフリーISPの時代へ

基調講演の最後を飾ったのは、ワールドワイド・パーソナル・システム・リサーチ担当の副社長であるブルース・スティーブン(Bruce Stephen)氏。“The Old Guard: PCs”というスピーチで、パソコン本体の市場動向について解説した。

「プラットフォームだけでは生き残れない、サービスが必要」と強調するスティーブン氏
「プラットフォームだけでは生き残れない、サービスが必要」と強調するスティーブン氏



スティーブン氏によると、先日の台湾大地震がパソコン市場に及ぼす影響は100万台規模。決して小さい数字ではないが、世界全体の出荷台数が年間で1億台を超える現状から見れば、市況を左右するほどの影響は出ないとのことだ。

また、台数的には隆盛を誇るパソコン市場だが、成長カーブを見ると現在は中だるみの時期とみなすことができ、危機の兆候を見逃してはいけないという注意を促した。

注目したいのは、'99年前半におけるパソコン販売台数の市場シェア。スティーブン氏が挙げた数字によると、格安パソコンで名を馳せた米eMachines社が約1.5パーセントで12位に食い込み、会社設立後1年足らずで世界的なプレーヤーにのし上がってきているのがわかる。

また、米国ではおなじみとなった“フリーPC”も、急上昇中のビジネスモデルとして紹介された。ただ、これからはフリーPCは段々と影をひそめ、代わってインターネット接続を無料で提供する“フリーISP”が、主要なビジネスモデルになっていくだろうと語った。

これらのビジネスモデルが生まれてきた背景として、スティーブン氏は勝ち組企業が戦略を転換してきていると指摘。その新戦略とは、パソコン販売はあくまで売上を確保する手段とし、利益はサービスから得るというものだ。すでに1000ドル以下のパソコンがボリュームゾーンとなっている米国においては、スティーブン氏の指摘はもっともなものだと言えるだろう。

ワードやエクセルをネット経由で使う時代が来る?

全部で14のセッションが開催された今回のDirections '99 Tokyo。テーマはIT市場の見通しに関するものが多かったが、次世代のビジネスモデルと言われる“アプリケーション・サービス・プロバイダー”について言及したセッションの内容を紹介する。

“The Business Solutions Challenge”と題したセッションを担当したのは、マイケル・メレノブスキー(Michael Melenovsky)氏。米IDCにてワールドワイドサービスインダストリー担当の副社長を務めるメレノブスキー氏は、ハードウェア市場が成熟しつつある現在、サービス分野では、まだまだ新しいビジネスモデルが伸張しているという現状を紹介した。

メレノブスキー氏は、IT関連のサービスは将来的にも高い成長を維持する分野であると指摘。近年、様々な業務をアウトソーシング(外部委託)する企業が増えており、それらの業務を受託する“サービスプロバイダー”の市場規模が大きく伸びているという。そして、'98年ごろから台頭してきた新しいサービスとして、アプリケーションの使用そのものをアウトソーシングする“アプリケーション・サービス・プロバイダー”(ASP)を挙げた。

ASPは、プロバイダーがパッケージソフトやERPソフトといったソフトウェアを用意し、ユーザーがネットワーク経由でそれらのソフトを“時間借り”で利用するというもの。成長段階にあるベンチャー企業や中小企業にとって特に有効なサービスで、企業規模や経営戦略に即した柔軟なソフトウェア活用を可能にするという。

メレノブスキー氏は休憩時間の合間にも、ASPについての短いセッションを行なった
メレノブスキー氏は休憩時間の合間にも、ASPについての短いセッションを行なった



ASPが伸張してきたのは米国でもここ1年ほどと、かなり若い分野にあたる。だが、日本でも9月29日、SSJ(株)/(株)CSK/東芝エンジニアリング(株)などが共同で、ASP事業を始めると発表したばかりだ。米IDCの予測によると、'99年には1億5000万ドル(約115億円)に過ぎない市場規模も、2003年には20億ドル(約2100億円)規模へと急成長を遂げるという。

ちなみに、ASPの料金体系は、月額1000ドルほどの基本料金をベースに、時間単位で加算される方式を採っている(一種のタイムシェアリング)。前述のSSJなどが発表したサービス料金は最低数十万円とのことで、米国での価格と大きな乖離はない。

ASPでは、ネットワークとしてインターネットではなく、専用回線やWANを利用する。この理由としてはセキュリティーのほか、回線速度の維持や、データの保護が挙げられるという。ASPのボリュームゾーンは企業向けのERPや認証ソフトなどだが、個人向けにワードやエクセルといったアプリケーションをアウトソーシングするビジネスモデルもありえるのだそうだ。

ネットワーク越しにソフトウェアを利用するモデルとしては、これまでにもオフィススイートをJavaに完全移植する例や、ネットPC/シンクライアントを利用する例が紹介されてきた。だが、いずれも商業的に成功を収めたとは言いがたく、本格的に乗り出す企業も少なかった。だが、ASPの分野では、米IBMや米サン、米AT&Tといった主要企業が“ASPコンソーシアム”を結成し、本格的な展開に乗り出している。今年中にも、ASPがIT業界において、重要なキーワードになることは間違いないだろう。

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